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第51話 あと僅かの辛抱だけどな

「それではこれより、冒険探索の実戦授業を始めたいと思います」


 担任のシャルティアが告げる。


 冒険に必須となる基礎的な能力を身に着けさせるのが、一年時の「冒険探索」の授業だ。

 普段は教室で知識の詰め込みが中心となっている授業だが、野外へと赴いての実戦も定期的に行っていた。


 今回の実戦場所は、王都からそれほど遠くない場所に存在している森だ。

 非常に迷いやすいことで知られ、しっかりと現在地を把握しながら進まなければ、遭難の危険性もある。


 もちろん魔物も棲息している。

 ゴブリンやオークの他、樹木の魔物であるトレントなどで、それほど凶悪な魔物は出没しないが、それでも気を抜くと危険な森であることは間違いない。


 英雄学校の一年生には、ちょうどいいレベルの実戦場所と言ってよいだろう。


 一年生は全部で六つのクラスに分けられるのだが、今回は二つのクラスの合同授業だ。

 そのためシャルティアの他にもう一人、担任の教師が同行していた。


 そのクラスの担任を務めているのは、ハイゼンという名の男性教師である。


 三十代半ばほどの、すらりとした長身。

 端正な顔立ちゆえ女子人気は高いのだが、非常に厳格な性格ということもあって、特に彼が受け持つクラスの生徒の中には、苦手としている者も多い。


「詳しい内容はすでに聞いているはずだ。なので改めて説明は行わない。あとは各々のチームで与えられた課題をこなせ。いいな?」


 そのハイゼンが突き放すように言う。


 実戦授業に当たって、すでに十二組のチームに分けられていた。

 各チーム五人で構成されており、このチーム単位で課題に挑むことになっている。


「エデルくん今日はよろしくね!」

「うん、よろしく、ティナ」


 エデルが振り分けられたチームには、同じクラスのティナがいた。

 他の三人は別のクラスの生徒たちなので、顔見知りは彼女だけだ。


 チームのメンバーは、クラスをシャッフルする形で決められるのである。


 森の中に棲息している魔物を発見し、討伐する。

 それが今回の実戦授業で、各チームに与えられた課題だった。


 例えばゴブリンであれば一点、オークであれば三点、トレントであれば五点、というふうに強さや見つけにくさなどを考慮し、あらかじめ魔物ごとに点数が決められている。

 最終的に合計で二十点以上を獲得できれば合格だ。


 もちろん不合格だったからといって、授業の単位を落とすというわけではないのだが、どのチームも可能な限り毎回の課題をクリアしておきたいところだった。


「ていうか、エデルくんと一緒なんて、めちゃくちゃラッキーじゃん! これなら課題なんて楽勝だね!」


 クリアしたも同然とばかりに喜ぶティナ。

 それが耳障りだったのか、


「ちっ、うるせぇやつらだな」


 舌打ちと共に吐き捨てたのは、同じチームになった男子生徒だ。


「よろしく。僕はエデルだよ」

「……気安く話かけんじゃねぇよ」


 エデルが声をかけるも、そっぽを向いてしまう。

 ティナが苦笑気味に耳打ちしてきた。


「彼はグリス。確か、子爵家の長男だったはず。あの平民をナチュラルに見下してる感じ、いかにも典型的な貴族って感じだね~」

「なるほど」


 そういえばガイザーも最初はあんな感じだったなと、思い出すエデル。


「ねね、エデルくんならガイザーみたいにできないかな?」

「うーん、さすがに何もされてないのに、調き……指導はできないよ」


 調教、と言いかけて、エデルは咄嗟に言い直す。

 学習したのか、〝躾け〟よりも幾らかマイルドになっていた。


 一方、そのグリス少年は、不愉快そうにぶつぶつと呟いて、


「ったく、何でこの俺が、こんな平民どもと同じチームなんだよ。せめて平民は平民だけでチームを作りやがれ。やっぱクソだな、この学校は……」


 だがそこでニヤリと口端を歪めて、意味深な言葉を口にするのだった。


「……まぁ、こんな環境も、あと僅かの辛抱だけどなァ」


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