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アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
3章 アサシンズ・クアッドの防衛

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35話 名付けられた暗殺

 夕食を終えて開かれたクアッドの臨時会議で、相変わらず通信越しに参加するサーペントから事態を知らされたオウルは面倒臭そうに話を切り出す。


「死ぬほど面倒臭いことになった」

「顔見れば分かるって」

「そうだ。大切な事なので二重認証を行なった」


 テウメッサがオウルの減らず口に肩をすくめる。

 これはもしやオウルが殺していい敵を欲しがったのを天におわします慈悲深き神とやらが知り、気を利かせて大サービスしてくれたのだろうか。だとしたら神は大分ロックな性格をしている。町を挽き潰す鉄の塊に乗ってる巨大会社の社長よりロックだ。


「サーペントの調べによると町はベクターコーポレーションの全戦力にものの見事に包囲されている。応援も来ない。明後日の昼頃には俺たちは町諸共クリスピー生地かミンチのどっちかになる」


 サーペントの報告では『それ』の移動後の様子を見るにミンチの線が濃厚なようだ。

 食べ物の話をしたせいかミケが変な食いつき方をする。


「じゃあ間をとって明日の昼ご飯をクリスピー生地のミートピザにするのはどうかな!」

「採用」

「やった!」

「おーい進行役ー。何のピザでもいいからちゃんと進行してくれー」

「明日の昼食の予定が決まったんだから喜ばしいことだろうが。いいか、世の主婦は飯をどうすればいいか聞いた時に何でもいいと言われるのが死ぬほど嫌いなんだぞ。これは今月の会議でミケが発した最も有意義な提案だ」

「それって暗にミケが普段何の役に立っていないって言ってない?」

「否定してみろ。ディベートの始まりだ」

『やめときなよテウメッサ、これは勝ち目がない』

「え~!? ちょっとは私を擁護してよ~!」


 ミケが釈然としない顔でむくれているが、全員無駄話をしながらもデータには目を通している。

 余りの自体に警察はあちこちに応援を要請しているが、軍も警察も政府もまるで事態を把握しておらず、しかもラージストⅤからの横やり、通信インフラや発電所からの送電ケーブルの寸断など一見して見えない所から事態を遅らせている。


 サーペントの見立てでは事態を把握して対策を練る会議をしている間に町は粉微塵になるそうだ。一つ一つはその場しのぎの混乱でも、積み重なれば都市機能の麻痺を招く。

 たとえそれが一時的でも、その一時の混乱が欲しい者にとっては十分な成果だ。


「相手の目的は知らん。俺たちはユアの生活の為にこいつらを綺麗さっぱり掃除しなきゃならん」

「ユアちゃん逃がすだけなら私たちでどうとでもなるけど、あの子はきっと行かないだろうなぁ」

「そーゆーことだ。よって邪魔する奴はユアが寝てる間にこっそり全員ブチ殺す。名付けて、寝る子を起こすな大作戦」

『あるいは寝る子を起こす連中に永遠に眠って貰う大作戦かな。ただし眠って貰う連中の数がとにかく多い。『アトランティード』及び新型らしき隊長機格、合わせてなんと717機』


 以前の『チューボーン』は100機連れてきたが、それでもオウルの奇襲で実際に相手にした数はもっと少なかった。それが、今度は完全状態で七倍以上だ。テウメッサが呆れ果てたとばかりに額に手をやる。


「流石は巨大企業。ジルベス陸軍でもそんな数のパワードスーツを数日でいきなり動員できやしないよ」

『加えて、数えるのが馬鹿らしい数のドローンたちには遠隔起爆可能な鉱山採掘用のANFO爆薬が括り付けられている。町から逃げる人を爆撃するためだろうね』

「発想がテロリストなんだよなぁ。何がそこまで彼らをかき立てるんだ?」


 テウメッサが腕を組んで首を傾げるが、確かにベクターホールディングスが何故この町に固執するのかは不明だ。

 これだけの規模で人員を動かし滅茶苦茶な命令を正しく実行させられるのは社長ロイド・ベクターしかいない筈だが、こんな真似をすれば如何にラージストVの一角とはいえ非難や制裁は免れない。あの天下のベクターの社長がこんな浅慮で意味不明な凶行に走るというのはしっくりこない。

 未だ終わっていない幹部会議のことを思い出し、オウルはロイド・ベクターが既に死に、会社を別の何者かが乗っ取ったのかもしれないと推察した。


 いずれにせよ、敵の数も目的も今の四人には関係ない。

 殺す必要性があればクアッドは人を殺すし、今のオウルたちにとってその判断基準は実にシンプルだ。


「ユアを脅かす相手がいるなら、それはもう脅かした方が悪い」

『彼女は特に何の犯罪も犯さず平和で善良な市民として暮らしているだけだから本当に悪い奴らなんだよなぁ』

「端的に言ってそんなろくでなしは死んだ方が良いと世間は思うだろうね」

「それはいいとしてさぁ。その謎の移動要塞とやらに乗ってる社長が指揮系統の頂点なら、その人暗殺しちゃえばよくない?」


 ミケの率直な疑問に、サーペントが答える。


『問題はそこなんだ。ついさっき散々探りを入れて漸くあの移動するモノの正体が分かったんだけど……あれは『K.O.G.』。キングオブガーデナーの頭文字だそうだ』

庭師王キングオブガーデナー?」


 確かにデータによるとこれが通り過ぎた後の土はふかふかになっていたそうだが、トウモロコシ畑を作るにしても巨大過ぎるのが気にかかる。


『名前はさておき、だ。この巨大な――恐らく人類の歴史上最大の『はたらくのりもの』は、超大出力プラズマリアクターを採用している。このリアクターが曲者でね。うっかりぶち壊すと有害物質を撒き散らして大爆発するんだ。しかも重機内にもぺんぺん草と永久におさらばする最高の除草剤がたんまり詰まっている。よって力尽くでぶち壊すと周辺一帯大汚染だ』


