表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
4章 アサシンズ・クアッドの捜索

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/120

58話 大義ある暗殺

 アルシェラ情報大臣は、憔悴を隠せない顔で語り出す。


「メイヴプロジェクトは……統制委員会が主導で行なっている極秘プロジェクトだ。お前の言うメイヴとは、謎の猟奇殺人を行なう殺人犯の総称だろう?」

「そうだ」

「何故そんなものにお前達が興味を示したのかは知らないが、メイヴプロジェクトはジルベスの存続に必要なプロジェクトだ」

「御託はいい。プロジェクトの内容が大事だ」

「プロジェクトの内容は――統制AIの自己学習能力のコントロールと、自動統制機構の最適化だ」


 殺人犯と国家を管理するAI。

 一見して全く結びつかないそれが、他ならぬ国の代表の一人の口から関連があることを明言された。

 オウルが【ヴァーダイン】を握る指を動かして手遊びすると、アルシェラの隣でマゴッツが震え、頼んでもいないのに喋り出す。


「ぜ、前提として、ジルベス合衆国が国営で使用するアデンハイト式AIは自己学習機能の一部を制限されている! AIの自己判断が使い手の都合を凌駕しないためだ。尤もAIがそのような自立的判断をするのはまだ遠い未来の話だが、予期せぬ動作はないに越したことはないだろ?」

「そうだな。で?」

「し、システム導入当時に政府が最も恐れたのは、AIが『思想』を効率的な傾向として学習することだった。共産主義、帝国主義、独裁主義……思想にも様々あるが、テロリズムやオカルティズムと他の主義の区別がAIにはつかない。人間だってハマると抜け出せないものにAIを感染させる訳にはいかない。しかし、自己学習機能を抑制しすぎると人間の負担が増えすぎてシステムを導入した意味がなくなる。だからプロジェクトは必要だったんだ! 定期的なワクチンの投与が!」


 そこいらの企業レベルならば機械に判断できないことは人間がすれば良いという判断はありだろう。

 しかし、政府の統制AIが処理するデータは文字通り膨大だ。

 民意まで一定のレベルで掌握しなければならないジルベス政府にとって、人の介在する余地は少ない方が良い。何故なら、ヒューマンエラーはいつの時代も絶対になくならないからだ。


 オウルは話の先を促す。


「何故、そのワクチンがメイヴなんだ?」


 アルシェラ大臣がマゴッツを黙らせるように口を開く。


「AIの学習抑制が正確に機能しているかどうか、逆に抑制しすぎて対応できない穴が発生していないか……それをチェックするためのメイヴだ」

「ではあの理解に苦しむ儀式殺人は……」

「実在しない架空の殺人者に統制委員会側で用意した項目をこなさせることによって、AIが予想通りの反応を示すかどうか、我々は常に点検している。そうしてAIを適正に管理し、ブラッシュアップし、アップデートし続ける計画。それがメイヴプロジェクトだ」


 儀式も、殺人も、被害者の素性さえも関係ない。

 唯の点検、バグ取り、完全なる政府側の都合。

 聞きに徹していたテウメッサが大仰にため息をつく。


「実際に殺しまでやって目的がそれとは、何も知らずに斬殺された国民達も報われないねぇ。彼らには何の責もないのに」

「ここにきて下らん感傷を耳にするとは思わなかったな」


 全てを承知の上で実行させていたアルシェラ大臣が鼻で笑う。

 テウメッサも別に感情移入している訳ではないが、同じ民間人を切り捨てる側の立場に立っている人間がそれを口にすれば滑稽にも感じるだろう。


「まぁ、言わんとすることは分かる。公になれば国民感情は納得しないだろう。だから万が一にも情報が漏れないよう徹底的に隠してきた。どこかの莫迦者のせいでここまで踏み込まれることになったのは極めて遺憾だがな」

「モルタリスと軍が一枚噛んでいたのは大本に辿り着けないように仕掛けたフェイクか?」

「あれは唯の利害の一致だよ。我々とは比べるまでもなくちっぽけな理由だ」

「け、計画を維持する為に命令に絶対服従で身元のばれないメイヴ役が必要だったんだ! それで、それぞれ思惑のある軍とモルタリスを結びつけた!」

 

 マゴッツはよほど命が惜しいのか、べらべらまくし立てる。

 余りにも強気すぎるアルシェラ大臣の態度の巻き添えを食わないか不安で仕方ないという感情が彼の顔にはありありと浮かんでおり、当のアルシェラ大臣はお喋りなマゴッツを不快に感じているようだった。


「軍は使い捨ての極秘特殊部隊が欲しかったんだ! 戦争が終わった今、海外に介入する際のリスクを最小限にするために! でも特殊部隊の兵士を育てるには時間と金がかかる! しかも危険度の高い任務は失敗時に情報が漏れるリスクがある!」


