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あやし百話  作者: くろたえ


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52話 死神かそれに類するもの

死神かそれに類するもの。


もしくは、取り憑かれない簡易な方法。


霊感の強い友人と飲んだ居た時。


広い居酒屋で、ほどほどに混んでいる中で飲んでいた。

真ん中に通路があり、その両脇にテーブルがあり、我らは入り口に近い場所で、彼が店の奥を見るように座り、我はその向かいに座ていた。


普通にバカ話などだったが、ふと気付くと、彼が我のずっと背後を厳しい目で凝視しだした。

顔を伏せるようにして、視線は鋭い。

相手に気付かれないように見ている。


ヤクザかケンカか?と振り返って見ようとすると、


「振り向くな!動くな!」


低く切羽詰った声で止められた。


それでわかった。

見えない存在なのだろう。

彼が見えないモノが見えるのは知っているが、ソレを理由がなければ話題にすることはない人である。

だから、信用していたのかもしれない。

(どうも、友人以外の「霊感のある人」は自意識過剰な気があるようで言葉を信用できない。あ、我もか!)


「なあ、お前のご両親の名前は?」


とイキナリ聞いてくる。ナンだ?と思ったが、目が本気だ。


「○○、○○」

「祖父母の名前は知っている?」

「母方のみで○○、○○」

「そう。お墓はどういう場所にあるの」

「○○県」

「じゃなくて、建っている周りの景色とか。木があるとか」

「ああ、以前は木の根元に名前の削れた石が墓石で、その下を適当に掘って骨壷を埋めていた。

随分、貧相な墓石だと思ったけど、偉い坊さんの近くに墓石を置けるっていうステイタスがあったそうだ。今は、立派な墓石に収められているよ」


そんな会話をしただろうか。

好きな映画や本の話もした。


しばらくして、そいつが緊張を緩めた。


「何かあったのだね?話せるかい?」


訊ねると


「もう、大丈夫」


と話してくれた。


我の後ろの通路の奥。

トイレとか倉庫とかある方向から、暗い空気が流れてくるのを感じた。


見ると、ミイラのような細いボロボロの服を纏った男が、揺れながら現れた。

真っ黒い陽炎が立つような空気を纏っている。

目は黒い穴となっている。服から延びる細い腕に骨の手に黒い爪。


両脇のテーブルに一つ一つに顔を突っ込み、人の顔を確認している。

誰か探しているのだろうか。


我が後ろを振り返ろうとした時、ソレは我を目に留め、真っ直ぐにスルスルと近寄ってきた。


祖父母や墓の話しになると、立ち止まった。


ソレはテーブル一つ間にして、我の後ろに立っていて、我を気にしながら揺れていた。


話しは幸せを感じる瞬間とか、好きなものとかまで話したころソレは揺れながら後ずさり、どこかのテーブルの人の中に吸い込まれて消えた。



「ソレは何?」

「多分、死神とか疫病神とか、そーいったもの」


彼は霊を剥がすこともできるそうだが、そうすると憑いていた痕跡が残り(?)しばらくは厄を呼び込みやすいのだと。

だから、彼が除霊といっていいのかをしたら、その後は規則正しい生活に、穏やかで感謝のある心と、人助けを心がけろと指導するらしい。


今、それをやったら、この場は防げても印を残す事になるので、家に帰ってから憑かれただろう。


ならば。とやったのが、誰にでもできる憑かれない方法。


先祖と墓の存在を確認する。

心に幸せを感じる。


だ、そうだ。



しばらくしてから思い出した。

怖い話を集めたマンガで、同じ様なものが載っていた。


みすぼらしい着物を着崩した、ガリガリの男が揺れながら、人の間をぬいながら歩いている。

通る際に人々の何かを確認する。

そして、そこにいた1人に吸い込まれて消えた。

そこでは「疫病神のようなもの」といっていた。


友人は、そのマンガの存在自体知らなさそうだけど、見えたものはマンガに出てきた人と同じようだ。



そして、その存在も。




友人が我にやった「感謝と幸福を感じる」のが憑かれない方法と書いたが、それは、印や縁が繋がってない時だからね。

と念を押された。

その場限りな「印」とは、あの場で目が合った場合。きっと、我の中に入っただろう。

(見えなくても)目が合う。興味を持たれる。その日が災厄を呼び込みやすい日だった。

そんな感じ。


じゃあ「縁」は?

聞くと、「良く分からない」との事。

「本人以外の次元の力というか、もしかしたら前世とか先祖とか、どうしようもない事なのかもしれない」

そう言い、彼は苦そうにビールを開けた後、全く別の笑える話をはじめ、我もそれに乗り、以降その話が出ることはなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] "間"が"魔"に繋がるように "印"は"因"に繋がっているのかもしれませんね
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