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第66話 ここを使うんだ

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……あ、兄貴……っ! も、もう無理っす! 限界っす! 腕が上がらないっす……っ!」


 息を荒らげ、滝のような汗を流しながら、涙目で訴えるのはガイザーだ。

 もはや剣を持っているだけでも辛いのか、腕がブルブルと震えている。


 しかしそんな彼に、エデルは無慈悲にもカウントを続けた。


「五千六百二十四回」

「げ、限界っすよおおおおおっ!」


 直後、ガイザーのすぐ背後の地面に描かれた魔法陣から鋭い雷が放たれる。


 バチンッ!


「ぎゃあああっ!?」

「はい、次は五千六百二十四回目だよ。早くやらないと、何発でも喰らうことになっちゃうよ?」

「ひぃぃぃぃぃっ!」


 残る力を振り絞って、何とか剣を振るガイザー。

 これが五千六百二十四回目の素振りだった。


 ガイザーがエデルに懇願した剣の指導が、早速行われていた。

 その内容は、ガイザーが予想していたそれを遥かに上回る過酷なもので。


「も、もう無理っすうううう……っ!」

「まだ五千六百二十四回だよ?」

「一体、何回素振りを続ければいいんすか!?」

「最低でも三万回だね」

「ささささささ三万っ!?」

「たったの三万じゃないか。僕は一時期、毎日十万回やらされてたよ?」


 じいちゃんに鍛えられたときのことを思い出して、懐かしく思うエデル。


「じゅっ……」

「はい、五千六百二十五回」


 バチンッ!


「んぎゃあああっ!?」


 もちろんこの懲罰的な雷撃も、じいちゃんにやられていたものだ。

 カウントされてから一定時間内に素振りを行わなければ、問答無用で激痛を与えられるのである。


「も、もう、とっくに限界、なんすよ……腕が……上がらなくて……」

「上がらないと思うから上がらないんだよ」

「そういう、問題じゃ……がくっ……」

「あれ? 気絶しちゃった。うーん、これはもうちょっと体力から付けていないとダメかなぁ」


 その後も様々な過酷なトレーニングが行われた。


 あるときは延々と走らされ。


「今日はランニングね。距離は百キロくらいかな」

「百キロ!? け、けど、素振りよりはまだマシかも……」

「あ、この荷物を背負って走ってね」

「っ!?」

「もちろん歩いたら雷撃だよ。はい、スタート」

「ちょっ、待っ……」


 バチンッ!


「ぎいゃあああっ!?」


 あるときは延々と筋トレをさせられ。


「今日は筋トレね。腕立て千回、腹筋千回、スクワット千回」

「ひいいいいっ!」

「それを三セット」

「三セットっ!?」

「もちろん途中で止まったら雷撃だよ。じゃあ腕立てからスタート」

「うおおおおおおおおおおおおっ!」


 バチンッ!


「ぎょえあああっ!?」


 またあるときは飛んでくる無数の石を躱し。


「全部避けてね。動体視力と瞬発力を鍛える訓練だよ」

「こ、これはまだ楽な方……?」


 ギュオンッ!


「って、速すぎいいいいいっ!?」

「当たったら痛いから気を付けてね」

「たぶん痛いどころじゃないっすよ!」

「あ、これも避けれなかったら雷撃ね」

「今までで一番ヤバい訓練だったああああああっ!」


 そんなふうにガイザーが想像を絶するような訓練を続ける一方で、アリスもまた、エデルの指導の下で魔法の猛特訓をこなしていた。


「ファイアボール!」


 アリスが放った巨大な火炎の球が、エデル目がけて真っ直ぐ飛んでいく。

 それを軽く掻き消しながら、エデルは満足そうに告げた。


「うん、だいぶコントロールできるようになってきたね」

「まだまだ出力が大き過ぎるけど、何とか普通の魔法を使えるようになってきたわ!」


 本人も自分の成長を実感しているようで、嬉しそうに言うアリス。


「ガイザーの方も十分な体力が付いてきたし、そろそろ実戦的な訓練に移ろうかな」







「あ、兄貴、実戦的な訓練って聞いてたんすけど……ここ、兄貴の部屋っすよね?」

「そうだよ」

「どういうことよ? こんな場所で訓練なんてできないでしょ?」


 その日、訝しむ二人を連れてきたのは、学生寮のエデルの部屋だった。

 実戦訓練を行うと聞いていたため、そろって首を傾げている。


 そんな彼らにエデルが案内したのは、


「ここを使うんだ」


 部屋の中に増設した亜空間だった。


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