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山田太郎の嘆き  作者: 無一文
17/29

ダンジョンだとか

 夏休みに入ったが、特にイベントなどはない。

 何かあった場合は、部活メンバー各員で連絡を取り合う手はずになっている。

 今日は偽造レポートの為に、郊外を散策に来ている。

 暇なのでと言う理由で、陣内とボブも付いてきている。

 レポートの内容は簡単で、この地域にある物を調べて資料としてまとめるというだけなので、適当にぶらつきながら、見知らぬ建物や気になったものをデジカメで撮影していく。


「地味だな」

「山田クンっぽくて良いと思うヨー」

「お前ら、そのお陰でお菓子や食べたり漫画読んだりできてるんだからな」


 偶には感謝して欲しいものである。

 三人でてくてくと歩いていると、妙なものを見つけた。

 石造りの謎の入り口である。


「なんか変なものがあるんだが……」

「下水道への入り口とかデスカネー?」


 ちょっと奥を覗いてみると、石畳が続いており、明かりには松明が使用されている。


「あからさまにダンジョンっぽいけど、前からあったっけ?」

「いいや、全く記憶にない」


 一応、一度はこの辺りもざっと見て回ったことがあるのだ。

 その時には、こんなものはなかった。


「入ってみる?」

「お宝あるかもヨー」


 楽しげに話すの陣内とボブ。

 こいつら分かってねぇ。


「お前らは良いかもしれんが、俺が死ぬだろうが」

「山田でもスライム位なら倒せるんじゃね?」

「悪いがスライム舐めんな。会った瞬間即死する自信があるわ」

「瀬川サンか芥川サンでも呼びますカー?」

「瀬川は実家……海外に帰省中。芥川は魔法少女たちと海に行くって言ってた」


 魔術関係や魔法関係だろうから、確かにあの二人がいれば良かったのだが……と三人で悩んでいる所に、急に声が掛けられた。


「山田君じゃないか、どうしたんだ?」


 そちらを振り向くと、金髪で赤い瞳、メガネを掛け、整った顔立ちをした20代くらいの男性がいた。

 ダイアークである。

 芥川にネタばらしをした後、どうしても会いたいと言われ、一度会ったことがある。

 芥川の学校生活について色々聞かれ、保護者と面談する先生の気持ちが良く分かった。


「ダイアーク……っていうか、暑くないのかそのコスプレとマント」

「賢者の正装だからな」


 良く見れば汗をダラダラかいている。

 脱げばいいのに。


「アンタは海に行かなかったのか?」

「付いてくるなと言われてしまってな……」


 寂しそうに俯くダイアーク。

 いや、そのコスプレ止めればいいだけだと思うんだが。


「この人がダイアークさん? 俺、芥川さんと同じ部活メンバーの陣内です」

「ワタシの名前はボブデース。同じく部活メンバーデース」

「ああ、君達が……話はよく聞いているよ。山田君から聞いていると思うが、私がダイアークだ。いつも姫様がお世話になっている」


 お辞儀をするダイアーク。


「ああ、そういやお姫様なんだっけ芥川さん」

「忘れてましター」


 珍奇なジュースを買ってくるのが好きな残念女子と言うイメージで定着してしまっている芥川。

 そういえば、ダイアークも魔法関連だったか。


「なあ、ダイアークよ。このダンジョンを知っているか?」

「ふむ? 私は知らないな。いつの間にできたのだ?」


 興味深そうに中を覗くダイアーク。


「何か分かりそうか?」

「入ってみなければ何とも言えないな……」

「やっぱり探索してみようぜ山田」

「ダンジョン探索は男の子の夢ダヨー」


 ダイアークもいるなら問題あるまい。だって賢者だし。

 時間が掛りそうなら引き返せば良いだけの話だ。

 こうして、暇を持て余した男達四人のダンジョン探索が始まったのである。



---



「話には聞いていたが……凄いな」


 出てくるモンスターを次々と殴り飛ばしていく陣内。

 弾が勿体ないからと言う理由でナイフ一本で戦っているボブ。

 そんな二人の戦いっぷりを見て感心する様に呟くダイアーク。

 ちなみに俺は戦闘に参加できないので、ノートを使ってマッピングをしている。


「結構広いな。空間捻じれてるんじゃねえかコレ?」

「ああ、入った時に転移されるのを……」

「早く言えよ!!」


 さすが勿体ぶる事に定評があるダイアークである。


「それじゃあ、壁突き破って行けば、他の世界に出るって事?」

「止めておいた方が良いな。外が亜空間だったら取り返しがつかない可能性もある」


 陣内の質問に即答するダイアーク。


「なあ、気付いた事があったらその場で言ってくれよ?」

「わかった。努力しよう」


 俺の言葉に神妙に頷くダイアーク。

 分かってねェなコイツ。


「見て見て宝箱だヨー」


 ボブが、いかにもな箱を見つけて指差す。

 確かに宝箱のようだが……。

 どうやって開けるんだコレ?


