第38話 人数制限があるみたいだね
「うわっ、本当に魔物だったぞ!?」
「聞いたことがある。高難度のダンジョンには、宝箱に化けた魔物が出現するって……それがまさかこんなところに……」
「ていうか、今、何が起こったんだ? 俺には勝手に壁に向かって飛んでいったように見えたが……」
「はははっ、随分と間抜けな魔物だな!」
エデルがミミックを倒した瞬間は、ほとんどの部員には見えていなかったらしい。
「(ま、魔物を裏拳で殴り飛ばしたように見えたのだが……? そもそも、宝箱に化けるような知能を持つ魔物が、自分から壁にぶつかって自滅するはずがない。先ほどのトラップのことといい、この一年生、実は途轍もない力を持っているのでは……)」
そんな中、微かに視認できていたセレナは、エデルの秘めた実力に気づき始めていた。
「だけど、せっかく隠し通路を見つけたのに、ハズレなんてついてないっすね」
宝箱が偽物だと知って、ガイザーが残念そうに言う。
「ううん、そんなことないよ。今のミミックは、むしろそう思わせるための仕掛けだね」
「? どういうことっすか?」
「こういうことだよ」
首を傾げるガイザーを余所に、エデルは何もないはずの壁へと歩いていく。
そのままぶつかってしまう、と思われたときだった。
するり。
「っ!? あ、兄貴が壁の中に消えてしまったっす!?」
なんと壁に激突することなく、そのまますり抜けてしまったのだ。
「兄貴! 大丈夫っすか!? って!?」
慌てて壁に触れようとしたガイザーの腕が、そのまま中にずぼりと埋まってしまう。
「これは……」
「見ての通り、通り抜けができる壁だよ」
壁を通過してきたガイザーを、エデルが出迎える。
「もちろん物質透過の魔法は使ってないよ。ダンジョンの壁には大抵使えないからね」
「物質透過……?」
不思議そうな顔をするガイザーに遅れて、セレナが壁を抜けてくる。
「壁にこんな仕掛けがあったとは……」
「びっくりです……」
さらにリンもそれに続いて姿を見せた。
「なんか面白いっすね! それっ!」
興奮したガイザーが、再び壁を抜けようと勢いよく突っ込んでいく。
「あ、戻るのは無理だよ」
「へ?」
エデルの注意は遅かった。
がんっ、とそのまま壁に思い切り激突し、ガイザーが目を回してその場にひっくり返る。
「この壁は一方通行なんだ」
「なに? ということは、先に進むしかないということか……? くっ、予定が随分と狂ってしまうな……」
顔を顰めるセレナだが、事態はもっと深刻だった。
「……? おかしいですね……? 誰も続いて来ないのですが……」
リンが小さな声で指摘する。
「確かに変だな? 少なくとも同じチームの二人はすぐに追ってくるはずなのだが……」
セレンが率いるこの六人組チームには、あと二人のメンバーがいた。
基本的にチームで一体となって動くため、四人が壁を通り抜ければそれに続いてくるはずだった。
「どうやら人数制限があるみたいだね」
「人数制限?」
「一度に通れるのが四人までってこと。だから向こうからはこれ以上こっちに来れないんだ」
「な、何だとっ!?」
エデルの言葉に愕然とするセレナ。
「では一体、どうやって皆と合流するんだっ?」
「それは先に進んでみないと分からないかな」
エデルは真っ直ぐ伸びている通路を歩き出す。
「な、なぜそんなに冷静なのだ……?」
「魔界のダンジョンじゃ、このくらいの仕掛け、幾らでも経験したからね」
この手の一方通行の壁が無数に配置されている巨大迷路を、何日も彷徨い続けたこともあったのだ。
それと比べればこの程度、子供の仕掛けのようなものである。
「その年齢で、どれだけ豊富なダンジョン探索の経験があるというのだ……ん?(今、魔界とか言わなかったか? いや、ただの聞き間違えか……)」
聞き捨てならない言葉が聞こえたように思えたが、さすがに気のせいだろうと首を振るセレナ。
「(今、魔界って言いましたよね!? どういうことですか!?)」
一方、リンにははっきりと聞こえていた。
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