第36話 荷物を持ってないような
今回このダンジョン『千年遺跡』に挑むのは、エデルとガイザーを含む、ダンジョン探索部の総勢二十三名だ。
しかし狭い通路も多いダンジョンでは、この人数が纏まって進むのは難しい。
そこで五~六名単位で、四つのチームに分かれていた。
各チーム内には剣や槍などで戦う前衛が一~二人、魔法や弓などで戦う後衛が一~二人、魔物の接近や罠などを探るシーフ役が一人、怪我人の治癒などを行うヒーラー役が一人、そして荷物の運搬などを行うサポーター役が一人、といったふうにバランスよく振り分けられている。
これは万一ダンジョン内で、チームごとにバラバラになってしまったとしても、ちゃんと機能し得るようにとの考えからである。
エデルとガイザーは、部長であるセレナが率いるチームに加えられていた。
前衛は、剣技部としての実力を買われたガイザーと槍の名手だというセレナ、後衛は魔法を得意とする三年生に、二年生のヒーラー、そして誰もが部内ナンバーワンと認めるシーフのリンである。
なお、実力未知数のエデルはサポーターだ。
サポーターも決して楽ではない。
なにせチームの物資の大部分を一人で持ち運ばなければならないのだ。
……もっとも、エデルはそれをすべて亜空間内に放り込んでしまったので、傍から見ると完全に手ぶらだが。
「(あれ? 荷物を持ってないような……?)」
唯一それに気づいたリンだったが、なんとなく怖いので見なかったことにした。
「ダンジョンは一年前、親父と一緒に潜って以来っす!」
「君は確か、剣の名門、ガイゼル伯爵の出だったか」
「そうっす!」
「ふむ、それは大いに期待できそうだな」
「いやいや、オレなんてまだまだっすよ」
「(ガイゼル家というのは、非常にプライドが高く、傲慢な連中だと聞いていたのだがな……)」
遺跡の内部は、外観ほどボロボロではなかった。
壁や天井はしっかりしているし、通路が瓦礫で埋まっているというようなこともない。
通路の広さは、チームが塊になって移動しても、十分余裕があった。
先頭を進むのはあらかじめ決めてあった通り、三、四年生ばかりで構成された強力なチームで、エデルたちのいるチームはそのすぐ後ろの二番手を進んでいく。
「リン、魔物の気配はあるか?」
「……今のところはまだありません」
隠密だけでなく、魔物の気配を察知する能力にも長けているらしいリンが、セレナの確認に首を振る。
だがそこにエデルが口を挟んだ。
「前方の分かれ道を右に行ったところにいるよ。こっちに近づいてきてるから、もうすぐ見えると思う」
「……分かるのか?」
「うん。間違いないよ。ほら」
エデルが指摘した直後、まだ百メートルほどは先だろうか、横道から一つの影が姿を現す。
牛の頭を持つ巨漢の魔物、ミノタウロスだった。
「本当に現れたっす! さすが兄貴!」
「あの距離の魔物を事前に察知しただと……? 一体どうやって……いや、今は魔物への対処が先決か」
「ブモオオオオオオッ!!」
「向こうもこっちに気づいたぞ!」
「部長、ここは俺たちに任せてくれ!」
迫りくるミノタウロスを迎え撃つのは、先頭のチームだ。
前衛の二人が突進してくるミノタウロスの巨体を受け止めると、後衛が攻撃魔法を放つ。
「ブモォッ!?」
魔法の直撃を食らい、ダメージを受けたところで、前衛二人がすかさず攻撃する。
上級生のチームだけあって、しっかり連携が取れているようだ。
しかしその様子を見ることもなく、エデルは近くの壁を指さして、
「そこ、トラップがあるから気を付けてね。少し壁の色が変わってるとこ」
「何だと? リン、どうだ?」
「こ、これは……? ま、間違いないと思います……っ!」
「このトラップは確か、今までの調査ではなかったものだ。見逃していたのか、それとも新しくできたのか……」
その間にミノタウロスが倒されたので、他のチームも集まってくる。
「本当だ。トラップっぽいぞ」
「どうだ、専門家?」
「こ、この僕でも見逃すほど分かりにくいトラップだ……しかも見ただけじゃ、何が起こるか見当もつかない……」
トラップに詳しい部員が悔しそうに唸る。
「どんなトラップかは、発動させてみたら分かると思うよ」
そう言って、エデルは色の変わった壁を押してみるのだった。
がこん。
「「「「「「え?」」」」」」
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