第27話 躾けただけだよ
「あ、おはようございます、兄貴! 今日はとてもいい天気っすよ!」
エデルが部屋から出ると、廊下にガイザーが控えていて、元気よく挨拶をしてきた。
その目はキラキラと輝いており、昨日までの態度とは一変している。
「うん、おはよう。でも、敬語は要らないよ?」
「いえいえ! 兄貴にタメ口なんて、そんな不敬なことできないっす!」
ぶんぶんと恐れ多そうに首を振るガイザー。
「え? ちょっと、それ本当にガイザーなの……?」
そんな二人の様子に目を丸くしたのは、偶然にも同じタイミングで部屋から出てきたアリスだった。
「もちろんオレっすよ!」
「いやいや、どう考えても別人でしょ!? 一体、何があったらそうなるの……?」
同じクラスのアリスは、当然ながらガイザーのことはよく知っていた。
彼が平民出の編入生を〝兄貴〟などと呼んで慕うような性格ではないと、断言することができる。
「ちょっと調教したんだ」
「へ? 調教……?」
「うん」
さらっとエデルが告げた物騒な言葉に、反応に困った様子のアリス。
「じいちゃんが言ってたんだ。敵対的な相手というのは、何があっても絶対に逃がしちゃダメ。だから確実に殺すか、調教するか、どちらかしかないって」
さすがに殺すのはやめておいた方がいいだろうと判断したエデルは、ガイザーが二度と自分に逆らわないよう、徹底的に「調教」することにしたのである。
その結果が、この完全な舎弟と化したガイザーだ。
「オレは兄貴の慈悲で生かされたっす! だからこれからは死ぬ気で兄貴に仕えていくっすよ!」
「そ、そう……」
拳を突き上げて誓うガイザーの姿に、アリスは完全に引いている。
「と、とりあえず、調教という言葉を使うのはやめた方がいいと思うわ」
「そうかな?」
その後、エデルはガイザーと一緒に食堂へ。
学生寮内に設けられた食堂で、生徒の大半がここで朝食を取っている。
例のごとくバイキング形式だ。
「兄貴! オレは座を確保してるっすから、先に取ってきていいっすよ!」
「そう? じゃあ、お願いしていいかな」
「了解っす!」
ビシッと敬礼をしてから、ガイザーは良い場所を確保しようと周囲を見渡し始める。
その様子を見て驚いたのが他の生徒たちだ。
「え? なに今の? ガイザーが編入生に敬語使ってたように見えたんだけど? もしかして私まだ寝ぼけてる?」
「……俺にもそう見えたぞ。どうなってるんだ?」
「昨日、剣の試合をして負けたって話は聞いたが……それが原因か?」
「いやいや、ガイザーの性格を考えたら、むしろあんな風にはならんだろ」
エデルが料理を選んでいると、ティナたちも今の光景を目撃したらしく、信じられないといった顔で駆け寄ってきた。
「ちょっとエデルくん!? 今の何!? ガイザーと仲良くなったの!?」
「うん、まぁそんなところかな」
そこへガイザーが戻ってくる。
「兄貴! あそこの席を確保したっす! オレと分かるような荷物を置いておいたから、横取りはされないはずっす!」
「……仲良くっていうか」
「もはや舎弟?」
「何をしたらそうなるの……?」
すっかり変貌してしまったガイザーの姿に、目を疑う女子たち。
そんな彼女たちの呟きが聞こえたのか、ガイザーが急に彼女たちの方を振り返って、
「今まで偉そうにしていて申し訳なかったっす!」
「「「っ!?」」」
「オレは心を入れ替えたっす! これからはクラスメイトとして、仲良くやっていけたら嬉しいっす!」
「ほ、本当にガイザーなの!?」
「もはや別人と入れ替わったレベル……」
「なんか逆に怖いんだけど……エデルくん、何かやったの?」
「軽く調きょ……躾けただけだよ」
「「「躾けた!?」」」
頑張って言い換えたエデルだったが、あまり意味はなさそうだった。
そんなガイザーの変わりっぷりを目の当たりにしていたのは、生徒たちだけではない。
たまたまこの日、シャルティアもこの食堂を利用していて、
「(躾け……躾けといったら犬……犬といったら犬の真似……ハァハァ……)」
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