小ネタだとか その7
気が付くと僕は廃墟の一室に放置されていた。
起き上がり部屋を見回すが、モニターが一つあるだけ。
窓は板で打ちつけられており、とても外の様子を伺えそうもない。
持っていたスマホも手元にはない。
すると、モニターから突然映像が流れ始めた。
「キミタチニハ、コレヨリゲームヲハジメテモラウ」
モニターに映し出されたのは、逆さの髑髏マーク。
聞こえてきたのは、明らかにボイスチェンジャーで変えられた声。
「僕が何をしたって言うんだ!?」
「キミタチハ、ワスレタカモシレナイ。ダガ、ワタシハオボエテイル」
それだけ告げると、モニターの映像は途切れた。
僕が忘れている? ゲーム?
一体何が始まろうとしているんだ?
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「はい、というわけで、何か殺人鬼っぽいのが、この一角を利用してデスゲームっぽい事をしようとしていまーす」
ここは廃墟の密集した地域。
いわゆるゴーストタウンである。
俺は部活メンバー全員に告げる。
「これ、解決する必要あるのぉ?」
「何か、今までと雰囲気違うからやり難いんだけど」
「もう、全部C4で爆破しませんカー?」
「インフェルノ使っても良いぞ?」
アホの子たちを前にして、俺は盛大に溜息を吐いて俯いた。
「俺もな、本当はこんな事に手を回したくないんだ……ポリス様にご報告して終わらせたいんだ」
「じゃあ、そうすれば良いじゃなぁい?」
瀬川の言葉に俺は首を横に振る。
そして、呼吸を整え、次の言葉を発した。
「何でか知らんがターゲットに猫田が紛れている」
「俺帰るわ」
「ボクモー」
即答で逃げようとする陣内とボブの頭をがっしりと瀬川が掴む。
「あらぁ? じゃあ部員全員の力が必要なわけねぇ?」
「ちょっと! 鳴っちゃいけない音がしてるから!」
「プリーズ! プリーズ!」
ミシミシとアイアンクローで締め上げられる二人を見ながら俺は頷く。
「というか、デスゲームじゃない別の物に代わる可能性がある」
プッという音と共に芥川が鼻血をまき散らしながらのけ反った。
「ご褒美じゃない!! 何で止めるのよ!?」
「ダメよぉ! 愛! このままでは私たちのハーレムエンドが達成できないのよぉ!?」
ボブと陣内を投げ捨てると、瀬川は芥川に抱き着く。
何か二人とも目がグルグルしてんなあ。
なお、陣内とボブは壁に顔だけめり込んだ前衛的なオブジェクトと化している。
「でも、有栖も××で××な状態な生徒会長を抱きかかえた猫田君とか見たくないの!?」
「私だってぇ! 『手間のかかる奴だな』って言われながら肩を貸してた副会長の××が××されて呆然とした猫田君が血まみれで泣き叫ぶ姿とか見たいわよぉ!?」
あかんんわ。この人達。
「もう生徒会室ごと某海外ゾンビドラマに投げ込んじまえよ」
その言葉に、我に返ったのか俺を見る二人。
「その手があったわぁ……」
「ねぇよ!!」
ハリセンで二人を正気に戻すことにした。
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「で、ボス? ミッションの詳細は?」
普段のキャラに戻り切れていないボブが首を鳴らしながら俺に質問する。
「とりあえず、デスゲームと言えば、参加者同士に殺し合わせるのが常識なので、その裏を突きたいと思う」
「つまり?」
「いきなり主催者の首を取る」
ニンマリと笑う俺に合わせて笑う陣内とボブ。
「お膳立てを台無しにしてやろうってのは最高―」
「駄目よぉ!? 何言ってるのぉ!?」
人選を間違えたことに気付いたのはこの瞬間だった。
ダイアーク呼べば良かった。
「見てみなさぁい!?」
瀬川が指差す先にはデスゲーム主催者の提示した条件が表示されていた。
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『キミタチニハ、テジョウヲカテタジョウタイデ、イスニスワッテモラウ』
手錠は既に後ろ手に掛けられている。
目の前の扉が開きそこに現れたのは―
「こんなの……耐えられないよ!」
『タエテモラウサ、10プンカン! シタガワナケレバ、チョーカーニシコマレタ爆弾ガ……』
「くっそう!」
僕は、意を決して目の前の三角木馬に飛び乗った。
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「なあ、山田もう帰ろうぜ?」
「ボクもこんな趣味はないですヨー?」
「デスゲームって何だっけ?」
俺達の会話を他所に、喘ぐ男たちの声を聞きながら鼻血を垂らしている腐れ女子共。
「ちょっとぅ! 山田ぁ! キャプチャー! キャプチャー!」
「あかんですよ! これはあかんですよぉ有栖はん!」
ダイアークにこの動画を送ってやろうと思いながら、無言で動画撮影をする俺。
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三角木馬のゲームが終わると、手錠が自動的に外れた。
部屋の扉が開き、通路が現れる。
なんで薔薇がこんなに……!?
棘で体が傷つくのを感じる。
「くっそ!」
でも生き残るためには進むしかない。
次の部屋に着いた僕が見たものは、上半身裸にされ、磔にされた生徒会長と副会長だった。
目の前にはムチが落ちている。
「ソレデハ、ツギノゲームヲハジメテモラウ」
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「もうこれ放っておいて良くねェか?」
「お家に帰りたいデース」
「俺達にとってデスゲームになってるわ」
モニターの向こうでは、猫田が生徒会長と副会長をムチでシバキ上げている。
と、ある事に気付いた。
瀬川と芥川がいない。
「しまった! あいつ等何処行った!?」
「山田も分かってんだろ?」
そっと俺の肩に手を置く陣内。
「多分ゲームを乗っ取りに向かったんデース」
俺は深い溜息を吐いた
もう、俺達にはどうしようもない。
手の打ちようがないのだ。
この凶行は止められない
三人で顔を見合わせると、そっと家路についた。
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翌日、教室に入ると芥川がツヤツヤしていた。
どうやらご満足されたようだ。
「余計な事は言わないでいい。事件は解決したのか?」
「来週に第二部を開催予定よ!」
元気に答える芥川の頭を思いっきり引っ叩いた。




