第22話 ありがたく思えよ
女子のグループからあれこれ質問攻めされていると、あっという間に授業時間が終わってしまった。
今日の授業は三限目までなので、ここからは完全に自由時間ということになる。
「ねね、エデルくん、よかったら今から私たちとお茶しない? もっと色々お話聞きたいし!」
「それは良いアイデアね! 行きましょ行きましょ!」
「うん、構わないけど」
ティナたちに誘われて、一緒にカフェに行くことになった。
この学校には構内に複数のカフェが設置されているのである。
そうして訓練場を出ようとしたときだった。
彼らの行く道を邪魔するように、三人組の男子生徒が立ち塞がる。
中でも一番体格の良い少年が、小馬鹿にするように言い放った。
「おい、そこの魔界クン」
確か、ガイザーといったかな、とエデルは少年の名を思い出す。
実は授業中、ずっとその視線を感じてはいたのだが、面と向かって話をしたことはなく、ほぼ初対面である。
「(そういえば、僕に用事があるとかって言ってたような?)」
「さっすが魔界出身は違うねぇ? 女子どもにチヤホヤされてよォ」
ニヤニヤと嗤いながら少年が言うと、取り巻きたちがそれに追随する。
「そんなにモテるなら、俺もぜひ一度、魔界とやらに行ってみてぇなぁ!」
「やめとけやめとけ! どうせド辺境の集落だぜ! 名前は〝マカイ村〟! くははっ! 確かにマカイ出身には違いねぇな!」
大笑いする少年たちに、ティナたち女子グループは不快げに眉根を寄せて、
「エデルくん、気にしなくていいよ、こいつらの言うことなんて」
「貴族だからっていつも偉そうなのよ」
「クラスの番長気取りでさ」
「けどガイザーのやつ、ムカつくことに実力はあるんだよね」
そんな彼女たちのフォローに、しかしエデルは最初から平然としていた。
「え? 気にしてないよ? 魔界じゃ、目が合った瞬間に殺しにくることも多かったし」
それに比べたら暴言など大したものではない。
「ぎゃははっ、そいつは恐ろしいなァ!」
エデルの言葉を嘘だと決めつけているようで、ガイザーがワザとらしく身体を震わせる。
「このオレでもさすがにビビっちまうぜ。くくくっ」
そこでティナが耳打ちしてきた。
「……一応こいつ、剣の名門の家で、剣技部じゃ次期エースの呼び声高いらしいよ。もっとも、エデルくんなら余裕で勝っちゃうかも?」
エデルはまだよく知らないが、この学校には生徒たちが自主的に行う課外活動――部活なるものが存在しているのである。
「ああ? てめぇ、今、なんつったよ? そいつがオレに勝てるって?」
ティナの小声を耳ざとく聞き取ったらしく、ガイザーが威圧的な声を出す。
一瞬それに気圧されながらも、ティナは先ほどのエデルの強さから確信を抱いたのか、力強く言い返した。
「言ったけどそれが何か? エデルくんは私たち四人がかりでも相手にならないくらい、めちゃくちゃ強いんだから! あんたなんて瞬殺されるわよ!」
取り巻きたちが鼻を鳴らして嘲笑う。
「おいおい、ガイザーさんがそんないかにも弱そうな田舎野郎に負けるわけねーだろ!」
「くくっ、剣技部の先輩を圧倒したこと知らねぇのかよっ」
ガイザーもまたニヤリと嗤って、
「ぎゃははっ、面白れぇこと言うじゃねぇか? そいつが本当なら、ぜひ今からここでそれを見せてもらおうぜ」
「え、今から? あんたとエデルくんが勝負するってこと?」
「ああん? そうに決まってんだろ?」
「あー、でも、さすがにそこは本人の許可が……あと、お茶に行く予定だったし」
「はっ、何だ、てめぇ、逃げる気かよ? どうやらさっきのは嘘だったみてぇだな。もしくはてめぇら四人が弱すぎただけか。ぎゃははっ!」
「嘘じゃないし! いいわ! だったら勝負してやろうじゃないの! 後悔しても知らないわよ!」
売り言葉に買い言葉というやつか、相手の挑発にあっさり乗るティナ。
当人なのに蚊帳の外に置かれていたエデルはぼそりと呟く。
「……なんか勝手に話が進んでない?」
「というわけだから、頑張ってね、エデルくん! あんなやつに負けたら承知しないわよ!」
「う、うん」
今さら断れるような雰囲気ではない。
仕方なく勝負を引き受けることにしたエデルは、訓練場の中央でガイザー少年と向かい合う。
両者そろって剣を抜くが、それを見てティナが「あっ」と声を上げた。
「ちょっと、そんな剣を使うのは卑怯よ!?」
ガイザーが手にした剣が、明らかにエデルが持つ支給品とは違う、業物のそれだったのだ。
これではあまりにもエデルが不利。
「はっ! そんなルールなんて決めてねぇだろっ!」
しかしガイザーはそんなティナの訴えを一蹴し、
「(くくっ、まずは奴の剣を破壊し、それから死なない程度に痛めつけてやるぜ! もちろん蹴りで喉を潰して、降参することもできねぇようにしてやってからなァ!)」
容赦なくエデルに躍りかかった。
「ははっ、ありがたく思えよ! オレがてめぇに、この英雄学校の怖さを教えてやるぜっ!」
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