30話 姿なき出迎えるもの
見えない物があるならば、どうしてそれが見えるのでしょう。
見えない物は、ないモノなのでしょうか?
1人暮らしをしていた時、交通の便がよく繁華街にも職場も近かったので、よく友人が遊びに来て、我もソレを楽しんでいた。
ある日、何度か泊まっている友人が、他の友人に我の部屋を説明していた。
「廊下にあるゴリラのぬいぐるみさぁ」
別の日、別の友人が言った。我の部屋の様子を説明している時だった。
「玄関入ってすぐに、白いゴリラがいてね」
二人に言った
「え!ゴリラなんてないよ?」
本当に無いのだ。
1人目の時は誰かの部屋と、間違えているのかな?
と軽く思った。
二人とも似たように、動揺しながら言い募る。
「うそうそ!白くて、コレくらいの(バスケットボールくらいかな)ゴリラのぬいぐるみ」
色は白とベージュと言うがほぼ同じ。
大きさも。
1人は赤のチェックの、蝶ネクタイを着けてたと。
そんなに細かくナニを見たのでしょう?
我の部屋にはぬいぐるみはない。
映画のクリチャーのフィギュアは山盛りで天井からも下がっていたが。
嫌いな類人猿のぬいぐるみなど置いてたまるか。
二人目に言われた日、帰宅しマジマジとその場所を見る。
目をつむって、霊感がありそうな人を模してみる。
やはり、何も無いところには何も無い。
怖がろうかと思ったが、対象がゴリラのぬいぐるみだと、本気で怖がり難く嘘臭い。
どうしようもない事なので、放っておく。
でも、ふとした瞬間にゾクっとくるのだ。
電気を消して、玄関から外に出ようとする、一瞬の暗い中で。
夜、外から帰ってきてドアが閉じ、電気を点ける暗闇の短い時間の中で。
靴を脱ごうと屈む、頭から7,80cmの場所。
座って靴を履いている1m後ろ。
見えないものに、出迎え、見送られていた。
別の場所でこの話を描いたとき、「あ、私も見たことがあるよ」と言ってきた人が居ました。
どうしよう。3人います。
見えない、ぬいぐるみを見た人が。




