小ネタだとか その3
部室には俺と瀬川の二人だけだった。
他の三人は用事があるとかで欠席しており、俺がレポートを書くペンの音と、瀬川の読む本をめくる音だけが部屋に響いている。
ここ最近にしては珍しい事で、何となく懐かしくもある。
そこで、前から気になっていたことを瀬川にお願いしてみることにした。
「瀬川よ。お前の能力を使えば異世界を覗けるんだよな?」
「ええ、そうよぉ?」
「じゃあ、俺が何らかの能力を持っている並行世界もあるってことだよな?」
「探せばあるかもしれないわねぇ」
「是非、見てみたいんだが」
「ない物ねだりをするのは、余り良い気分じゃないと思うわよぉ?」
「まあ、暇潰しだと思って付き合ってくれ」
「しょうがないわねぇ……」
渋る瀬川に懇願して並行世界の俺を見せてもらうことにした。
いつも通り、みょいんみょいんとした後、瀬川はスクリーンを投影する。
そこには夜の道を一人歩く俺がいた。
「見覚えあるなあ」
「私と出会った時ねぇ。ちなみに、この山田は魔術を使えるみたいよぉ?」
「ほほう」
裏通りから聞こえてきた悲鳴に、何事かと走って行く俺。
そこには、別の吸血鬼を殺し、返り血に染まった瀬川がいた。
「一生懸命命乞いしたんだよなあ」
「実は、この後、記憶を消したんだけど、5回くらい同じ事が起こったから、もう笑って許すことにしたのぉ」
「マジか……」
衝撃の事実である。
一方、魔術師山田の行動は違っていた。
『ちっ! 吸血鬼か! 食らえファイアー』
魔法を唱え終わる前に、俺の胸は瀬川の腕に貫かれていた。
そのまま、ゴミでも見るように瀬川は夜の空に消えて行った。
「まぁ、普通はこうなるのよぉ?」
「おいこら山田殺し! 人でなし!」
「他のも見てみようかしらぁ?」
興が乗って来たのかみょいんみょいん始める瀬川。
今度は小学生の頃の俺だった。
「ああ、シュゴーファイブの隊員に選ばれたパターンかな?」
「多分そうねえ」
バクサイダーの雑魚が出現し、各ロボットに乗り込む小学生たち。
『山田! 出力が足りないぞ!』
『チクショウ! このままじゃ合体できない!』
『俺の責任だ! 俺が何とかする!』
そう言うと、シュゴーファイブの山田はバクサイダーの雑魚に特攻をかけて爆発した。
「ジジイは正しかったんだなぁ」
「そうかもねぇ」
「わざと酷いの見せてたりしないよな?」
「まさかぁ。でも大抵変わらないわよ?」
瀬川は半笑いで答えると、みょいんみょいん始める。
今度は中学生の頃の俺だった。
「何かあったっけ?」
「雷を操る能力を持ってるみたいよぉ」
「お、かっこいいじゃないか! 強そうだし!」
突然、爆発が起こりそれに巻き込まれる俺。
「いきなり死んだぞ」
「何かのバトルに巻き込まれたんじゃなぁい?」
「ああ、能力以外は平凡未満だもんな」
「じゃあ、チート能力持ちの山田を探してみましょうかぁ」
みょいんみょいんと始める瀬川。
そこには部活メンバーと一緒にいる俺がいた。
「おお、普通じゃ……ないな? 何だこの異世界?」
「何か、山田がぁ時を止めるチート能力を使って世界を混乱の渦に陥れてるみたいよぉ」
「禄でもないな俺。で、それを止める部活メンバーと」
「オチは見えてるから次行きましょうかぁ」
「ラブコメ補正持ちの俺はいないのか?」
「探してみるわねぇ」
みょいんみょいんが始まって1時間が経過した―
「ごめん瀬川もう良いわ」
「ないものねだりは良くないって言ったでしょう?」
「ホントだなあ」
「BL主人公補正持ちはいたわよぉ?」
「見たくないです」
「男の娘属性の山田もいたわよぉ?」
「この顔でか?」
「その顔でよぉ?」
「単なるオカマじゃないか」
「毎日、肌のお手入れを入念に……」
「そんな情報はいらん」
「山田はモブがお似合いなのよぉ」
クスクスと笑いながら席を立つ瀬川。
まあ、帰るには良い時間か。
「話は変わるが、芥川は変なジュースをどこで買ってるんだ?」
「それが謎なのよねぇ」
俺達は部室の鍵を掛けて帰って行った。