「なあ陣内、宝箱の開け方って知ってるか?」

「こうやって蓋の部分を……」


 押し上げてみるが開かない。


「ボブもさすがにロックピックのスキルはないよなあ」

「切断か爆破する方が早いからネー」

「私の出番のようだな」


 ダイアークはそう言うと、宝箱をペタペタと触り始める。

 そうか、開錠の魔法とかあるのか。

 やがて、立ち上がり姿勢を正すと―


「フンッ!」


 ダイアークは気合と共に思いっきり蓋の部分を蹴り飛ばした。


「開いたぞ諸君!」

「開いたけどね!? 開いたけどさあ!!」


 俺の中でダイアークのポンコツ賢者説が出来上がった瞬間である。

 とりあえず蓋が吹っ飛んだ宝箱の中身を覗いてみる。

 何かの葉っぱと、青色の液体で満たされたガラス瓶が入っている。


「薬草……とポーション……っぽいが」

「そういえば山田、薬草ってどうやって使うの?」

「前にいた異世界では煎じて飲むか、患部に貼り付ける事が―」


 と俺が説明している横から、ダイアークが謎の葉っぱを取りだし、もしゃもしゃと食べ始め、青色の液体で流し込んだ。


「ただの葉っぱと、体力回復用のポーションだな」

「もうちょい調べろや! 何で躊躇なく食べたんだよ! 罠の可能性だってあるだろ!」

「わかった。努力しよう」


 神妙に頷くダイアーク。もう絶対ポンコツだわコイツ。


「ちなみに葉っぱの味は?」

「苦かったな」


 真面目な顔で返答するダイアークが面白かったのかボブが噴き出した。

 半日かけて1階のマッピングが終了したところで、地下への階段を発見した。


「今日中には終わりそうにないな」

「覗くだけ覗いてみようぜ?」


 陣内の言葉に従い、階段を下りてみると、そこは森の中だった。


「転移したようだぞ山田君!」

「見りゃわかるわ!」


 ドヤ顔で言ってくるポンコツ賢者に突っ込んでおく。


「とりあえず、今日は帰ってまた明日かな」

「装備も整えたいしネー」

「水とか食料も用意した方が良さそうだな」

「ふむ。ちょっと待ってくれたまえ」


 何やら地面に魔方陣らしきものを描きはじめるダイアーク。


「よし、これで地上に戻れる」

「帰還魔法かなんかか?」

「うむ。次に来る時も、ここに転移できるようにしてある」


 お、初めて役に立ったぞポンコツ賢者。

 魔方陣に乗ると、見事ダンジョンの入り口まで戻ってこれた。

 すっかり日も暮れ始めている。


「じゃあ、帰ろう……ダイアークって携帯かスマホ持ってるの?」

「勿論だ! 山田君!」


 何か嬉しそうだなコイツ。

 まあ、国が大変だし友達もいないんだろうな。


「どうやって登録すればいいか分からないのだが……」


 取り出したのはご老人向けの携帯だった。


「それ、芥川に選んでもらったろ?」

「さすが山田君だな」


 不敵な笑みを浮かべるポンコツ賢者。

 芥川め。面倒だからってコレにしたな。

 とりあえず、俺達三人のメールアドレスと電話番号を登録してやる。


「ほんじゃ、後で集合時間連絡するわー」


 こうして、夏休みのダンジョン探索は開始された。



---



 次の日は朝早くから集まって貰った。

 集合時間の10分前に到着したのだが、既にダイアークが立っていた。


「おはようっていうか、何時からいたんだ?」

「おはよう山田君! 一時間ほど前からだ!」


 何か楽しみにしていたようである。

 ほどなくフル装備のボブと陣内がやって来て、2階の攻略を開始した。


「森ってマッピングし辛いな」


