87話 石の歌
アクセサリーを入れておく小さな引き出しには、水晶の細かいサザレが敷き詰めてある。
家に帰ると、お疲れ様。とそこに戻す。
その切っ掛けになった話だ。
今はインディアンジュエリーを身に着けているが、10代の頃は普通に金や他の宝石を身に付けていた。
ジュエリーとしてでなくルースで持つのも好きで、安いが見栄えのするガーネットが集めるともなく集まっていた。
その中の一つを友人にあげた。
自己嫌悪や人への不信などで落ち込んでしまう子だったので、
気の晴れる物をと思ってあげただけなのだが、意外なほど喜んでくれた。
その後も持ち歩いてくれていたようで、ある日「いつも持っているんだ」
とピルケースに入り小さく切ったティッシュに包まれた石を見せてくれた。
??????我の?
かなりビックリ。
我の石は深く濃い赤のガーネットだったのに、そこにある石は明るいピンクの石だった。
手に取り、良く見ると小さな見覚えのあるキズ。うん、我のあげたのだ。
二人して??だったら、「風の人が見える友人」登場。
石を手に取り・・・・
「もともとこの色だったんだって。○○ちゃん(我ね)がピンク嫌いだから頑張って変えたんだって」
うーんと、石には意思があるそうだ。
「この石はね、○○ちゃんの「んっ」っていう吐き気とか痛いっていうのを、吸い込んでいたんだって。今は軽くて楽だって」
ん~。そーゆーのは言わなくていいゾ~。
小指の爪くらいの小さな石は結構深い存在だ。
友人のお守りだけでなく、石にとっても良い環境らしい。
そして私が持っていた頃は、イロイロ無理させていたようだ。
疑問が湧いて聞いてみた。
「石って、そんなにドレも話すものなの?」
「う~うん。普通は黙っているよ。死んでるのもあるし、寝ているのもあるし。尋ねて話すほうが珍しい」
だと。
そんな頃から5年後くらい。
我のインディアンジュエリーの大ぶりのターコイズの付いているバングルを彼女が見た。
「なんかね。石がハミングみたいに歌っているの。良い腕輪だよ」
それから20年くらい経つかな。
まだ楽しそうに我の腕で歌ってくれているなら良いけれど。
我がルースで持っていた宝石は、黙っているのがほとんどだったと。
我の辛いのを吸い込んで、苦しくて黙ってしまったのだ。
石に対してそんな感情を持つことはなかった。
しかし、「生きている」は有機物に対してだけでなくても良いよね。
こんど、水晶のサザレを買おうと思っている。
普段はホワイトセージでのスマッジングだが、ジュエリーや石の浄化には水晶が最高らしい。
我には聞こえないが、いつまでも歌っていて欲しいと願う。
たまに、彼女の霊感(?)を羨ましく感じる。
石の歌など、すごく聞いてみたいじゃないか。
アクセサリーが壊れたり失せたりするときは、持ち主の厄を背負ってくれたのだ。
とよく聞くが、自分の持ち物にはそんな事はさせてたまるか。と思っている。
無機物は手入れさえすれば永遠に存在する。
なのに、我が選んだ大事な物が我のために身を削るなどあってはならない。
無機物ばかりでない、鞄も傘も帽子も靴も、我のお気に入りのモノたちは、いつでも気分よく歌っていて欲しい。




