82話 友人が居たからね ③
「風の人」と言われたら、他の人は何を連想するのだろうか。
我は、誘導されたようにも感じたが、実際に体験したことなので、これしか思いつかなかった。
友人が風の人から聞いたそうだ。
我が子供の頃に会っていると。
まあ、ある意味誘導なのかもしれないが。
子供の頃に妙な声が聞いた。
14歳ごろか少し離れた場所にある川によく行っていた。
モトクロスチームで飛び入り参加して30CCのバイクでぽんぽん飛んでいたのもあるが、1人になれる場所が好きだった。
ススキの季節のことだ。
夜の7時かそれくらい。夜の早い、でも暗い時間。
川原を歩いていた。夜は水音が大きい。
水音の中から何か聞こえた。犬や動物の唸り声に似ていた。
その近くに「猫オヤジ」と呼ばれる浮浪者が住み着いていて、いつも食用の猫をテントの前に綱で結わえていた。
(この話しに関係ないが、そのテントの近くに人魂が出ると噂がたち、猫の死体が埋められていそうな場所の土を肝試しを呼びかけ土を持ち帰った事がある。リンが欲しかったのだ)
猫か他の動物が怪我をしているのだろうかと探す。
ススキが背の高さまで生えていて川が見えない。
声を辿る。ススキを分け進むとテトラポット群に出る。
そこにいた。
テトラポットの上に体育座りで膝を抱えている、安そうなコートにスーツのサラリーマン。
川に向かって泣いていた。
何があったのか。多分30代の前半。その頃の我には立派な大人である。
その大人の男性が涙を流し大声で泣いている。
なんで、そんなことをしたのか。
出過ぎたマネをする。
その頃、自販機で売っていたブランデー入りの紅茶が好きだった。
その時も持っていた。カイロ代わりに腹にジーンズに挟んでいた。
後ろから肩を叩き、ソレをその男性に差し出す。驚いた顔をしていた。
受け取るとテトラポットの上を駆けススキに逃げる。
後ろでパキッとプルを空ける音がして嬉しかった。
「いいこだね」
と性別不明の柔らかい声が上からして、頭をポンとされた。
男は後ろで声の届かない場所に居る。
周りには誰もいない。
そんなことを思い出した。
その時の「風の人」は5年過ぎでも、我を覚えていてくれたのだろうか。
その前に、単体なのだろうか?
風の様な流動する無色の存在が、個々の記憶を持っているのか?
それとも、蟻のような「個は全。全は個」のように共通認識になるのだろうか?
あるがままに受け入れる友人は聞いても「ん~。わかんない」だった。
疑問に思えよ!そして、それを知ろうとしろよ!と思ったが、
あるがままを受け入れるから、不思議が寄ってきて、
我は「誰?何?どうして?」と頭で考えようとするから、「不思議」がすり抜けていくのかしら?
とも考えた。
いや、判らないが。