 どうも同じ所を回っているような気がしなくもない。


「一応、目印は付けているから、迷ってはいないはずですヨー」


 こういう場所での経験が一番豊富なのはボブであろう。

 と、目の前にあからさまに蔦で覆われた壁が現れた。


「これは、多分どっかでスイッチを押して開ける系の扉かな?」

「ジェットサンダーアタァァァック!!」


 陣内がお約束事吹き飛ばした。


「陣内、お前なあ……」

「こういう面倒なの嫌いなんだよね」

「陣内クンがやってなかったら、僕がブリーチングしてたヨー」


 脳筋の集まりである。


「山田君! スイッチがあったぞ!」


 別の通路の奥から嬉しそうにポンコツ賢者が話しかけてきた。


「うん、もうそれいらねぇから戻って来いっていうか、何処にいるんだよ!」


 結局、ポンコツ賢者を回収していたら森の中のマッピングが終わってしまい、ボス部屋の前に辿り着いた。

 巨大なモンスターが通路を阻んで立っている。


「ミノタウロスっぽいのがいるぞ」

「サンダーする? それともインフェルノ?」

「RPG!」


 ボブが楽しそうにRPGを撃ちこんでボス戦は終了した。


「お前ら本当に情緒の欠片もねェな」

「これは……ミスリル製の斧か?」


 ダイアークが興味深げに、ボスの落とした武器を眺めている。


「置いていけ邪魔だけだぞ」

「あ、ああ……」


 チラチラと名残惜しそうに斧を見続けるダイアーク。


「分かったよ! お前持って帰れよ!」

「ありがとう! 山田君!」


 嬉しそうに斧を担ぐポンコツ賢者。

 すげえ不思議な光景だな。


「お前、帰りに警察に捕まるなよ?」

「わかった。努力しよう」


 神妙に頷くコイツの努力はあまり信用できない。


 次の階段を下りると、また石畳の通路に出る。

 チラッとこちらを見るポンコツ賢者。


「うん、わかってるから。転移してるから」


 満足そうに頷いている。


「あ、それと一応、帰還用の魔方陣描いてくれ」

「任せてくれ」


 仕事を任されるのが嬉しいのかウキウキと魔方陣を描くダイアークに質問する。


「ここまでで見たモンスターの中に、お前がいた世界の奴はいたか?」

「いや、いないな。山田君と同じような感じだろう。こちらの文献で見たものが多いな」


 そうなると、やはりまた別の異世界なのか。


「山田君は、こういった冒険をする事が多いのか?」

「いや、ダンジョン探索はゲームでやったことしかないな」

「そうか……私も他の人間とこういった冒険をするのは初めてでな。正直楽しい」

「ダイアークさんも男の子だな」

「男の子なら、一度はやってみたいデスネー」


 そう言って笑い合う俺達。

 偶には真っ当な冒険も良いものだ。



---



『何か、ダイアークが最近凄い楽しそうに魔導書読んだりしてるんだけど。悔しいから有栖の所に遊びに行ってくるわ』


 というメールが芥川から届いた。

 最早、様付ですらなくなったのか。

 そして、そんなに楽しかったのかポンコツ賢者よ。

 このダンジョン攻略が終わったら、紫色のの沼地に体半分埋まりながら『毒の沼地だぞ! 山田君!』と青ざめたドヤ顔で言ってきたダイアークの写真を送ってやろう。


 ダンジョン攻略は現在、120階層を突破している。

 基本的に、陣内、ボブ、ダイアークのごり押しで進んできた。

 探索開始から、早10日が過ぎようとしている。


「しかし、終わりが見えんな」

「てっきり100階で終わりだと思ってマシター」

「俺も俺も」


