第86話 あんまり強くなさそう
「どうだい、こんな剣、見たことないだろう?」
魔装化したゲルゼスが勝ち誇ったように言うが、エデルは魔界で何度か似たようなタイプの魔剣を見たことがあった。
「(むしろこの魔剣、あんまり強くなさそう)」
そんなエデルの内心を余所に、ゲルゼスは「ありとあらゆる攻撃を完全に無効化してしまう」と豪語している。
「(いや、そんなわけないでしょ。確かに防御力は高いけど、無効化は言い過ぎだよ)」
ただ、エデルが手にしている支給品の剣では、剣の方がダメになってしまうかもしれない。
そこで彼は剣を捨てた。
「(亜空間に仕舞ってある剣はあるけど、使わなくて大丈夫だね)」
拳を振りかぶったエデルは、迫りくるゲルゼスの胸へと正拳突きを放つ。
「くはははっ! なんて馬鹿なんだ! まさか素手で殴ってくるなんてさ! この鎧は刀身そのもの! 触れただけで腕が斬り飛ん――」
哄笑するゲルゼスだったが、彼の胸部に突き刺さったエデルの拳は、傷つくどころか、そのまま鎧の中までめり込んでいった。
「へ?」
ズドオオオオオオオオンッ!!
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
轟音と共に、凄まじい衝撃に吹き飛ばされるゲルゼス。
それは先日、教室の窓から外へと弾き飛ばされたとき以上の衝撃だった。
「ぐがっ!?」
ダンジョンの壁に叩きつけられ、それから地面に激突する。
「ば、ば、馬鹿、な……」
見ると彼の自慢の鎧には、無数の亀裂が走っていた。
直撃を受けた胸の部分に至っては、粉砕されて穴が空いている。
「たった一撃で……この鎧が、破られるなんて……」
戦慄しているのはゲルゼスだけではない。
「な、な、何だってんだよ!? 今あいつ何をしやがった!? 素手で魔装状態のゲルゼスを吹っ飛ばしやがっただと……?」
ネロが目を見開いて叫ぶ。
「と、闘気よ。凄まじい闘気で拳を覆って、殴りつけて……いやいやいや、だからって、あんな真似……」
ミラーヌもまた愕然と声を震わせた。
「……どうやら想定を大きく超えていたようだ。ネロ、ミラーヌ、全員でかかるぞ」
ようやくエデルの実力を察したのか、シリウスが命じる。
ネロとミラーヌは頷き、即座に戦闘態勢へと移行した。
そんな彼らに、エデルは言う。
「ええと……そっちが本当にヤる気なら……こっちも容赦しないよ?」
そして殺気を爆発させた。
「「「~~~~~~っ!?」」」
全身に圧し掛かる猛烈な圧力。
英雄学校の頂点に立つはずの生徒会の面々が、一瞬にして気圧され、思わず後退った。
「(な、何だ、こいつは……っ!? この私の身体が、震えている……っ?)」
内心で息を呑むシリウスだったが、ここで引くわけにはいかない。
血が出るほど拳を強く握り締め、強引に震えを止めると、吠えるように叫んだ。
「怯むな! 行け! 幾ら強くとも、所詮は平民の一年だ! 生徒会の力を見せつけてやれ!」
「は、はいっ!」
「りょ、了解よ……っ!」
地面を蹴り、真っ直ぐエデルの方へと突っ込んできたのはミラーヌだ。
肩に背負っていた二本の剣を抜くと、まだかなり間合いの外だというのに、彼女は舞うように双剣を振るった。
シュルルルルルルルルルルルッ!
すると刀身が伸長し、まるで二匹の大蛇のごとくエデルへと襲いかかってくる。
「よっと」
左右から蛇行しつつ迫りくるそれらは、動きを読んで回避するのが難しいはずだったが、エデルは最小限の動きだけであっさり躱してしまう。
「っ……まさか初見で避けるなんて……っ! けど、この剣の真骨頂はここからよ!」
ミラーヌが手首を返すと、それに即応して二本の刀身が瞬時に向きを変えた。
そして身体を串刺しにせんと、再びエデルへと迫る。
「ほいっと」
だがそれもエデルを貫くことはできなかった。
またしても簡単に避けてしまったのだ。
「み、見切られてる!?」
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