小ネタだとか その5
夏休みと言えば水着イベントやひと夏の甘い恋じゃないかね。
何なら時をかけたりするんじゃないのかね。
ということを情熱的に書いて部活メンバーに送信したところ、全員から面倒くさいという、満場一致の意見を頂き、たった一人で海にやってきました山田です。
最近、色んな事に巻き込まれてるから、恋愛関係もいけるんじゃね?
もう人魚とかイカの女の子とかでも良いのよ?
そう思っていた時期が僕にもありました。
主に、昼過ぎ位まで。
特に何の出会いもなく、夕暮れに染まる海を体育座りで眺めてます。
周りに人気もなくなってきました。
所詮はモブだもんな俺。
「モテてえなあ……」
思わず声が出てしまいました。
「本当っすよねぇ」
後ろから返事が返ってきました。
「隣良いっすか?」
「どうぞどうぞ」
モテない男同士語り合おう。
と、横に座った人物を見たら、半魚人でした。
サハギンってやつですね。
そうきたか~~~~~~~~~ッッッ!!!
あくまでも動揺を顔に出してはいけない。
「自分、正太郎って言うんです」
「俺は山田 太郎です」
「太郎つながりっすね」
二人で乾いた笑いをする。
「正太郎さんは異世界から?」
「いえ、九州出身で……ちょっとナンパでもって」
「その人間の女の子を?」
「いや、そんな、もちろん同じサハギンか人魚とかですかねぇ」
「そうですかー」
「山田さんは?」
「似たようなもんですかね……さすがにナンパする勇気はないですけど」
「いや、実は僕もなんすよ。家を出る時はやる気満々だったんですけど、実際に来ちゃうと声もかけられなくて……ヘタレですよねぇ」
他にもいたんだサハギン。
波の音だけが静かに響いている。
「あの、山田さん。ちょっとやってみたい事があるんすけど」
「え、何ですか?」
「あの、ドラマとかで良くあるじゃないですか。砂浜を恋人同士で追いかけあうやつ」
「あー、ありますね」
「あれ、ちょっとやってみたいんすよ」
「男同士で?」
「試しにですよ! 試しに!」
仕方がないのでジャンケンで女役を決めて、お互いに追いかけあうことにした。
「待て待てェぇぇぇぇぇ!」
「捕まってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
砂浜で全力疾走する俺とサハギン。
実際に追われてみたら、超怖いんだもん!
これ捕食されるって!
お互いに息が切れたところで立ち止まる。
「ごめん、怖くて本気で逃げた」
「あ、すんません。じゃあ、次は山田さんが僕追いかけてください」
再び砂浜で全力疾走する俺とサハギン。
「待てぇえぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ」
再びお互い息切れで立ち止まる。
「すんません。なんか経験値にされる気分になって」
「ごめん、俺もクエスト気分になってた」
再び沈黙が訪れる。
「次、壁ドンいってみますか?」
「やってやろうじゃねぇか」
最早お互いヤケクソである。
適当な岩場でサハギンに壁ドンされる俺。
「やっぱ食われる気しかしねえよ。近いし」
「僕もなんか違う気がしてきました」
入れ替わって、壁ドンする俺。
「なんか、気の弱いモンスターをカツアゲしてる気分になってきた」
「非常に的確な表現だと思います」
お互い、溜息を吐く。
「おう、あれやろうぜ。砂浜で花火」
「持って来てるんすか?」
「念のためにな……」
「ああ、家出る時はってやつっすね……」
すっかり暗くなった砂浜で、花火をする俺とサハギン。
「なあ……」
「言わないでください……」
なんだろう? この居たたまれない気分。
「ごめんな……」
「いえ、こっちこそ、すんません……」
二人で最後のヘビ花火を眺める。
「モテてぇな……」
「本当っすね……」
種族は違ってもモテない者同士は引かれ合うらしい。
これもまたひと夏の経験。




