71話 かみさま かみさま
今回は古い友人の話である。
交通事故で入院した友人の見舞いに行った。
前日に本人から呼び出しをくらったのだ。
会うのは10年ぶり。いや、ソレ以上だな。
なかなか酷い有様だった。
事故から一週間は経っていたのだが、全身12箇所の骨折と出血多量にショック状態で5日間の意識不明の重体。
脇の下から足先まで金具と鉄棒で固定されている。
顔や腕などの出ている部分も打撲の色が引いてきたが紫色と緑色が残っている。
8ヶ月の入院とその後もリハビリが必要になる。
「なんだか、S心が刺激させられるね。このまま解剖したくなる」
とニヤついて言ってやる。
「ソレはもちろん冗談だよな」
と少し恐怖を滲ませ聞いてきた。(冗談だバカ)
見舞い客がほかにも来たので辞するかと思ったら、まだ居てくれと言われ、ならばと昼を挟んで3時間ほどでまた病室に戻る約束をする。
戻ったら午後の静かな個室で我を待ち構えていた。
辞する際の病室は騒がしかった。
感情の昂ぶった見舞い客が泣いてすがる。
逃げるように出たが気分は重い。
静かでほっとした。
これでやっと話ができると友人は一気に話し出した。
彼がバイクで走っていて、トラックの左折に巻き込まれたのだ。
その後の事で・・・
暗い宇宙のなかに浮かんでいた
その前後もなくただ気付いたらソコにいた
何も考えずぼんやりとしていたら
上から巨大な手が下りてきた
手は軽く人指すかたちになり、指を彼に向け近づいてきた。
子供の指で潰される蟻の気持ちが良く分かったそう。
手は濡れていたのか、指先から水が1滴落ちた。
彼に向かって落ちてきた水滴はかなり大きなもので。
みるみる大きくなり体全体に水しぶきとして受けた。
息が出来ないっ!
苦しいっ!
と思った瞬間に病院のICUで目覚めたという。
「俺は目が覚めた瞬間「神さま 神さま」って呟いていたそうだよ。どう思う?」
「どうって、そのままだろう」
「やっぱり。うん。そのままだよな~」
彼は一人でうん。うん。と納得していた。
その後もいろいろ話して帰るまえに、忠言を注す。
「お前の見た目は結構酷いよ。見て取り乱すのも出ただろう。
お前も家族も負担になるから、しばらくは人は限った方が良い。
私もこの時間までいるのは疲れさせただけだろう」
実際、随分眠そうにしている。
「いや、あれはミスった。(泣き出した女性のことを言っている)途中の仕事があったから、指示を出しとこう。なら一気にやっちゃおうトカ思ったけど、キツかったなぁ~。俺ってそんなに酷いの?って思っちゃったもん」
「いや、酷いよ。とりあえず、青タン抜けてからにしようよ。改造人間だって、そこまで痛々しくないよ」
「ひっで~なぁ~」(苦笑)
その後の言葉がなんだか凹んだ。
「ああ、でもお前は違うんだ。
普段、あまり会おうとか飲もうとか思わずに忘れているけどさ、なんだか死にそうになったら顔見て話してゆっくりしたいな~って思ったんだ~。それに、こーゆーのは平気な方だろう?」
ってさ。
実際、身近な人間の事故での大怪我は多かった。
兄がバイクの事故で首の骨を損傷する大怪我で10ヶ月ほど入院した。
あと数センチで首から下は動かなくなっていた。
頭蓋骨に穴を開け、金具で固定する。
大腿骨も骨折してたが、兄は大学の運動部をだったので筋肉が発達して縮む力が強くて色んな錘がベットから下がっていた。
バイク馬鹿のこの友人は大事故を3回している。
他の友人でもいて、中には家族もいないヤツの時は洗濯とか面倒だった。
ま~あ、平気といっちゃあ平気だが・・・
「死にそうになったときだけ思い出しやがって!ちゃんと普段から楽しいことに誘え!酒おごれ!」
「あはははっ!そうだな~悪い悪い。退院したら飲もうな~」
と笑って見送られる。
ちなみに持っていった手土産は午前にはお稲荷とお煮しめ3~4人前くらい。
家人とお世話するする人たちに持っていった。
午後は駅まで戻りBOOK-〇FFで雑誌を20冊買っていく。
大喜びで前のテーブルに全部を積み上げさせられた。
なんというか、もっと楽しい時間を共有しようよーと思う。
頼られるのは嬉しいと思う。
辛いのならそばに居たいと思う。
でも、他人の我にできることなど何もないのだよな~
かみさまが、彼の命をこの世に残してくれたのだろうな。
「友人の命を戻して頂き、ありがとうございました」
と、時折手を合わせてお礼を言っている。
退院してからは、しっかりと奢ってもらった。
しかし、それも何年も前の事である。
やはり、何でもない時には、思い出してももらえないのだ。
腹の立つ。




