20.ラミアの子とブロック崩し
「子供の頃、どんなオモチャで遊んでいたか?」
アンナに訊き返され、レイクはこくりと頷く。
本日の納品が終わった後、彼女に尋ねてみたのである。
フムムと、アンナは腕組みして考え込む。
「こん棒が一番だったわね」
「え? こんぼう?」
返答が予想外で面食らったのか、レイクは目を瞬かせる。
「愛用していたのがあったの。当時の背丈よりも長くて、丈夫で、しなりがあって」
アンナは、懐かしそうに目を細める。
「木の実を落としたり、溝を飛び越えたり、ヤギを突っついて驚かせたり」
「いや、その……」
「悪ガキ共を、さんざん叩きのめしてやったこともあったわね」
本人にとっては良い思い出なのか、楽しそうに語るアンナ・パッシーニ。
「五人相手に大立ち回りした挙句、折れちゃったの」
ちなみに、とある男衆の頭には、その時の傷跡がいまも残っている。
「ごめん、そういうのじゃなくて」
ちょっと待ってと、レイクは手で押し止める仕草をした。
「え?」
「もっと普通の、女の子らしいやつで頼む」
「…………………へえ?」
アンナは片眉を上げ、冷やかな目付きでレイクを睨んだ。
「いや、そういう意味ではなくて」
「そういう意味って、どういう意味?」
低い声音に気圧され、レイクはそそくさと雑貨屋から立ち去った。
帰り道の途中で、レイクはフォレス夫人ことミリアに出会った。
彼女にも同じことを質問して、人形遊びや積み木遊びなどについて教えてもらう。
やっぱりアンナが例外なのだと、レイクはちょっと安心した。
◆
「作り過ぎたか」
翌々日、作業を終えたレイクが、テーブルの上を見て反省する。
角砂糖程の大きさの、様々な形状のブロックが一〇〇個以上転がっていた。
「ほら、ミミイ」
「ミッ?」
自分の尻尾を枕に微睡んでいたミミイが、むっくりと上半身を起こす。
寝ぼけ眼の彼女の前に、レイクはブロックをかき集めて押しやった。
「プレゼントだ」
ミリアから聞いた話の中にあった幼児向け玩具、積み木を作ったのである。
レイク・ヘンリウッズという男には、工匠の気質があった。
半ば趣味で古い時代の装備や道具を買い集め、修復や複製を手掛ける程だ。
魔術で素材の組成を読み取り、変成もできるので、本職に劣らない技術力がある。
そして今回、その腕前を存分に発揮したのが、ミミイのための積み木である。
日中、彼女が家の中を徘徊するのは、つまり退屈だからだ。
ならば一人で遊べるオモチャがあれば、危ない場所に入り込まなくなる。
レイクは、そう考えたのである。
村では積み木を木工品の端材で作るが、レイクは得意の鉱物系素材を加工した。
四角や三角、円筒や球形と、形状は様々なバリエーションを取り揃えてある。
内部は多孔質で軽量化を図り、角を落として安全に配慮した作品だ。
「ほら、ミミイ」
「ミッ?」
四角いブロックを渡され、ミミイは不思議そうな顔で受け取る。
「あっ」
止める間もなく、ミミイはブロックに齧りついた。
「ミー!?」
「いや食べ物じゃない、オモチャだよ、これで遊ぶんだ」
落したブロックを拾って渡そうとするが、ミミイはそっぽを向く。
食べ物でないと知って、興味を失ったらしい。
遊び方のお手本を見せようと、レイクは四角い形状のブロックを選り分ける。
「…………ふむ」
しばし考え込んでから、ブロックを積み上げ始めた。
「ミー?」
顔を背けていたミミイが、ちらりとレイクの手元を窺う。
次第に興味をそそられたのか、高くなっていくブロックを熱心に見守り始めた。
レイクは天辺に三角形のブロックを乗せると、
「ほら、完成だ」
ちょっと自慢げなレイクは、出来上がったピラミッド状の山を披露した。
「ミ――――ッ!」
両手を広げたミミイが、いきなりブロックの山に体当たりした。
「ええっ!?」
せっかく作ったピラミッドの山がバラバラになり、レイクが大声を上げる。
倒れたミミイはムクリと起き上がり、散らばったブロックを見回すと、
「ミミッ!?」
「いや、自分で壊したんだろうが」
レイクが半眼で突っ込む。
眉尻を下げたミミイが三角形のブロックを拾い、レイクに向かって掲げた。
「ミ~~」
何を言わんとしているのか、レイクにはちゃんと伝わったが、
「自分で作り直しなさい」
「ミイィ~~ミイィ~~」
「いや、だから――――」
「ミイィ~~ミイィ~~」
ミミイは最近覚えた、おねだりのスキルを発動した。
焼き菓子が欲しい時と同じように、何度も繰り返し訴える。
「…………もう一度だけだぞ? 今度は自分でやるんだぞ?」
根負けしたレイクがブロックを積み上げたが、
「ミ――――ッ!」
「だから、なんでだよ!?」
ミミイは再び、ブロックの山に突っ込んだ。
作ってもらった積み木を、ミミイは大変気に入ったらしい。
しかし間違った遊び方を憶えてしまい、
「ミイィ~~ミイィ~~」
レイクは何度もブロックを積んでは、バラバラにされる羽目になった。




