78話 靖国神社の横で
大東亜戦争の御霊ばかりが取り沙汰されるが、戊辰戦争以降の戦争の犠牲者たちが祀られている。
早朝の吉日に参拝をしたことがある。
真っすぐな生命の光と言うか、「命の肯定」のような純粋な力強い光を感じた。
この国を愛し、誰かのために、後世の私たちの未来を守ろうとした魂が今も輝いている。
仕事での移動でよく自転車で靖国神社を突っ切る。
もちろん、靖国神社内の道路だ。
ある夏の日の夕方。
靖国の脇を自転車で走っていたら、女性の悲鳴のようなのが聞こえた。
何かあったかと、探して見つける。
靖国のすぐ脇の道で、車が止まっていて後部座席のドアが開いていた。
そして、身なりの良い老婦人が神社の鬱蒼とした木々に向け叫んでいる。
「お兄さん。お兄さん!」
靖国の参道脇の木の繁った場所。
人の立つ位置より高い場所に彼女は手を伸ばしている。
我も、「何か」を見ようとしたが、何も見えず。
老婦人の子供夫婦だろうか、壮年の男女が抑えようとしている。
老婦人の見ているものは誰にも見えていない。
何も出来ないので黙ってその場を後にする。
「お兄さん、そんな場所にいないで、帰りましょうよ」
彼女はなお言いつのっている。
頭を占めたのは、彼女にしか見えなかったものではなくて、戦争とは傷ついた人がいなくならない限り終わらないのだ。
ということ。
夜明け前に知人が、神社の売店横のトイレに入り用を足していたら、軍靴を鳴らし行進する音を聞いたそうだ。
その人はトイレの中でウンコ座りで金縛りになっていた。
幽霊など全く信じなてない人の話だったので、妙な説得力があった。
また、私も夜に神社横の通りを彼氏と歩いている時、女性の腕が長く伸び、当時長髪だった彼の髪を撫でたのを見た。彼女は、自分の焼けた髪を惜しみ彼の長い髪を触ったようだ。
夕方以降は神社は別の顔を表すのかも知れない。




