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山田太郎の嘆き  作者: 無一文
28/29

預言者だとか 前編

「山田さんバイトしませんか?」


 天使一号さんから電話がかかってきた。


「この前みたいに、村人が足りないからと言って、冒険者が来るたびに『ここは○○村です』って言い続けるだけの苦行じゃないでしょうね?」

「あの時は、本当に申し訳なく思ってます……」


 今回の様に、バイトだと誘われファンタジー世界に行ったものの、やらされたのは村人Aという端役。

 村から出られないわ、ネットやゲームなども持ち込み禁止でやる事ないわ、他の村人達は同じ事しか喋らない上に常に同じ場所を移動し続けるというコミニュケーションも取れない場所で、とてつもない苦行だったのだ。


「今回は、世界中を回れますよ! 住人達もちゃんと考えて行動してますし、現地での生活費用もこちらで用意します! しかも美味しい役どころですよ!」

「ほほう……戦闘とかは無理なんだが」

「全く戦闘の必要がないんです!」

「どんな役なの?」

「預言者です」

「は?」

「勇者の行く先々で、タイミングよく出てきては持って回った言い方で預言を告げて、勇者を魔王討伐まで導くだけの簡単なお仕事です!」

「メッセンジャーボーイじゃねぇか」

「否定はしません!」

「してくれよ……」


 しかし、珍しく存分に異世界を堪能できそうだ。


「ちなみにエルフとかいる?」

「いますよ!」

「行くわ」


 即決だった。



---



 そんなわけで久々の『ヤマダワールド』に存在するファンタジー風の異世界にやって来た。

 一応、不思議な存在である事を示すために魔法使い風のローブを身に纏い、仮面で顔を隠している。

 現地通貨も頂き、あとは呼びだされた時に自動で転送され、一号さんから伝えられる言葉を、勇者とやらに告げれば良いだけなのだ。


『でもこれってAIで良くね?』

『住人達が思考を始めたので、AIだと臨機応変な対応が難しいんですよ』


 と、俺の思考に、脳内に直接返事をしてくれる一号さん。この仮面を着けている時は、テレパシー的な会話が可能らしい。

 確かに、何を言ってくるか分からない相手にAIだけで対応は難しいだろうし、天使さん達も忙しいだろうしなあ。


 見知らぬ町並を物珍しげに歩いていると、早速一号さんから声が掛った。


『早速出番です! 山田さん!』

『分かった』


 突然、体が転送されて見知らぬ祭壇の前に移動していた。

 そして、俺の目の前に立っていたのは……。


「んだよ? ここドコなわけ?」


 物凄くアレ気な茶髪のピアスを付けた男子高校生がキョロキョロと周囲を見回していた。


『おい、嫌な予感しかしねえぞ』

『人選については、こちらの管轄ではない物で……』

『相変わらずの縦割り社会だなオイ』


 脳内会話をしている俺を見つけたピアス君は俺を見て声を掛けてきた。


「えっとー、アンタ誰? ここドコなわけ? 俺の事、シブ高のタクミって知ってて拉致ってんの?」


 なんかイラっとした。


『堪えてください! とりあえず、お前は勇者として、魔王を倒すべくこの世界に召喚された。と伝えてください』


「私は預言者だ。お前は勇者として、魔王を倒すべくこの世界に召喚された」

「は? 漫画とかアニメの見過ぎで頭おかしい奴なの? 俺とやんの?」


 脳内で一号さんにSOSを求める。


『駄目だ! こいつお約束とか全く分かってないタイプだ! こんな奴は呼んじゃダメだろ!』

『ちょ、ちょっと待ってくださいね……えーっとマニュアルマニュアル……』


 バサバサと資料をめくる音が聞こえる。

 いかん。一号さんが一杯一杯になってる。

 その間も、俺に顔を近付けて睨み上げてくるピアス君。

 うん、この流れだと胸ぐら掴まれそうだね。

 見せてやろう! 山田太郎の実力を!


「タクミさん、お久しぶりっす! 山田っす!」

「はぁ? 山田ぁ?」

「ええ、中学の頃にお世話になってた……」

「あーん?」


 急にペコペコ頭を下げつつ、手を揉みながら話し始める俺を不思議そうな目で見るピアス君。


「あー……、やっぱ覚えてないっすよね……一個下で影も薄かったですから……」


 ションボリと項垂れる俺を見て、焦り始めるピアス君。


「あー! 山田な! ごめんごめん! 仮面してっから分かんなかったわ! あれだろ! 体育祭の時に一緒に応援団やった!」

「そうっす! その山田です! 覚えててくれたんっすね!」

「あったりまえだろ!」


 俺の肩をバシバシ叩きながら笑うピアス君。

 どの山田と勘違いしてるかは知らんが、とりあえずは最初の関門は突破したようだ。


「で、どうしたんよ? ここドコなわけ?」

「ええっと、タクミさんゲームとかやってましたっけ?」

「いや、全然」


 いきなり取っ掛かりが消えました。

 でも、めげてはいけない。ピアス君を立派な勇者にせねばならぬのだ。


「あの、ここゲームっぽい世界みたいなんすよ」

「はぁ?」

「自分も少ししか分かってないんすけど、魔王って奴が悪さしてて皆迷惑してるみたいなんですよね」

「マオー? 何ソイツ俺より強いわけ?」

「いや、タクミさんならワンパンっすよ!」

「しょっぼいな。山田やって来いよ。俺、用事あるから帰るし」


 そう言って、祭壇の方へ帰ろうとするピアス君。

 このままではいけない!


「タクミさんにしか頼めないんっす! 自分じゃ手も足も出なくて!」

「あんだよ……しゃあねぇなあ。呼んで来いよソイツ。ボコッてやっから」


 あー、そう来ましたか。

 どうしたものかな。


『山田さん! 魔王が呼びだしたって事にしましょう!』

『その手があった!』


 まさに天啓という一号さんからのお告げが来た!


「実は、その魔王がタクミさんや自分をここに連れて来たみたいで……そいつ倒さないと家に帰れないんすよ……」

「はぁ? マジ言ってんのソレ? じゃあ今日のペロの散歩誰がやんだよ!?」


 ペロって何だろう? 犬? こう見えて犬好きなのピアス君?


「ムカつくわ! そっこーソイツボコって来るわ!」


 そのまま、愛犬家のピアス君はダッシュで祭壇から出て行った。

 それと同時に、俺は町外れに転送されたのだった。

 一号さんから脳内会話が届く。


『山田さん凄いですね』

『旅立ちはしたものの、これからどうすんだよ……アイツ絶対勇者とか魔王とか分かってないぞ』

『ちょ、ちょっと流れを見つつサポートしていきましょう』

『預言者の仕事じゃねぇだろソレ。というか、最初のクエストって何なの?』

『まずは、情報と仲間を集めるために、ギルドに向かってですね……』

『予言しておくが、ピアス君は町中で魔王の居場所を聞きまくった挙句に衛兵に捕まって牢屋に行くぞ』

『まさか、そんなわけ……あ、衛兵に捕まった』

『早いなオイ! どうすんだよ!』

『ああ! 衛兵殴って大乱闘が!?』

『ポリス沙汰じゃねェか!』


 こうして俺の次の仕事は、ピアス君の身元引受人になる事だった。

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