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山田太郎の嘆き  作者: 無一文
14/29

小ネタだとか その3

 部室には俺と瀬川の二人だけだった。

 他の三人は用事があるとかで欠席しており、俺がレポートを書くペンの音と、瀬川の読む本をめくる音だけが部屋に響いている。

 ここ最近にしては珍しい事で、何となく懐かしくもある。

 そこで、前から気になっていたことを瀬川にお願いしてみることにした。


「瀬川よ。お前の能力を使えば異世界を覗けるんだよな?」

「ええ、そうよぉ?」

「じゃあ、俺が何らかの能力を持っている並行世界もあるってことだよな?」

「探せばあるかもしれないわねぇ」

「是非、見てみたいんだが」

「ない物ねだりをするのは、余り良い気分じゃないと思うわよぉ?」

「まあ、暇潰しだと思って付き合ってくれ」

「しょうがないわねぇ……」


 渋る瀬川に懇願して並行世界の俺を見せてもらうことにした。

 いつも通り、みょいんみょいんとした後、瀬川はスクリーンを投影する。


 そこには夜の道を一人歩く俺がいた。


「見覚えあるなあ」

「私と出会った時ねぇ。ちなみに、この山田は魔術を使えるみたいよぉ?」

「ほほう」


 裏通りから聞こえてきた悲鳴に、何事かと走って行く俺。

 そこには、別の吸血鬼を殺し、返り血に染まった瀬川がいた。


「一生懸命命乞いしたんだよなあ」

「実は、この後、記憶を消したんだけど、5回くらい同じ事が起こったから、もう笑って許すことにしたのぉ」

「マジか……」


 衝撃の事実である。

 一方、魔術師山田の行動は違っていた。


『ちっ! 吸血鬼か! 食らえファイアー』


 魔法を唱え終わる前に、俺の胸は瀬川の腕に貫かれていた。

 そのまま、ゴミでも見るように瀬川は夜の空に消えて行った。


「まぁ、普通はこうなるのよぉ?」

「おいこら山田殺し! 人でなし!」

「他のも見てみようかしらぁ?」


 興が乗って来たのかみょいんみょいん始める瀬川。


 今度は小学生の頃の俺だった。


「ああ、シュゴーファイブの隊員に選ばれたパターンかな?」

「多分そうねえ」


 バクサイダーの雑魚が出現し、各ロボットに乗り込む小学生たち。


『山田! 出力が足りないぞ!』

『チクショウ! このままじゃ合体できない!』

『俺の責任だ! 俺が何とかする!』


 そう言うと、シュゴーファイブの山田はバクサイダーの雑魚に特攻をかけて爆発した。


「ジジイは正しかったんだなぁ」

「そうかもねぇ」

「わざと酷いの見せてたりしないよな?」

「まさかぁ。でも大抵変わらないわよ?」


 瀬川は半笑いで答えると、みょいんみょいん始める。


 今度は中学生の頃の俺だった。


「何かあったっけ?」

「雷を操る能力を持ってるみたいよぉ」

「お、かっこいいじゃないか! 強そうだし!」


 突然、爆発が起こりそれに巻き込まれる俺。


「いきなり死んだぞ」

「何かのバトルに巻き込まれたんじゃなぁい?」

「ああ、能力以外は平凡未満だもんな」

「じゃあ、チート能力持ちの山田を探してみましょうかぁ」


 みょいんみょいんと始める瀬川。


 そこには部活メンバーと一緒にいる俺がいた。


「おお、普通じゃ……ないな? 何だこの異世界?」

「何か、山田がぁ時を止めるチート能力を使って世界を混乱の渦に陥れてるみたいよぉ」

「禄でもないな俺。で、それを止める部活メンバーと」

「オチは見えてるから次行きましょうかぁ」

「ラブコメ補正持ちの俺はいないのか?」

「探してみるわねぇ」


 みょいんみょいんが始まって1時間が経過した―


「ごめん瀬川もう良いわ」

「ないものねだりは良くないって言ったでしょう?」

「ホントだなあ」

「BL主人公補正持ちはいたわよぉ?」

「見たくないです」

「男の娘属性の山田もいたわよぉ?」

「この顔でか?」

「その顔でよぉ?」

「単なるオカマじゃないか」

「毎日、肌のお手入れを入念に……」

「そんな情報はいらん」

「山田はモブがお似合いなのよぉ」


 クスクスと笑いながら席を立つ瀬川。

 まあ、帰るには良い時間か。


「話は変わるが、芥川は変なジュースをどこで買ってるんだ?」

「それが謎なのよねぇ」


 俺達は部室の鍵を掛けて帰って行った。

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