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第92話 遠慮は要りませんよ

 眠そうだったはずのフィーリの目が、一瞬だけ真剣な光を帯びる。


「ありあり、強くなった?」


 従妹の指摘に、アリスは少し驚きつつも、ゆっくりと首を振った。


「……まだまだ、全然よ」


 すぐにまた眠たそうな目に戻って、フィーリは「そ」とだけ返す。


「ともかく、生徒会を代表して謝罪いたします。エデルくん、申し訳ありませんでした」


 そんな二人のやり取りを余所に、セルティアがエデルに頭を下げた。


「謝罪だけで気が済まないというのであれば、この鞭でわたくしを打っていただいても構いません。いえ、遠慮は要りませんよ。ぜひとも思い切り、できれば口汚く罵りながら全身を傷めつけていただけると大変喜びますハァハァ」

「?」

「っと、失礼。一年生のあなたにはまだ早い世界の話でしたね」


 首を傾けるエデルに、鼻息を荒くしていたセリティアが、すっと真顔になって咳払いする。


「それから、彼らの後処理はわたくしたちにお任せいただいてもよろしいでしょうか? 無論、二度とこのようなことがないよう、生徒会として厳重に処罰いたしますので」


 セリティアの提案に、エデルは「うーん」と唸った。


「うーんじゃなくて、ここは先輩たちに任せておきなさい」

「それが人間界の常識なの?」

「そうよ」

「じゃあ仕方ないか」


 せめて自分の手でしっかり調教を施しておきたいエデルだったが、ここはアリスの言うことに従うようだ。

 一応、人間界の常識に合わせようという意思はあるのである。


「その代わり……」


 エデルは一歩、拘束されたシリウスに近づくと、その顔を覗き込みながら告げた。


「次また来たら、今度こそ容赦しないからね?」

「~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」


 目の前から強烈な殺気をぶつけられて、顔面蒼白になるシリウス。

 涙と鼻水と汗を噴き出し、ガクガクと身体を震わせながら、ぶんぶんぶんと首がもげそうなほど頭を縦に振った。


「っ……なんていう殺気ですか……これが本当に一年生のもの……?」

「……人間じゃない」


 エデルの放つ殺気に驚きながらも、セルティアとフィーリの二人は、他の生徒会メンバーたち四人を引き連れて去っていく。


「じゃあ、僕たちも戻ろっか」



    ◇ ◇ ◇



「第二席を含む生徒会が、四人がかりで敗北しただって……?」


 その報告を受けたこの国の第三王子、セネーレ=ロデスは忌々しげに吐き捨てた。


「はっ、どうやらあのハイゼンを倒したというのも、あながち嘘じゃないみたいだね」


 彼は英雄学校のトップの座を手中に納めるため、現校長にして英雄でもあるマリベルの排除を計画していた。

 だが学校の教師であるハイゼンを利用したその作戦の一つが、失敗に終わってしまったのである。


 それも、英雄学校につい最近、編入してきたという一年生によってだ。

 さすがにその少年が、セネーレが用意した機竜を破壊したとは到底思えないが、マリベルが直々に編入を認めたというこの平民は、早めに排除しておくに越したことはないと考えたのである。


 ただ、マリベルには先日の一件もあり、すでに疑われているような状態だ。

 幾ら王子といえ、あまりやり過ぎるわけにはいかない。


 そこで生徒会を動かすことにしたのだ。

 生徒同士のいざこざとなれば、セネーレ王子に疑いの目が向けられる可能性も低いだろう。


 無論、セネーレ自身が直接、生徒会のメンバーたちに指示を出したわけではない。


 学校の教職員の中には、彼が意のままに動かせる者が何人もいる。

 そうした子飼いの連中たちを利用すれば、貴族至上主義の生徒会メンバーを焚きつけるなど、決して難しいことではなかった。


「しかしこれで、是が非でもそいつを排除しておくべきということになった。確実に、しかも秘密裏に処理するとなると……」


 とそのとき。

 彼の考えを予想していたかのように、どこからともなく声が聞こえてきた。


「……殿下。それならば、私にお任せを」

「お前か。そうだね。確かにお前なら適任だろう。必ず奴を仕留めてくるんだ」

「御意」


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― 新着の感想 ―
[一言] 殺人未遂の生徒会の役員達、慰謝料支払って退学が最低限の処置でしょう。
[一言] 甘すぎるな。 治せるのを黙っていて十分に反省するまで片腕片足切り落としてアイテムボックスに入れときゃいいのに。 自分ならそうする。
[気になる点] 調教のし甲斐がありそうな敵がやってきそう。
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