 テウメッサが「最悪じゃん」と渋い顔をする。

 ただ単にその地が汚染されるというだけなら話は簡単だが、有害な塵が巻き上げられれば風向き次第でこの町に来て住民を病気にする可能性はあるし、土壌汚染や水の汚染がどんな波及のしかたをするか予測しきれない。

 汚染された魚を口にしたユアが一生介護が必要な生活を強いられる身体になりでもしたら、クアッド自身がユアを脅かしたとして全員自殺モノである。


『なら社長のみを殺ればいいじゃないかって話になる訳だが、プラズマリアクターは安全性保持のために原子力空母の炉心並にガチガチのシールドで覆われてて、『K.O.G.』の中枢部――つまり社長のいる場所も同じみたいなんだよ』


 サーペントの言わんとすることを理解したオウルは指を組んで眉を寄せる。


「中枢ごとぶち抜く火力を出せば必然的にこのバカでかい薬品樽が吹っ飛ぶ。なので業者みたいに綺麗に解体する必要がある。そういうことだな?」

『プラス、町を取り囲んだチンピラパワードスーツ717機をなるべく早急に片付ける必要も』

「シャッチョーさんがヤケになって子分に皆殺しだーとか命令したらどっちにしろ町は大変なことになるもんね。先手取らないと守り切るのは厳しいよ?」

「つまり……全員出撃かな?」


 テウメッサがへらりと笑いながら口にしたそれは、クアッドにとって特別な意味を持つ。

 クアッドはユニットを所持しており、これを用いれば如何なる暗殺も容易だ。

 故に、クアッドは一つの暗殺任務に対して全員が同時にユニットを使用したことが、唯の一度も無い。もし今回全員出撃するとすれば、恐らくは歴史上初。


 否、そもそも戦略兵器たるユニットが一作戦のために四機同時に投入される事態が、人類史上初。


「一般人の女一人守るためにユニット四機か。狂ってやがるな、この世界」


 オウルは皮肉げに嗤う。

 言ってしまえばそれは、子供同士のいたずらでやられた側が報復に核兵器をぶち込むようなあり得ない暴挙だ。過剰という概念すら通り過ぎて支離滅裂の段階に差し掛かっている。

 しかし、この広い世界で何千億という人間がいる中で、そのうちのたった一人を本気で守ろうとしたら、こんなものまで必要になる。それがオウルたちの生きているこの世界らしい。


「サーペントは防衛に専念。及び各機のサポート」

『了解。『アーク・ウィザード』、町とユアちゃんを防衛する』


 ユアから貰ったユニット名に少し付け足したそれは、他の者たちも同様だ。


「テウメッサとミケは雑兵を片っ端から食い散らかせ」

「了解。『ワイルド・ジョーカー』……盤面を荒らさせてもらう」

「りょーかーい。『キティ・エンプレス』でいいヒト狩猟ハントできるかな~?」


 皆が思い思いの名前をつけているが、オウルだけは違う。

 と言うのも、他の三人が勝手に決めてしまったのだ。

 三人の期待の視線が一斉にオウルに向く。

 お前も言え、とばかりの目に、オウルは一つため息をつくと首を回す。


「『K.O.G.』は俺がやる。俺と『ナイト・ガーディアン』がな」


 曰く、守る時はknight(騎士)で、殺すときはnight(夜)だそうだ。

 オウルのイメージを守りつつユアの意見も反映させたかったらしい。

 安っぽい名前だと思うし自分を守護者ガーディアン呼ばわりするのは癪だが、役者名だと思えば滑稽なくらいが丁度いい。


「サーペント、タイムリミットは?」

『幸いK.O.G.が加速する様子は見られないけど、万一加速した場合を想定して……情報漏洩対策の下準備も込み込みで30時間後の暗殺開始を提案する』

「オーケー。相手の動き次第では強行するので全員そのつもりで。じゃあ『K.O.G.』とパワードスーツ部隊の殺し方をざっと決めるぞ」


 ふと気付くと、ミケが面白そうに横目でオウルを見ていた。


「なんだその顔?」

「面倒臭そうだったのに楽しそうだなって」

「こんな馬鹿騒ぎはそうそう経験できやしない。楽しまない方が損だろ?」


 イタズラっぽいオウルの笑みが、クアッドに伝染していく。

 どうせやるなら楽しんで――オウルの口癖みたいなその言葉は、殺し屋という決して世界に肯定されることのない彼らの存在意義を世界に固着させる言霊となって染み渡る。皆がそれでいいんだという気分にさせられる。

 オウルというリーダーは、クアッドにとってそういう存在だった。

どうでもいい豆知識:

この世界のプラズマリアクターはダウンサイズが難しくてまだ動力源としての実用化ケースは少ないが、大型のものであれば安定して使える。が、実は『K.O.G.』にプラズマリアクターが採用されているメインの理由は別にあったり。

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