79話 ぐにゃんぐにゃん
そういえば、その日は何故自転車で千鳥ケ淵を突っ切ろうと思ったのだろう。
遊歩道はあるが、段差や木の根が浮いていて自転車では通りにくい場所である。
しかし、その日はなんとなく、猫でも会えないかな~と乗り入れてしまった。
昔の仕事で千鳥ケ淵を自転車で疾走していた。
猫がいるので道路ではなく遊歩道になっている公園を通った。
春は桜で人込みで動けなくなるような場所だが、その日は寒い時期だった。
人気のない真昼間の千鳥ケ淵。
前を見ると植え込みの奥に人が立っている。
変な所に立っているな~と思った。
若い坊主頭の男性で灰色の詰襟の上半身が見えている。
その後ろはお堀への緩やかな崖だ。
どこか「のっぺり」とした顔の印象でぼんやりと前を(公園側)向いている。
なので、置物か看板かとも思った。
その男性の前を通り過ぎようとした時
男の体全体がぐにゃんぐにゃんと横に激しく揺れた。
アレだういろうを持って思いっきり横に振る感じ。
頭が正面でを向いたままで、腰まで下がっている。
左右に激しくぐにゃんぐにゃん。
(うぎゃあっ!!!)
内心悲鳴をあげ立ち漕ぎチャリダッシュ!!!
人通りの多い靖国通りの人込みの中に身を置きホッとする。
そういえば千鳥ケ淵をこいでいる時、誰にも会わなかった。
猫一匹、いつも昼寝をしている浮浪者にも。
この事を少し後に友人に話した。
少し考え込んで
「今見たんだけど」(何を?)
「そこに男の幽霊がいたのではなくて、なんか、化かされたって感じ」(狐?狸?)
「狐とか狸じゃないけど、そこにいる強い存在がイタズラした感じ」
すぐ横には戦没者霊園がある。
友人の言葉は確認しようもないが、なんというか・・・人でなくて良かった。
人があの様な状態でいるのは辛いだろう?
しかし、人の形をしたものが人外の動きをするのは、ひどく怖い。
ふとした時に思い出す。
ぐにゃんぐにゃん ぐにゃんぐにゃん
何人かの友人が言っていた。
怖い漫画でも描いてあった。
皇居の周りには結界が張ってある。と。
その結界を守っているか柱にされている存在が、暇つぶしに悪戯をしたのなら、
まあ、仕方がないかなぁと思っている。
我の反応で、その存在の気が少しでも晴れるなら、まあ怖い思いをした価値があるだろう。




