61話 あのね
山は別の世界なのだろう。
そして、その境界線があるとするなら、人工物である道路。という事なのだろうか。
山好きの友人男性の話し。
ちゃんと山の名前を教えてくれたが、覚えてない。
「いやあ、気味悪かったね~
山小屋を出てから、ずっと女の声が耳元で
「あのね、あのね、あのね」
って言い続けるんだぜ~
10時間ぐらいはずっと隣で言い続けたんじゃないか?」
そして休憩で少し岩などに座ると、ぐるぐると周囲を回る。
姿は見えないが、足音や気配などでわかると。
たまらず、歩き出すとまた耳元で「あのね…」を繰り返す。
山道が終わり、車道に入ろうとした時
「おおおおおおおっっっっ!!!!」
耳元で大声で叫び、風を巻き上げて消えた。
聞いたときは全身鳥肌が立った。
以前から怖い話を書いているので、周りからも、「こんなことがあった。あんなことがあった」などと聞くことがある。
このお話は、とてもシンプルだったが、なぜだか鳥肌が止まらなかった。
怖い話というのは、ビックリさせるもの、グロテスクなもの、年寄りや子供という普通の世界の弱者、など幾つかのお約束があるが、現在進行形である。というのも恐怖の大きな要素だと思う。
もし、彼が同じ山に登れば、同じ事が起こるだろう。と妙な確信があり、それも含めて怖かった話である。




