戦隊ヒーローだとか
今日は日曜日。ボブに誘われて某電気街に来ていた。
「山田クンのお陰で、色々買えたヨー! アリガトー!」
「あそこは穴場だからな。俺も欲しかったブルーレイ買えたし満足だ」
「お礼にお昼奢るヨー」
「マジか。じゃあ、カレーの美味しい喫茶店があるから、そこ行こうぜ」
こうして、俺達はとある喫茶店に入って行ったのだった。
客は俺たち以外、ボックス席に5人いるだけだった。
「今日は空いてるなラッキーだ」
奥の方に空いていた席に座り、注文をする。
「金がないからバイトでもしようかなー」
「僕のお仕事手伝ウ? お金たくさん出るヨ」
「命かかるからパスだ」
だらだらと喋っていると、急に隣のボックス席の男が怒鳴り始めた。
「俺、もう辞めるから! やってらんないわ!」
気になって、横目でちらりと見る。
チャラ男さん。
角刈りで空手着の男。
ヴィジュアル系な男。
ゴスロリ系な女性。
太ったオタク風のロン毛男。
全員二十代半ばと言ったところか。
何て統一性のなさだ。何の集まりなんだ。
気になって聞き耳を立ててみる。
「とりあえず落ち着いて話そうぜ。店にも迷惑だし」
チャラ男さんに窘められ、オタクさんが俯く。
「分かったよ……でも、このままじゃ駄目だって皆思ってるだろ?」
「いや、俺は諦めないぜ。夢を掴むまでは……」
オタクさんの言葉に、ヴィジュアル系が反論する。
「夢ってアレだろ?」
「勿論、バンドで大成する事だ」
「そのバンド、お前一人しかいねーじゃねェか! しかもボーカル以外募集って舐めすぎだろ!」
その言葉に傷ついたのか、俯いてしまうヴィジュアル系。
俺は、ボブに小声で話しかける。
「ヤバいぞ。予想以上に面白そうだ」
「正直、ワクワクが止まりまセーン」
オタクさんが溜息を吐くと語り始めた。
「そりゃ最初は世界の平和を守るって俺も乗り気だったさ……でも、まさかここまで長引くなんて思ってもいなかったよ」
「あれから五年でごわすか」
空手着が感慨深そうぬ呟く。
その言葉を聞いて、意を決したのかオタクさんは更に続ける。
「もう、この際だから全部言うわ。敵の『寄生体バイオロイダー』って名前は良いよ? 何で俺達の名前『微生物戦隊プランクトン』な訳? 他にかっこいいモチーフあるだろ!」
危うく飲んでた水を吹き出しかけた。
だが、畳み掛けるようにオタクさんの叫びは続く。
「大体カラーリングもおかしいんだよ! ブラックにグレーにブラウンにパープルにピンクって誰がリーダーか分かんねえ上に、何で俺がピンクなんだよ!」
ボブが噴き出した。
わざとらしく咳をして誤魔化している。
そこへ、カレーが運ばれてきた。
「カレー美味しいネー」
「な? いった通りだろ?」
何とか一息付けたなあ。
と思っていたが、ゴスロリさんがハスキーボイスで話し始めた。
「そりゃ、ボクがピンク嫌だったからパープルにして貰って悪かったと思ってるけど……」
ボブが小声で話しかけてくる
「ボクっ子だヨ! 山田クン!」
「いや、違うあれは……」
オタクさんがゴスロリさんに向かって言う。
「言っておくけど、もうお前男の娘って年じゃねえからな? 単なるオカマだからな?」
「それは、言い過ぎでごわす!」
「うるせぇ! お前五年前そんな喋り方してなかっただろうが! あと空手着と角刈りも戦隊入ってからじゃねえか! そもそも空手やった事ねえだろ!」
「だから、落ち着けって、お前自身100m10秒台で走れるデブって変なキャラ付けだろうが」
「お前のヒモってのはキャラ付けじゃねえからな!?」
カレーが飲みこめません。
ボブも同じようで、スプーンを咥えたまま肩がプルプルしてます。
ようやく落ち着いたのか水を飲んで一息吐くオタクさん。
「そろそろ、ちゃんとしようぜ? もうここ最近出動すらかからないじゃん」
「そりゃ、俺達が集まる前に、銀髪の女の子が怪人八つ裂きにしたり」
チャラ男の言葉に、ようやく飲みこめたカレーを吹き出しそうになる。
「ジェットマスクって言ったっけ? アイツがきてやっつけちゃったり」
ゴスロリさん。すいません。そいつ友達です。
「この前なんか、久々に全員揃ったと思った瞬間、怪人がヘッドショットで撃ち抜かれたでごわす」
俺は、目の前のボブをジト目で睨む。
ボブは、明後日の方向を向きながらボソリと呟く。
「だって、仕事の邪魔だったんだモン」
オタクさんが溜息を吐く。
「そもそも、都内に怪人が出るのに、誰一人都内に住んでないっておかしいだろ……」
この人が一番常識人だったのか……。
「そういうお前だって実家暮らしじゃねえか!」
「俺はコンビニでバイトはじめたよ! お前ら全員ニートじゃねえか!」
ボブの鼻から水が出てきた。
顔色は変えぬまま、ティッシュで鼻を拭うボブ。
ポーカーフェイスって奴でしょうか? 良いなあ俺も欲しいその特技。
と思いながら、俺もティッシュで鼻を拭う。
「実はさ、俺彼女が妊娠してさ……就職したんだわ」
ボソリと呟くチャラ男さん。
あれ? 雲行きが怪しくなってきたぞ?
「おいど……いや、俺も自衛隊に入隊してさ」
空手着さんも働いてる?
「ボクは、ようやくファッションデザイナーになれたよ」
ゴスロリさんまで?
「俺はバンドを諦めてない」
堂々と言い張るヴィジュアル系の言葉に、ボブが水を噴いた。
「お、お前らいつの間に……」
急転直下、戦隊内のヒエラルキーが一気に変わった。
チャラ男さんが溜息を吐く。
「確かにお前の言う通りだわ。もう解散しようぜ」
「そうでご……そうだな」
「異議なーし」
「じゃあ、俺ら帰るわ」
そう言って、店を出て行くチャラ男と空手着とゴスロリ。
残されたのは、俯いたままのヴィジュアル系と、オタクさん。
いたたまれぬ空気の中、俺とボブはカレーをさっさと食べて店を出た。
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「戦隊ヒーローってあんな風に解散するんデスネー」
「酷いもん見たなあ」
「デモ、怪人はどうなるんデショー?」
「ああ、そっちは全く問題ない。あの喫茶店はバイオロイダーが経営してる所で、もう世界征服より喫茶店の方が儲かるから、そっちやるって言ってた」
「何で知ってるんデスカ?」
「トイレに行こうとして、間違えてスタッフルームに入ったら、バイオロイダーのアジトだった」
「What's!?」
「カウンターに居たマスターが敵の総統で、色々教えてくれたんだよ。もう活動止めるってさ」
「カレーに変なもの入ってないデスヨネー?」
「入ってたら、とっくに俺が死んでるわ」
「山田クンといると退屈しないネー」
「買い物行って、飯食っただけなんだけどなぁ」
俺達はのんびりと駅へ向かって歩いて行った。




