第41話 だいぶ前からその可能性を疑ってます
エデルたちが毒に対処している間に、リンは隠密状態のまま秘かにマンティコアに近づいていた。
そしてナイフを閃かせると、マンティコアの尾を思い切り斬りつける。
気配を消して接近し、一気に敵の急所を狩る。
それが彼女の得意とする暗殺術だ。
「ッ!? グルアアアアアアッ!?」
自慢の尾をざっくり斬られ、顔を歪めて絶叫するマンティコア。
だが、
「(くっ……硬すぎて一撃では斬り落とせませんでした……っ! しかもこのボスモンスターには尾が五本もある……っ! すべて切断するのは至難の業……っ!)」
厄介なマンティコアの尾を処理してしまおうとした彼女だったが、どうやらそんなに甘くはないらしい。
とはいえ、相手にはリンの居場所が分かっていないようで、キョロキョロと必死に周囲を見回している。
「(こちらの姿を悟られさえしなければ、また幾らでもチャンスがあるはず……っ!)」
と彼女は希望を抱く。
しかし次の瞬間、それはあっさり打ち砕かれることとなった。
「グルアッ!」
マンティコアが五本の尾を一斉に振り回したかと思うと、無数の毒針が一斉に四方八方へと散布される。
「しまっ――」
相手の居場所が分からなくても、これなら確実に当たると踏んだのだろう。
ボスモンスターの知能の高さに驚愕するリン。
まだすぐ近くにいた彼女には、飛来する毒針を躱すことはできなかった。
死を覚悟し、彼女が思わず目を瞑ったそのとき、
「よっと」
エデルが割り込んできて、迫りくるすべての毒針を目にも止まらない速度でキャッチしてしまう。
パラパラパラ、とエデルの手から毒針が地面に落下した。
「大丈夫?」
「(いやいやいや、まさか、あれを全部素手で取ったんですか!?)」
絶句するリンを余所に、エデルは姿を隠すこともなく、マンティコアへ堂々と近づいていった。
「グルアアアッ!!」
マンティコアが尾を豪快にぶん回すと、毒針付きの瘤が猛スピードでエデルへと迫った。
ただ毒針を飛ばすだけでは倒せないと判断したのだろう。
「ほい」
だがエデルは軽く瘤を躱し、と同時に尾をあっさり掴み取ると、
ブチブチブチッ!!
根元から強引に引き千切ってしまった。
「~~~~~~~~~~~~ッ!?」
声にならない絶叫を上げるマンティコア。
「マンティコアの尾を、力任せに引き千切っただとおおおおおおっ!?」
「一体どんな力をしているんですかああああああっ!?」
セレナとリンが愕然とする中、エデルはさらに別の尾も掴むと、またしてもブチブチと無理やり引っこ抜く。
「グルアアアアアアアアアアアッ!!」
マンティコアは激痛と激怒で凄まじい咆哮を上げると、残った三本の尾でエデルを攻撃しようとする。
しかしそれも彼を捉えることはできなかった。
ブチブチッ!
「グルアアアッ!?」
ブチブチッ!
「グルアアアッ!?」
ブチブチッ!
「グルアアアッ!?」
一本ずつ尾を千切り取られ、ついには五本あった尾をすべて失ってしまう。
「これでもう毒針は飛ばせないね」
「ガルアアアッ!」
「よいしょっと」
「~~~~ッ!?」
牙を剥いて噛みつこうとしたマンティコアだったが、自ら千切った尾をエデルが鞭のように振り回し、瘤を人面の下顎に直撃させる。
目を回してふらふらとよろめくボスモンスターの顔へ、エデルは容赦なく二撃目、三撃目を叩き込むと、ついに巨体は地面に倒れ込んだ。
「顔が変色してる。自分の毒なのに効くんだね」
マンティコアが絶命したのか、入ってきた扉とは反対側の壁に、先ほどまではなかったはずの扉が出現した。
ボスを倒さない限り、先に進むことができない仕掛けになっていたのだろう。
「さすが兄貴っす!」
賞賛しながら飛び跳ねるガイザー。
一方、セレナとリンの二人は、
「まさか、ボスをたった一人で倒してしまうとは……」
「ど、どう考えても、数十人がかりで、相応の事前知識と準備の上で挑むレベルのボスでしたよね……」
「……リン、もしかして我々は夢を見ているという可能性はないか?」
「わ、私もだいぶ前からその可能性を疑ってます……」
完全に引いていた。
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