97話 願解きのお百度
昔の神様は、もっと人の生活と密着していて、心の拠り所とされ、そして畏怖されていた。
祖母がまだ娘の頃。
歌人の兄がいたのだが、地元では有名になっても東京ではどんなに作品を出しても認められることがなかった。
そんな彼もやっと歌壇の雑誌に名前を載せる事ができた。
それと同じくして
彼の異常食が出てきた。土を食べるようになったのだ。
異常食とは食べ物以外に食欲を示す行為だ。
精神的とかストレスとか体に必要な物質を摂取しようとしているとかホルモンのバランスとか、いろいろ言われているが、今もちゃんとした理由は明確にされていない病気だ。
その時も疲れがでたのでは?と思われていた。
それが、どんどんエスカレートして鶏糞まで食べてしまったため入院することになった。
彼自身は普段は普通なのだが、一度おかしくなると土を食べなければならない強迫観念に襲われるのだと言う。
つまり土や鶏糞を食べながらも、食べたくないと思いつつも体が動いてしまうのだ。
泣きながらも食べていたという。
異常が出て10日も経つ頃には体重は10㌔以上減っていたようで、体もドス黒くなっていた。
(鶏糞を食べたとのことなので、食中毒と続いた事による腎臓の機能障害だと思う)
祟りではないのか?との話しになり祈祷師が呼ばれた。
祈祷師は神様に願をかけたのに礼に来ないので怒っていると言った。
祖母の兄には自覚があった。
近くのお稲荷様に朝夕と前を通るたびに願を掛けていたそうだ。
怒りを解くには毎日、酒と饅頭を持って来いと兄に伝える。
その日に無理矢理退院して、翌日より言われたとおりにお供えをする。
いつまでやれば良いのかは、《しるし》徴があるので分かると。
その間の異常食は少し軽くなっていて、以前の様に土しか食べれないのではなく、粥なども少しなら食べれるようになっていた。
症状は軽くなり、粥だけでなく果物や薄い味噌汁も飲めるようになった。
しかし兆しはなく、続けるしかなかった。
それが3ヶ月以上は続いたころ。
ある朝にいつものように、コップにお酒と饅頭を持って神社に向かおうと家を出たら、門の前にキツネが座っていた。
そして、キツネはその場で糞をして去っていったと。
祈祷師に聞くと「許してもらえたのですよ」と欲しかった言葉をもらえた。
糞はどうしたらいいでしょうと訊ねると、そんなものは捨ててしまいなさいと言われホッとしたそうだ。
忘れないように身に付けていろと言われたらどうしようと思ったそうだ。
祖母の兄の異常をいち早く祈祷師に確認したのは、その少し前にやはり願掛けを解かなかったためだろう村人の異常死があったせいだ。
それをこの次で。
祖母は兄さまのお社への詫びに3カ月以上かかったと言っていたが、それはお百度参りの反対なのではないか。と思った。




