第74話 習得するのに何年もかかったんだぞ
斬撃を防いだエデルは、至近距離から魔力を放出。
その衝撃を受けて、ゲルゼスが吹き飛んだ。
パリィンッ!
窓ガラスを割り、校舎の外まで放り出されるゲルゼス。
「がっ……な、何だ、今のは……?」
「もしかしてやる気? その気なら……応じるけど?」
「っ!?」
彼が気づいたときには、すでにエデルが近くに立っていた。
軽く殺気を放つエデルに、ゲルゼスの身体がガクガクと震え出す。
「(な、何だ……身体が、勝手に……)」
本気を出せば、バハムートすら尻尾を巻いて逃げ出すのがエデルの殺気である。
軽くとはいえ、並の人間だったら気を失っていてもおかしくない。
しかしその光景を近くにいた他の生徒たちが見ていた。
「おいおい、喧嘩か?」
「けど、五年と一年だぞ? 近さの差があり過ぎるだろう」
「ねぇ、あれって……生徒会のゲルゼス様じゃない?」
「本当だわ。地面に座り込んで……何をされてるのかしら?」
ゲルゼスはその甘いルックスもあり、女子生徒たちからの人気が高い。
本能的な恐怖を抱いていた彼は、そんな周囲の声で我に返った。
「(っ……ここで情けない姿を晒すなんてっ……グレイゲル家の人間として、ナインスターズとして、絶対に許されるわけがない……っ!)」
猛烈な羞恥と矜持で立ち上がった彼は、血走った目で剣を構える。
「やる気みたいだね?」
「っ……と、当然だっ! この僕を侮辱したこと、たとえ一年であろうと容赦しない!」
次の瞬間、ゲルゼスが手にした剣が淡く輝き始めた。
刀身が彼の闘気を纏ったのだ。
「闘気剣っ! 剣を極めた者のみが使えるとされる最強の技だっ!」
「……最強の技?」
「そんなチンケな剣じゃ、さっきみたいに受け止めることもできないだろうっ!」
彼の剣は一級品。
対して、エデルが腰に提げているのは、学校から支給された鋼の剣である。
そもそもの武具の性能が段違いだというのに、ゲルゼスはさらに闘気によって大幅に攻撃力を強化しているのだ。
その様子を見ていた野次馬たちが騒めき出す。
「なっ……相手、一年だろ!?」
「あんな技まで使うとか、殺す気か!? 生徒会が一年に何やってんだ!?」
「お、おい、誰か、教師を呼んで来い!」
だがそんな周囲の声は、すでに興奮状態にあるゲルゼスには聞こえなかった。
「喰らええええええええっ!」
ゲルゼスが放つ渾身の斬撃。
哀れな一年生の身体は、間違いなく真っ二つにされてしまうだろうと、その場の誰もが息を呑んだ。
しかし、直後に彼らが目にしたのは、まったく予期しない光景だった。
ガキイイイイイインッ!!
エデルの量産品の剣が、ゲルゼスの闘気剣を受け止めたのである。
「ば、馬鹿なっ!? なぜそんな剣で、僕の闘気剣をっ……」
「見て分からない?」
「っ……そ、それは……っ!」
目を見開くゲルゼス。
彼には信じられないことに、よく見るとエデルの剣もまた闘気を纏っていたのだ。
「なぜ闘気剣を使える!?」
「あれ? これくらい誰でも簡単に使えるよね? さっき、最強の技とか言ってたけど……」
「そ、そんなわけあるか! この僕でも、習得するのに何年もかかったんだぞ!?」
闘気を身体の一部に集中させるよりも、剣などの物質に闘気を伝わせ、維持する方が遥かに難易度が高い。
それゆえ闘気剣は、剣の名門であるグレイゲル家においても、才能ある者にしか習得できない大技……のはずだった。
「え? 五歳くらいの頃には普通に使えたけど……」
「五さっ……う、嘘を吐くな!?」
ちなみにゲルゼスが習得したのは十五のときである。
五歳で習得などあり得ないと否定するゲルゼスだったが、すでに闘気を全開にしているにもかかわらず、拮抗状態が続いている。
いや、それどころか、逆に彼の剣の方が押し返され始めた。
「この僕が、押されっ……」
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