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ラミアな子と迷宮採取人 ~ペットから始まる家族物語~  作者: 藤正治
第一章 ラミアな子と迷宮採取人
20/30

20.ラミアの子とブロック崩し

「子供の頃、どんなオモチャで遊んでいたか?」

 アンナに訊き返され、レイクはこくりと頷く。

 本日の納品が終わった後、彼女に尋ねてみたのである。



 フムムと、アンナは腕組みして考え込む。

「こん棒が一番だったわね」

「え? こんぼう?」

 返答が予想外で面食らったのか、レイクは目を瞬かせる。

「愛用していたのがあったの。当時の背丈よりも長くて、丈夫で、しなりがあって」

 アンナは、懐かしそうに目を細める。

「木の実を落としたり、溝を飛び越えたり、ヤギを突っついて驚かせたり」

「いや、その……」

「悪ガキ共を、さんざん叩きのめしてやったこともあったわね」

 本人にとっては良い思い出なのか、楽しそうに語るアンナ・パッシーニ。

「五人相手に大立ち回りした挙句、折れちゃったの」

 ちなみに、とある男衆の頭には、その時の傷跡がいまも残っている。


「ごめん、そういうのじゃなくて」

 ちょっと待ってと、レイクは手で押し止める仕草をした。

「え?」

「もっと普通の、女の子らしいやつで頼む」

「…………………へえ?」

 アンナは片眉を上げ、冷やかな目付きでレイクを睨んだ。

「いや、そういう意味ではなくて」

「そういう意味って、どういう意味?」

 低い声音に気圧され、レイクはそそくさと雑貨屋から立ち去った。


 帰り道の途中で、レイクはフォレス夫人ことミリアに出会った。

 彼女にも同じことを質問して、人形遊びや積み木遊びなどについて教えてもらう。

 やっぱりアンナが例外なのだと、レイクはちょっと安心した。


 ◆


「作り過ぎたか」

 翌々日、作業を終えたレイクが、テーブルの上を見て反省する。

 角砂糖程の大きさの、様々な形状のブロックが一〇〇個以上転がっていた。

「ほら、ミミイ」

「ミッ?」

 自分の尻尾を枕に微睡んでいたミミイが、むっくりと上半身を起こす。

 寝ぼけ眼の彼女の前に、レイクはブロックをかき集めて押しやった。

「プレゼントだ」

 ミリアから聞いた話の中にあった幼児向け玩具、積み木を作ったのである。


 レイク・ヘンリウッズという男には、工匠の気質があった。

 半ば趣味で古い時代の装備や道具を買い集め、修復や複製を手掛ける程だ。

 魔術で素材の組成を読み取り、変成もできるので、本職に劣らない技術力がある。


 そして今回、その腕前を存分に発揮したのが、ミミイのための積み木である。

 日中、彼女が家の中を徘徊するのは、つまり退屈だからだ。

 ならば一人で遊べるオモチャがあれば、危ない場所に入り込まなくなる。

 レイクは、そう考えたのである。


 村では積み木を木工品の端材で作るが、レイクは得意の鉱物系素材を加工した。

 四角や三角、円筒や球形と、形状は様々なバリエーションを取り揃えてある。

 内部は多孔質で軽量化を図り、角を落として安全に配慮した作品だ。


「ほら、ミミイ」

「ミッ?」

 四角いブロックを渡され、ミミイは不思議そうな顔で受け取る。

「あっ」

 止める間もなく、ミミイはブロックに齧りついた。

「ミー!?」

「いや食べ物じゃない、オモチャだよ、これで遊ぶんだ」

 落したブロックを拾って渡そうとするが、ミミイはそっぽを向く。

 食べ物でないと知って、興味を失ったらしい。

 遊び方のお手本を見せようと、レイクは四角い形状のブロックを選り分ける。

「…………ふむ」

 しばし考え込んでから、ブロックを積み上げ始めた。


「ミー?」

 顔を背けていたミミイが、ちらりとレイクの手元を窺う。

 次第に興味をそそられたのか、高くなっていくブロックを熱心に見守り始めた。

 レイクは天辺に三角形のブロックを乗せると、

「ほら、完成だ」

 ちょっと自慢げなレイクは、出来上がったピラミッド状の山を披露した。


「ミ――――ッ!」


 両手を広げたミミイが、いきなりブロックの山に体当たりした。

「ええっ!?」

 せっかく作ったピラミッドの山がバラバラになり、レイクが大声を上げる。

 倒れたミミイはムクリと起き上がり、散らばったブロックを見回すと、

「ミミッ!?」

「いや、自分で壊したんだろうが」

 レイクが半眼で突っ込む。

 眉尻を下げたミミイが三角形のブロックを拾い、レイクに向かって掲げた。

「ミ~~」

 何を言わんとしているのか、レイクにはちゃんと伝わったが、

「自分で作り直しなさい」

「ミイィ~~ミイィ~~」

「いや、だから――――」

「ミイィ~~ミイィ~~」

 ミミイは最近覚えた、おねだりのスキルを発動した。

 焼き菓子が欲しい時と同じように、何度も繰り返し訴える。

「…………もう一度だけだぞ? 今度は自分でやるんだぞ?」

 根負けしたレイクがブロックを積み上げたが、

「ミ――――ッ!」

「だから、なんでだよ!?」

 ミミイは再び、ブロックの山に突っ込んだ。


 作ってもらった積み木を、ミミイは大変気に入ったらしい。

 しかし間違った遊び方を憶えてしまい、

「ミイィ~~ミイィ~~」

 レイクは何度もブロックを積んでは、バラバラにされる羽目になった。

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