89話 役目を終えたモノ
鏡というのは、物の中では意味を持ちそうだとは思わないか?
占いでも呪いでも、怪談話でもよく出てくる。
しかし、私の鏡は、何かしらから守ってくれていたのかも知れない。
社会人になってすぐの部屋は、洗面所がなく2畳の台所に歯ブラシを置いていた。
鏡ももちろんない。
さすがに必要だろうと、小さな台所の壁に鏡をかけた。
横に40センチほど、縦にもう少し長いオーバルの鏡が透かし彫りの木の枠に嵌っている。
少し離れた商店街の家具屋に安売りに出されていたものだが、値段も含めて一目で気に入った。
体を離せば上半身は余裕で見れた。
靴箱代わりのカラーボックスの上にブラシや少ない化粧品を置いて身支度の場になっていた。
友人が遊びに来た。あの、風の人とお話できる人だ。
彼女が言った
「いい鏡じゃない。良かったね~」
(彼女の言う「良い」って、別の意味ありそうだな~)
「ちゃんと役目果たしてくれるよ」
(だから、なんか意味深なんだよね~)
とは思ったが、突っ込まずにおいた。
そんな事も忘れ数年。引越しが決まり準備をしていた。
自分で荷物を箱詰めして、少ない家具は彼氏が車で運んでくれることになっていた。
部屋を出るまであと数日の日。
紐が切れ、鏡が落ちて割れた。
もちろん、引越しの作業で振動とかで紐が切れやすかったのだろうが。
それ以上の意味を感じ、祝詞を寿ぎ塩で魂抜きをして白のバスタオルで包んで捨てた。
ありがとう。おつかれさまでした。
因みに、その部屋は不動産屋には何も言われなかったが、隣に住んでいる男性に「事故物件」だと住んでから翌年くらいに言われた。
私には関係のない内容だったが、もしかしたら、その被害を受けたかもしれない友人の話を後で。




