第39話 荷物はどこにやった
「僕の経験上、この手のルートは、最下層へのショートカットになってることが多いかな」
そう言いながら先頭で通路を進んでいくエデル。
荷物持ちのサポーターだったはずが、いつの間にか一番前を歩いている。
「ということは、いったん最下層まで行って、そこから地上まで戻って来なければならないということか……相当な覚悟が必要だな」
「そうですね……さすがに、ボスを倒すのは難しいでしょうし……」
ダンジョンの最下層には、ボスと呼ばれる特殊な力を持つ魔物が存在していることがある。
ここ『千年遺跡』もその一つだ。
このボスを撃破することが、すなわちダンジョンの攻略を意味している。
多くの場合、ボスを倒せば自動的に地上へと転送され、ダンジョンから一瞬で脱出することが可能だった。
ただ、いつもはダンジョン探索部の部員、総勢三十名以上が力を合わせることで、討伐しているのがボスモンスターである。
たった四人で挑むなど、自殺行為に等しい。
「しかし生憎、一泊二日分の食料しか持ってきていない。最下層まで行き、一階ずつ戻ってくるとなれば、最低でも一週間はかかってしまう」
「治癒ができるメンバーがいないので、ポーションも十分に足りるかどうか……。ところで、ずっと気になっていたんですが、荷物はどこに行ったのでしょう……?」
そこでセレナの視線が、エデルの背中へと向く。
「っ!? ちょ、ちょっと待て!? エデル! 荷物はどこにやった!?」
「? 荷物ならこの中だよ」
そう言って、エデルが亜空間から物資が詰まった荷物を取り出す。
「「今どこから出てきた(んですか)!?」」
「亜空間だけど? もしかして知らないの?」
「亜空間だとっ? まさか時空魔法を使えるというのかっ?」
「そうだけど……そんなに驚くことかな?」
「驚くに決まってるだろう!? ほとんど使えるものがいないという、超高難度の魔法だぞ!?」
「そうなの? 長期のダンジョン攻略には必須の魔法だと思うけど……」
多くの物資を持ち込む必要がある長期間の探索では、荷物が非常に邪魔になる。
そのため亜空間内に保管しておくのが当たり前なのだ……魔界では。
「何で他のチームのサポーターは、みんな荷物を背負ってるのかな、って思ってた」
「時空魔法を使えるサポーターなんていて堪るか……っ!」
そこでリンが何かに思い至ったらしく、
「も、もしかして、転移魔法も使えたり……?」
「使えるよ?」
「さ、さすがにそれはないですよね……使えればダンジョンから脱出できるかと思ったんですが……って、使えるんですか!?」
驚愕して声を上げるリン。
「うん。ただ、あらかじめ転移先にマーキングしておかないとダメなんだ。位置がズレたりすると、地面の中とか壁の中とか、下手すると人の身体の中とかに転移しかねないから」
「なるほど……それはすごく危険ですね……」
リンは残念そうに頷く。
「いっかい魔物の体内に転移しちゃったことあったなぁ」
「それ大丈夫だったんですか!?」
「うん。お腹を突き破って外に出たよ」
「……」
想像してしまったのか、リンの顔から血の気が引く。
「それはそうと、さっきからずっと一方通行っすね?」
とガイザーが言う通り、真っ直ぐ通路が続いているだけで、横道も分かれ道もない。
しかも魔物がいる気配もなかった。
「あっ、扉っす!」
そのまま進んでいくと、両開きの大きな扉にぶち当たった。
他に道らしきものは見当たらないので、どうやらこの扉を進む以外にないようだ。
ガシャン!!
軽く触れてみると、大きな音と共に独りでに開いた。
その先にあったのは、かなり広い空間だ。
「……気を付けろ。この感じ、非常に危険なにおいがする。リン、調べてくれないか?」
「わ、分かりました」
ひとまず隠密能力に長けたリンが、内部を調査しようとする。
一瞬でその姿を認識できなくなり、ガイザーが羨ましそうに言った。
「にしても、その能力めちゃくちゃ良いっすね! もしオレができたら、女子の風呂を覗き放題なのに!」
「……最低だな」
「最低ですね……」
ガイザーが女性二人から蔑みの視線を向けられている間に、エデルはスタスタと勝手に部屋の奥と進んでいた。
「ちょっ、何をしている!? 危ないぞ!?」
「大丈夫。上から降ってくるだけだから」
そうエデルが告げた直後、本当に上から巨大な影が降ってきた。
ズドオオオオオオオンッ!!
激しい地響きと共に着地したのは、虎の身体に人面の魔物で。
「「「マンティコア!?」」」
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