第26話 きっと命の保証はない
私の名はリン。
英雄学校の三年生です。
入学から早くも二年以上が経ちました。
ですが私の存在は、クラスメイトを含め、未だに学校のほとんどの人に認識されてすらいません。
というのも、東国の〝忍〟の血を引く一族の出である私は、日常的に隠密行動を心がけているからです。
小さい頃から修行を続け、血の滲むような努力で身に着けた私の隠密能力は、この学校内でも随一であるという自信があります。
私の存在を知っているのは、私が信用できると判断した、ごく一部の友人や教師だけ。
そして私が本気で隠密状態にあるならば、まず気づくことは不可能でしょう。
「あれ? 今日一人いないような?」
「そういえば。ていうか、誰だったっけ?」
間違いなく私が教室にいるにもかかわらず、クラスメイト達の間でそうした会話が交わされるほど。
将来的にはこの能力を活かして、王国お抱えのスパイとして活躍するつもりです。
……というように、私は自らの隠密能力に絶対の自信を持っていました。
つい先日までは。
そんな私の前に現れたのは、一年生のエデル少年です。
編入してきたばかりだという彼との初遭遇は、たまたま廊下ですれ違ったときでした。
隠密状態にあった私と目が合ったのです。
「(えっ? こっちに気づいてる……?)」
最初は偶然かと思いました。
ですが念のため私は授業をすっぽかし、彼の後を付けてみることにしました。
彼には信じられないほど隙がありませんでした。
恐らく相当な実力者に違いないでしょう。
万一攻撃を仕掛けようものなら、一瞬でヤられる未来しか見えないのです。
「(ていうか、四人がかりの斬撃を一人で捌き続けてるんですけど!? 剣技部の一年生エースにも余裕で勝ってしまいました!?)」
……うん、私の目に狂いはなかったようです。
ただ、あれから目が合ったりはしないし、さすがに気づいてはいなさそうな気が……?
ふふ、それはそうですよね。
幾らなんでも、一年生が私の隠密を見破るなんて……。
「ねぇ、あの人って誰? ずっと付けて来てるんだけど?」
「え?」
めっちゃ気づかれてたああああああああああああああああっ!?
私はパニックになって、思わず建物の影へと隠れてしまいました。
むしろ逆に怪しまれるのに!
それにしても、私の隠密は完璧だったはず。
一体どうやって……?
もしスパイ先でこんなふうに見つかってしまったら、確実に私の命はないでしょう。
もっと精進しなければ……。
「にしても、彼は一体何者なのですか……?」
色々と調べたところ、どうやらマリベル校長の鶴の一声で編入が決まったようです。
そして他の教師たちは誰一人として少年の素性を知らないとか。
校長先生には四人のお孫さんがいることは有名ですが、実は彼が五人目、つまり隠し孫ではないかという噂もあるほどです。
……正直、めちゃくちゃ気になりますね。
そこで私は誰もいない時間帯を狙って、一年生の学生寮にある彼の部屋へとやってきました。
当人の攻略は無理でも、部屋の攻略なら私にとっては朝飯前です。
この学生寮のセキュリティは甘いですしね。
「ふっふっふ、忍の血が騒ぎますよ……さあ、彼の正体を暴いてみせましょう」
ついわくわくしながら彼の部屋のドアの鍵を、幼い頃から訓練してきた鍵開け技術で開けようとしたときでした。
「~~~~っ!?」
ぞわぞわっと、背中を凄まじい悪寒が駆け抜けたのです。
「こ、これは……っ!?」
そこでようやく私は気づきました。
このドアに、途轍もなく高度な魔法が施されていることに。
あまりに見事に隠蔽されていたので、今の今までまったく認識できませんでした。
しかもじっくり観察してみても、いかなる機能を持った魔法なのかさっぱり分かりません。
辛うじて分かるのは、恐らく侵入者に対応するタイプの魔法だということだけ。
トラップの発動か、侵入の通知か、あるいはドアの強化か。
何にしても先ほどから嫌な予感が止まりません。
「もし勝手に中に侵入しようものなら、きっと命の保証はない……」
そう直感的に悟った私は、すごすごとその場から立ち去るのでした。
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