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山田太郎の嘆き  作者: 無一文
15/29

ループものだとか

「無限ループって怖くね?」


 唐突な俺の言葉に、部活メンバーがキョトンとしている。


「山田クン―」

「頭も打ってないし正常だ。それから芥川、変なジュースを飲ませれば治ると思うな。瀬川も陣内も斜め四十五度からのチョップで何とかなると思うな」


 部活メンバーが全員押し黙る。

 考えたことを一瞬で当てられたからだろう。


「まさか本当にぃ?」

「マジでループ中だ」


 俺は今日という日を、かれこれ30日くらい過ごしている。


「ちなみに、色々相談して対策もしてみた。瀬川に異世界に飛ばして貰ったり、ボブと一緒に国外へ逃亡したり、日付変更線まで陣内に送って貰ったり、芥川に不思議バリアを張って貰ったりした」

「で、どれも駄目だったと」

「うむ。日本時間の午前0時になると、意識が途絶えて今朝の7時に戻される」

「何か、法則でもあるのかしら?」

「ちなみにこれから取り出そうとしているミカンオレンジポン酢ジュースマヨネーズ醤油味は、もはや単なる調味料の味しかしないからな芥川。ちゃんと全部自分で飲めよ」


 鞄に手を伸ばしていた芥川の手が止まる。


「他にも、俺と同じく記憶を共有している人間がいないか探したり、事故に合った人を助けたり、分かれそうな恋人たちをくっつけたりと色々試してみたがループは解けなかった」

「お約束なパターンは全部試してみたって事か」

「結論から言うと、俺の全く関係ないところで何らかの理由でループが発生しており、俺にはどうする事も出来ん」

「ふーん、じゃあどうするわけぇ?」

「余りにも暇なので、何か遊べないかなと思って、皆のアイディアを募集したい」


 陣内が早速手を上げる。


「積みゲーの消化とかは?」

「やってみて気付いたんだが、時間が足りなさすぎて無理だったよ」


 ボブが手を上げる。


「未視聴アニメを消化しちゃうとかドウデスカー?」

「既に思いつく限りは見てみたところだ。ちなみに映画もドラマも本や漫画もな」


 芥川が手を上げる。


「スポーツとかは?」

「記憶はともかく、体は元に戻るらしくてな。筋トレしても意味ないし、元々運動音痴だからな」


 瀬川が手を上げる。


「ボブのリボルバーでぇ、ロシアンルーレットとかどぉ?」

「それ、一昨日やられた上に、お前躊躇いなく俺に向けて六回引き鉄引いたからな? ルール分かってねえだろ?」


 その言葉に、皆が腕を組んで悩み始める。


「ちなみにギャンブルで大儲けとかも考えてやってみたんだが、そこは『外れる』という運命に抗えないらしくて全く当たらなかった」

「やってみた事ないことに挑戦してみるとか?」


 芥川の言葉に瀬川が目を輝かせる。


「良いか瀬川? バンジージャンプは紐をつけてやるものだし、スカイダイビングにはパラシュートが必要なんだぞ? あと、エベレストや富士山の頂上に置いて来たり、ナイアガラの滝やジャングルに投げ捨ててきたりするのもアウトだ」

「結果が知りたいわぁ」

「お前の想像通りだよ! 何回お前に殺されたと思ってやがる!」


 正直、落下に慣れ始めている自分が怖い。


「もうすぐ期末テストだし、勉強でもしてればいいじゃない」

「物凄い正論だな芥川。どうせ暇だしやってみるか」


 そういう感じで、期末テストへ向けて勉強を始めてみた。



---



 ループから60日目。


「勉強飽きた」


 何言ってんだこいつという顔で俺を見る芥川。


「よし、芥川、期末テストに出そうな問題を出してみろ」

「えーっと、良く分かんないけど数学から……」


 早押しクイズ張りに解答する俺。


「山田が! 山田なのに優秀だわ!」

「丸一か月やってりゃこうなるわなぁ。他にやる事ないかなぁ……」


 ぼーっと考える俺。

 それを不思議そうな顔で見る部活メンバー。

 これも何回目のやり取りだっけ?



(中略)



「というわけで、期末テストの勉強までは終えたわけだ」

「あれだけ簡単に問題答える辺りに信憑性を感じるわ」


 今まで説明に結構苦労してたのに、勉強できただけでアッサリ信じやがった。


「もう犯罪でもやっちゃえばぁ?」


 瀬川がニヤリと笑う。


「そう言って全裸にされた挙句に、学校から家までステルスゲームをやらされて、ポリス沙汰になったから勘弁な」


 本当にコイツはロクな事をしない。


「大体、犯罪やった次の日からループ解けたら、俺また檻の中じゃないか」

「異世界の牢獄よりは綺麗なんじゃなぁい?」

「そういう問題じゃねェよ!」

「あんまり精神的に辛いなら、有栖に記憶消して貰えば良いんじゃない?」


 なるほど。その手もあったか。


「でも、試験勉強の分が勿体ないなあ……」


 ん? 待てよ?

 何かが引っ掛かるぞ?


「瀬川よ。一つ聞きたいんだが……」

「なぁに?」

「もし俺をどこかに置いてくるとしたら、何処が良い?」

「そうねぇサハラ砂漠とかどうかしらぁ?」


 犯人を見つけた気がする。

 そういえば、こいつだけ毎回容赦がない。


「瀬川よ……もう一つ質問なんだが」

「なぁにぃ?」

「お前、俺の事ループさせてるだろ?」


 瀬川はクスクスと笑いながら拍手した。


「当たりぃ!! 良く分かったわねぇ!!」

「当たりじゃねえよ! 道理で犯罪やら俺を殺すことに躊躇がねェはずだよ!」

「もうちょっと早く気付くと思ったのにぃ。じゃなきゃロシアンルーレットなんかしないわよぉ」


 そりゃそうだ。こいつだけは、俺を殺すことに躊躇がなかった。

 絶対にループして生き返ると確信しているからだ。


「いますぐループを解いてもらおうか!」

「良いわよぉ。ただし……」


 瀬川が近づいてきて俺の額を指で突く。

 俺は意識が遠のき―



---



 目が覚めたら朝7時。学校に行かねば。

 昨日何かあったはずなのだが、いまいち思い出せない。

 いや、部活があってそこで……そうだ!

 瀬川にループさせられていたのだ!

 慌てて今日の日付を確認する。ちゃんと日付が進んでいる。

 そこに瀬川からメールが届いた。


『ちゃんと解いたわよぉ』


 俺は急いで返信する。

 ループしたことは覚えているが、ループ中に何をしたか思い出せないのだ。


『お前、俺に変な事してないだろうな?』


 すぐに返信が帰ってきた。


『日頃から勉強すれば良いのよぉ?』


 何のことだ? ああ、そういえば期末テストが近かったな。

 まあ、確かに最近サボり気味だった気がする。

 このままではいかんな。俺が一番成績悪いのだし。

 次の部活の日は―


『次の部活は期末テストの対策を行う』


 部活メンバーにメールを一斉送信した.。

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