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ラミアな子と迷宮採取人 ~ペットから始まる家族物語~  作者: 藤正治
第一章 ラミアな子と迷宮採取人
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26.幕間~ハミング・ソウル~

連日投稿 第三弾


二話同時投稿の一話目

 百層にも及ぶ巨大ダンジョンに挑んだ、五人組の冒険者達。

 数々の苦難を乗り越えた彼らは、ついに最深奥にある玉座の間に到達したのである!


「よくぞここまで参った、愚かな冒険者どもよ」

 玉座に座っていた黒衣の人物が、嘲りを込めて告げる。

「キサマの悪行もここまでだ、魔王!」

 冒険者達のリーダーが、剣を掲げて叫ぶ。

「キサマを倒して、平和な世界を取り戻す!」

「ふん、俺を倒すだと? いいだろう、相手をしてやろう」

 冒険者の威勢の良いタンカを、魔王と呼ばれた男がせせら笑う。

「恨むなら、己の無力さを――――」


「お父様?」


 玲瓏と澄んだ声が、男の言葉を遮る。

 男の膝に、しどけない格好でもたれているモノがいた。

「冒険者など、お父様の手を煩わせるまでもありません」

 清楚な美貌と、相反して漂う妖艶さ。

 男を見上げた拍子に、輝く白金の髪がさらさらと流れる。


「不埒な侵入者など、私が追い払いましょう」

 上半身は女人の姿を模しながら、下半身は蛇の胴体そのもの。

 その正体はラミア、伝説のモンスターである。

「愛しい娘よ」

 男の指先が彼女の髪を指先で梳り、そっと頬に触れる。

「下賎の輩を、そなたに近寄らせてなるものか」

「まあ、お父様ったら」

 男に頬を撫でられ、ラミアがうっとりと目を閉じる。

「すぐに片付けるから待っていろ」

 男は立ち上がり、傍らに立て掛けていた大剣を手に取る。


「さあ、冒険者ども! 貴様らに絶望というものを教えてやる!」


 男が大見得を切ると、冒険者達も臨戦態勢に入る。

 一触即発の、まさにその時。

 竪琴を背負った少女が、冒険者達の後ろから進み出た


 ショートカットの黒髪に、快活そうな面立ち。

 派手な色柄の衣装に、工芸品のような白銀の装備。

 腰に提げた剣の柄には、黄水晶が嵌め込んである。

 人目を惹く煌びやかな装いは、まるで役者のようだ。

 その歩みは自然で、男が気付いた時には目の前にいた。

 少女が、ビシッと指を突き付ける。


「なんなの! この三文芝居は!!」


「――――え?」

 遅ればせながら身構えようとした男が、間の抜けた声を漏らす。

「なーにが、魔王よ! 迷宮都市で上演していた舞台の、パクリじゃないの!」

「あ、あの?」

 戸惑う男に、少女はさらに言い募る。

「こっちは大忙しだったのにさ、自分だけ遊んで!」

「……いったい、なんの話だ?」

 地団駄を踏む少女に、男が遠慮がちに尋ねる。

「すっごく面倒だったんだからね! 感謝しなさい!」

「あ、うん。ありがとう?」

「まったくもう、無茶をして」

 少女が恨めし気に睨んだ後、ため息をこぼした。

「でもまあ、冒険者ってやつは命を張ってナンボだからね」

 口調を和らげた少女は背伸びして、男の肩をバシバシと勢いよく叩く。

「よく頑張ったわね! えらい!」

 少女が笑う。明るい日差しに咲く、花のような笑顔だった。


「これからも後先考えず、ガンガンいっちゃいなさい!」

「いや? それはどうなんだろう?」

 訳も分からず突っ込んでから、男は改めて少女を見詰める。

「ところで、君は誰だ? どこかで会った覚えがあるんだが?」

「わたしのことは気にしないでいいよ。どうせ忘れちゃうんだから」

 そこで少女が、ふと辺りを見回した。

 形の良い眉をひそめ、物思わしげな顔になる。


 玉座の間は刻が静止し、モノクロに色あせていた。

 ラミアも、冒険者達も、彫像のように微動だにしない。

 まるで幕が下りた人形劇の、舞台裏のような侘しげな光景だ。

 少女は背負っていた竪琴を、くるりと前に回して抱えた。

 撫でるように弦を鳴らすと、美しい音色が響き渡る。


「二人は深い迷宮の奥底で、いつまでも幸せに暮らしましたとさ」


 昔話を締めくくるような台詞を、少女は抑揚をつけて口ずさんだ。

「物語としては、それなりに美しい終わり方だと思うけどね?」

 少女は竪琴をつま弾きながら、口をへの字に曲げる。

「あなたと、あの子の物語は、まだ始まったばかりじゃないの」

 鼻を鳴らした少女が、男を真っすぐ見詰める。

「隠居なんて気が早過ぎよ。まずは平凡な日常の物語を(つむ)ぎましょう」


 少女の指先が弦を躍り、軽快な曲を奏で始めた。

「楽しく踊って、陽気に騒いで」

 その旋律を耳にした男が、驚きの表情で目を見開く。

「夢中になって遊んで、美味しく食べて呑んで」

 足を踏み鳴らしてリズムを取りながら、少女が歌う。

「ちょっぴりおセンチになって、ケンカして仲直りして」

 少女が白い歯を見せて笑う。

「たまに強敵の襲撃があったりなんかして!」

「それは平凡じゃない、たぶん」

 再び突っ込んでから、男は畏怖の念を込めて少女を見詰める。


「その曲に、腰に提げた剣と竪琴…………まさか貴女は」

 男の問いに、少女は悪戯っぽく片目をつぶった。

「大きな損傷は修復したけど、ちゃんと養生するんだよ?」

 少女がひと際高く竪琴を鳴らすと、夢の世界が反転する。


「とりあえず! 明るく元気な人生を目指してみようね!」


もう一話、投稿します。

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