93話 人の影
子供の見る空を飛ぶ夢は、欲求不満だそうだ。
性的なものもあるが、肉体のもっと動きたい。
肉体が成長しやすくなる運動が少ない時。
心の不満。やりたいことが出来ない。親が自分の挑戦を妨げている。
そんな時に見る夢だそう。
確かに自分の未来の見えない親戚の家を回される。
将来どころか明日さえ不安であり、食事も気分次第であったり、なかったりで、不満どころか不安な毎日だった。
だから、「成長期の子供が欲求不満で見る夢」と書かれてあったら、それなりに納得はするが、それ以上の意味を感じてしまうのだ。
10~14歳まで親戚の家に預けられていた。
幾つかの家を渡ったが、その内の一軒でのことである。
夢なのか幽体離脱なのか、夜中に体から抜け出して空を飛ぶのが何度かあった。
いつもは部屋の中をぼんやり漂っていたのだが、その日は気が付いたら外を飛んでいた。
外を飛ぶ感動も動揺もなく、やっぱりぼんやりとしている。
村の上を飛んでいる。
畑や、家や、丘の上。
飛ぶ向きが変わり、帰ろうとしているのだと分かる。
ゆっくりと見慣れた親戚の家に近づいた時、2階建ての家に抱きつくような馬鹿でかい人影があった。
屈んで抱きついていて、頭が屋根を越えている。
少し首をかしげているのは、窓から中を見ようとしているのか。
その窓は親戚宅の長男の部屋。
人影は頭が大きく手足が短く4頭身くらいのバランスの悪い体である。
ぼやけた頭でも「ああ、気づかれたら嫌だな」と思う。
どうやって戻ろうか?と思ったら、
朝になっていた。
そんな夢を何度か見た。
ただ思う。
アレは良いものではない。
その家には3カ月ほど居たが、また別の親戚の所に行かされた。
その時にふと思った。
どうせ、この血筋の家を回るなら、どこでも一緒だ。
何かに護られながら、何かに呪われている。
そんな血筋だ。
我もまた。
そういえば、工芸品の「さるぼぼ」はご存じだろうか。
我は何故か、これが苦手だ。正直に言って怖い。
あの人影は、「さるぼぼ」に似ていたのだ。
あの夢が思い出される。
黒い巨大なさるぼぼが、意思を持って家の中を覗いている。