 ダイアークが、魔方陣を描いている間に、俺達はそんな話をしていた。

 すると、魔方陣を描き終えたダイアークが話しかけてきた。


「何を言っている? このダンジョンは1000階が最奥だぞ?」

「「「は?」」」


 呆然とする俺達にダイアークは話し続ける。


「ああ、転移位置を調べている最中に、ある法則性に気付いてな。試しに転移してみたら1000階が最奥だったのだ」

「気付いた事があったら言えって言ったよな!?」


 俺の怒鳴り声に、俯き答えるダイアーク。


「た、楽しかったんだ……」

「分かるけど、さすがに1000階踏破はねぇぞ。お前もやる事あるだろ」

「夏休み終わったら続けられねえよ」

「ワタシもお仕事ありマース」


 その答えに不承不承で納得したのか、新たに魔方陣を描きはじめるダイアーク。


「いや、悪いとは思ってるんだが、さすがに時間がな……」

「私も本分を忘れて楽しみ過ぎていたようだ……」


 微妙な空気が漂う中、魔方陣を描き終えるダイアーク。


「これで最後だ……」

「ラスボス撃破でダンジョンの入り口が閉じるってお約束か?」

「そんな所だと思うヨー」

「まあ、お前ら戦闘は頑張れ」


 転移した先は、宇宙空間のような星々が輝く空間だった。

 そして、そこで巨大な大魔神のようなものと戦う別パーティーがいた。


「ああ、やっぱり別の攻略者もいたのか」


 偶にボス部屋っぽいのにボスがいなかったり、開きっ放しの宝箱があったり、スイッチによるルート作りが終わっていたりして別パーティーも攻略中ではないのかと思ってはいたのだ。


「ラスボス戦ですネー」

「1000階踏破したのかスゲェなあ」

「む? 危ないぞ!」


 見ていると、そのパーティーは大魔神の攻撃にやられ、全員が倒れてしまっている。

 しかし、その中のリーダーっぽい少年が剣を支えに立ち上がり大魔神に何かを叫んで輝き始めた。


「おお、覚醒イベントっぽくね?」

「これで撃破するのか!」

「他のパーティーメンバーからも力が分け与えられてるみたいデース!」


 そして少年の掲げた剣が空を貫くほど輝いた時―




「ダイアァァァァアァァァァァァァクビィィィィィィィィィィィィィィム!!」




 空気の読めないポンコツ賢者の放った魔法が大魔神を消し去った。


「危ないところだったな」


 額の汗を拭い、満足そうに笑うポンコツ賢者。


「おい、どうするんだよこの空気」

「めっちゃ見られてるぞこっち」

「デンジャラスな匂いしかしないヨー」


 いつの間にか、少年が光輝く剣を掲げたまま、こちらを向いている。


「ダイアーク! 逃げるぞ! 早く! 早くしろこのポンコツ賢者!」

「な、何がだ!?」

「良いから逃げるんだよおおおおおおおお!!」


 俺達は、少年の振り下ろした光の剣に飲みこまれ―



---



『お前の国にはポンコツしか居ないようだな』


 間一髪、逃げることに成功した俺は芥川にメールを送っていた。


『ダイアークはバカだってアンタが言ってたじゃない』


 そう言えばそうだったなぁ……。

 芥川の返信を読みながら涙を流していると、ダイアークからメールが届いた。


『すまないが、何が悪かったのか分からない』


 一からだな一からだ。

 この賢者様にお約束と言うものを教えてやらねばなるまい。

 アサガオの観察日記より大変そうだなと思いながら、俺はメールの本文を作成していた。

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