66話 視線
物にも魂が宿るのだろうか。
我はそうだと思っている。
編集の雑務をしていたとき、題材が「大人の書斎 特に机周り」の写真が必要とのことで、皆で使えそうな物を持ってきた。
我は手の平サイズだけど精巧な作りのブロンズのライオンの像とセイウチの牙で作られた地球儀。
採用されたのはライオン。
撮影では我がアシスタントでその場の雑用で現場に居た。
マホガニーの両袖机でガラスペンとかアンティークのインク壺などに交じって我のもちゃんと居る。
こう見ると、格好良いなぁ等と思いながら指示に従い動いていた。
カメラマンが言った。
「ライオンの置物、君の?」
誰か言ったのかな?
「はい。そーです」
「やっぱりね。ライオンが君を追って見ているんだよね~」
「はぁ? …そーゆーの見えてしまうのですか?」
「なんとなくね。すご~く好かれているよ」
カメラマンは仕事に入り、我の手は必要でなくなったので別の仕事に向かった。
その日の夜、撮影を終えた物達が持ち主に戻る。
我のもちゃんと戻った。
近づけて見たが眼球が動く、とか分かるわけもない。
でも、それまで以上に可愛くなって
「おかえり」
と言ってみた。
これは中学2年の時、知り合いと初原宿に行った際購入したものだ。
周りは服を買いに来たが、我は飽きてしまい別行動で出会った。
ラフォーレの対角向かいのロッテリアのビルの西洋アンティークの店で。
4,000円だったかな?
中学生には躊躇する金額。
帰りの待ち合わせで周りから笑われた。皆は服目当てだからね。
今もモチロン部屋の本棚に居る。
我を見ているのかな?
購入してから今までに、十回以上は引っ越しをした。
しかし、その度に持って出た。
購入した時期は、いつ追い出されるか分からない中で、荷物を増やすことは極力避けていた中での一目ぼれである。
そりぁー、両思いだろうよ。
って勝手に確信している。




