26話 あれは何かと聞かれたら
不思議なモノとは、不快に始まり、やっぱり不愉快で終わった。
随分前に、その時の彼氏と車で埼玉の友人宅に遊びに行った帰りのことだ。
夜も遅い時間だが高速に乗れば1時間かからないので、
気楽に彼の運転する助手席に乗っていた。
丁度、道のりの半分ほど来た時、左から声をかけられた。
「うしろのたいや うしろのたいや」
二回続けて。
耳元で小さな男の子のような甲高い声。
窓は閉まっている。ラジオも無し。彼は無言で気付いていない。
後ろのタイヤ?
車間距離を空けている前の車を凝視するも変わった事はない。
彼に尋ねる。
「車の調子はどう?」
変わりなく良いとの答え。
丁度良く雨が降り出したので、言ってみた。
「ここ事故多そうだから気をつけて帰ろうね。もう少しだし」
そーだねーと同意してくれ、少し速度も落とす。
緊張は続いたが、何事もなく家に着いた。
あ~あ、よかった!
のだが…
その翌日
仕事で自転車でダッシュしていた時だった。
小雨が降っていて、石のタイルの敷き詰めてある場所で、単なる私の不注意だと思うが。
直線を走っていたのに、自転車の後輪が突然滑り、激しく転倒した。
打撲に擦過傷、羞恥心などダメージが大きかった。
その後、強く石に叩き付けられた膝は、数年間水が溜まっていた。
いや、怪我じゃないのだ。
転倒して、イッテ~!と身を起こそうとした瞬間
「だ~から 言っっ たじゃ、ないか~ぁ…」
左の耳元で男のねちっこい声がした。
見渡すも誰も居ない。
妙な確信を持つ。アイツだ!
前日の子供の声のヤツだ。
コッチが本当のヤツだ。
声からの想像でか、30代後半の男が私の肩に、手をかけニヤついているのが浮かぶ。
もう、ムカついて、ムカついて、ムカついて!
とりあえず、足を引き摺りつつ、急ぐ仕事を終え、そのまま、ナゼか公園に直行!
北の丸公園の小高い丘に登る。
雨の平日の昼は人はあまり居ない。
高い場所から下を見下ろし、大きく息を吸い、
「がああああああっっっ!!!」
吼える 吠える 咆える
ナゼと聞かれると困るし、なんとなく叫びたかったとしか言えないのだが…
スッキリして、さっさと帰った。足は引き摺っていたが。
いやあ、ビックリよ。自分の叫びが野生だったのが。
ただ、今までコレを誰にも言えなかったのは、妙な感じがあったからだ。
今はもうない。
やっぱり、語尾をねちっこく伸ばすのは、生きていても、死んでいても、性格が悪いに決まっているのだ。
ニヤついて肩に置かれた手が、おぞましく、しばらく思い出しては、肩を手で払っていた。
ああ、嫌らしい奴。