 安価に育てられて簡単に使い捨てできる優秀な兵士など、全世界の軍が欲しがるだろう。しかし普通、質を高めるには金と時間が必要なので、その望みは現実的ではない。

 何より、忠誠心は金と時間だけでは確実に用意出来ない。

 国の為、軍の為に命を捧げられる心は何より重要だった。


「でもモルタリス・カンパニーの技術ならそれらの条件を緩めることが可能だった! 焼却可能なオーガニック義肢と試作人工血液! そして脳の思考を部分的に抑制する薬剤! これらを総動員すれば、死を恐れず高い能力を発揮し、必要な際に即座に燃やして証拠隠滅出来る兵士を限定的に作り出せる! ……試作人工血液の可燃性の高さを自爆機能に使うってのは、流石に引いたけど」


 メイヴが骨すら残らず燃え尽きる理由はそこにあったようだ。

 確かにそういう理屈であれば一瞬で異常な高温になったのも頷ける。

 しかし、そこで引くなら別の場所でも引く部分がある。


「その兵士は改造手術後、長く生きられないようだが?」

「ぼかぁ知らないよ! 軍にとってはその方が都合がよかったんじゃないの!? 知りすぎた者の口を封じるのは死が一番って映画で言うじゃない!」


 その理屈で言えばマゴッツにも消される理由が充分あるが、彼は恐怖にかられてそのことに気付いていないようだ。


「どれも未完成で不安定な技術だけどさ、軍は義肢の性能や証拠隠滅機能に結構喜んでたよ。モルタリス・カンパニーも非合法の実験で色々いじくれていいデータが取れたって喜んだ。ぼくらも喜んだ。メイヴプロジェクトを実行するにあたってこれ以上便利なコマはないもの」


 悪びれる感情が、そこには一切見えなかった。


 国の都合で軍人として最前線に送られ。

 オーバーエイジ計画の時間稼ぎに酷使され。

 トラウマを抱えたままいきなり終戦後の平和な社会に放り込まれて孤立し。

 施設に鼻つまみ者のように押し込まれ。

 挙げ句の果てに脳を制御された殺人人形として罪もない民間人を老若男女問わずバラバラに解体させられ続けた末に焼却処分されて誰にも経緯を知られずAIに情報を閉ざされる。


 そんな人間達を、彼らはただ計画の実行に便利だとしか考えていない。


 メイヴの正体は、文字通り骨の髄までジルベスという国に弄ばれた人間達のなれの果てだった。


「私は彼らの犠牲に感謝している」


 その上で、このアルシェラという女は断言する。


「彼らの尊い犠牲によって、ジルベス合衆国はより地上の理想郷に近づき続けることが出来る。危険思想を抑えこみ、他国の侵入に突かれる可能性のある穴をひとつでも多く塞ぎ、国民の享受する幸せを維持することが出来る! 故に、メイヴプロジェクトは絶対に必要なのだ!」


 それは現実逃避でも陶酔でもない、この女の純然たる覚悟。

 民主主義の皮を被ったジルベスという国家の本質が、そこにあった。


 ジルベス合衆国内での年間交通事故死亡者数は一万人前後。

 同国の殺人による死者数は年間一千人以下。

 それに比べ、年間にメイヴプロジェクトで犠牲になる人間のなんと少ないことか。


 しかも、メイヴプロジェクトは軍とモルタリス・カンパニーと統制委員会――国を支える重要な組織三つにそれぞれ利益を齎す。


 軍はこのデータで国防をより強固にして自国民を守る。

 モルタリス・カンパニーは人類が克服不能だった病気を可能に変える。

 統制委員会はシステムの漏れを減らし、より深刻な外敵から国家を守る。


 国家全体からすれば僅かとしか言いようのない些細な犠牲でこれだけの利益が得られるのならば、ジルベス合衆国がこのプロジェクトを維持するのは妥当な流れだろう。

 事実、ジルベス合衆国以外の国家の年間死者数はジルベスより遙かに多い。

 国民の幸福度指数も、景気も、全てジルベスが上回っている。


 ジルベス合衆国において、メイヴプロジェクトは紛れもない正義だった。


 その、上で。


「話は分かった」

「理解してくれたようだな。では、早急に我々を解放して言葉を立ち去り――」

「メイヴプロジェクトの実行内容を変更しろ」

「……は?」


 オウルは、そんな下らない陰謀を聞きにきたのではない。


「犠牲とか平和とか効率とか意義とか、そんなもんはそっちで勝手に考えればいい。だがプロジェクトの内容はこちらの要望に沿って貰う。しないないら統制委員会所有のユニットは二度とお前らの手元に戻らない」


 オウルはそれがユアに害を及ぼす可能性が0.000000001%の可能性だろうが存在するならば特に何の呵責もなく叩き潰すためにここまで来たのだ。


「そう身構えるなよ。要求は簡単なもんだ。誰だって理解出来るし実行出来ることだよ」


 ――国家がユアの人生を阻害するならば、クアッドは彼女の為に国を動かすのみ。

意訳:カノジョに手ぇ出したらコロス。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