武闘大会だとか 前編
「今度、武闘大会があるらしいネー」
「あれ? 去年あったっけ?」
「今年かららしいヨー」
ボブと芥川の会話を聞きながら、レポートを作成している俺。
「うちは何故か格闘系の部活盛んだしなあ」
陣内が漫画を読みながら会話に参加する。
「スポーツ系は普通なのよぉ。偶に県大会に出るくらいかしらぁ?」
「他の高校が凄いって事?」
「他の高校は、サッカーボール蹴ると炎が巻き起こったり、テニスで死人がでそうになるからねぇ」
「逆にそれで、偶に県大会に出場できるって凄くない?」
「そういう時はぁ、1年間だけ強いのよぉ」
「不思議な話ね」
まあ、お約束という奴であろう。
「文化系は雑多過ぎて訳わからんしな」
「うちの部もそうよねぇ?」
「マギ研よりマトモだと思うぞ」
俺の言葉に、瀬川が噴き出す。
他の三人はキョトンとしている。
「俺と瀬川で、この部を始めようとした時に、色んな部を見て回ったんだよ」
「中でもぉ、一番凄かったのが魔道技術研究部。通称マギ研なのぉ」
「魔術師とか、魔法使いとかいそうじゃない?」
芥川の質問に、俺は頷く。
「まあ、俺達もそう思って見学に行ったんだが……」
「凄まじかったわねぇ……」
「人体錬成でもしてたんデスカー?」
「いや、部活時間中、ずーっと『僕の考えた最強魔法』の効果と詠唱呪文を語り合うだけの部だった」
ボブと陣内、芥川が同時に吹き出す。
「お前ら、今だから笑えるけどな! 見学に行った俺と瀬川は地獄だったんだぞ!」
「もう笑いを堪えるのに必死で、頬が釣りそうになってたわぁ……」
「俺は恥ずかしくて鳥肌が立ちっぱなしだった」
感慨深そうに瀬川が頷く。
「そういえば、この部を立ち上げたのって山田と有栖の二人よね?」
「陣内は事故に合ってから入ったな」
「ボブは?」
「某アニメショップで同人誌立ち読みしてたから捕まえた」
「NO! 山田クン、それシークレットだヨー!」
ポカポカと殴ってくるボブを宥めていたら、部室の扉が開いた。
「ここが『地域社会情報部』かい?」
そこには、空手着を着たガタイの良い学生が立っていた。
「今、入部は受け付けてませんよー」
「そうじゃねえ。俺は1-Cの浪川 辰巳。この部室を明け渡して貰いに来た」
「道場破りって奴ですかネー?」
ボブが俺に聞いてくるが、そんな事は知らん。
「何の権利があって?」
「俺と勝負して……」
「よし、ボブ。ゴー」
俺の合図と共にボブが一瞬で飛び出し浪川を押さえつけて後頭部に拳銃を突きつける。
「勝ったぞ」
「ちょ、待て、待とう! 落ち着こう!」
「ボブ、放してやれ」
ボブは笑いながら浪川を開放する。
「で、お前は負けたわけだが……」
「いや! その、外国人選手は卑怯じゃ」
「陣内ゴー」
陣内が高速でボディブローを入れると、呼吸できなくなったらしい浪川は、そのまま腹を抱えて膝を着く。
「で、早速二連敗なわけだが、まだやるかい?」
その言葉が頭に来たのか、震える膝で立ち上がる浪川。
「俺はまだ」
合図も出していないのに、瀬川がボディーブローを放った。
ゆっくりと沈んでいく浪川を見てから、部室の扉を閉めた。
空手部の部長に電話をかける。
「佐川さん、お宅の所の浪川君ってのが来てね……」
と話していたら、部室の扉が開いた。
「お、俺はまだ……」
案外タフだなコイツ。
と、思っていたら瀬川がノリノリでピーカブースタイルのまま∞の軌道を描いてウィービングしている。
「ごめん、ダメだったわ」
打撃音をBGMに電話を切る。
暫くデンプシーロールで遊んでいた瀬川が満足したらしいので、浪川には『僕は地域社会情報部に喧嘩を売って四連敗したルーズドッグです』という紙を背中に張ってやり、ボブに空手部まで運んで投げ捨てさせた。
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次の部活の日。
他のメンバーが駄弁る中、レポートの作成に勤しんでいたら部室の扉が開いた。
「俺は柔道部の」
「ボブゴー」
「俺はムエタイ部の」
「陣内ゴー」
「俺はバランスが良いと言われる総合格闘」
瀬川のホワイトファングが突き刺さった。
「俺はプロレス部の」
「ボブゴー」
「俺は合気道部の」
「陣内ゴー」
「俺はカポエラ部」
瀬川のハートブレイクショットが突き刺さった。
俺はレポートを書き終えて、一息吐く。
「いい加減鬱陶しいな」
「武闘大会を前に有望株が次から次へとウチの部に派遣されてるみたいよぉ」
「ウチは文化部なんだがなあ……」
芥川は楽しそうに気を失った学生に「ルーズドッグ」という紙を書いては貼り付けている。
「というか、大丈夫なのかウチの格闘系の部活」
文化部に負けているようでは、これから先が思いやられる。
「お主らのせいで武闘大会が台無しじゃ!!」
次に入って来たのは校長だった。
簡単に説明すると、脳みそ筋肉な校長である。
「そうは言われても、文化部に喧嘩売って来て軒並み返り討ちに会うって残念過ぎませんかね?」
「うむ。なので武闘大会は取り止めとし、お主らとワシとが戦うエキシビジョンマッチを行うことにした」
「お断りです」
「なら、この部は廃部なー」
「大人気ねえぞクソジジイ!」
「悔しかったらワシに勝って」
瀬川のレバーブローで校長がくの字に曲がった。
「待って! タイム! マジタイム! ちょっと待って!」
ぜえぜえ言いながら、何とか立っている校長。
「あの、そこのボブと陣内君と瀬川さんはナシな!」
無茶苦茶言うなあ。
と思っていたら、芥川のスマッシュが的確に校長の顎にヒットした。
「やったわ! 私も初勝利よ!」
「おめでとぉ」
喜び合う女子二人に、俺たち男子組は拍手を送る。
何とか立ち上がった校長が俺を指差しながら言う。
膝がガクガク笑っている。
「部長じゃ! 部長がワシと対戦して勝ったら」
「無理に決まってんだろクソジジイ」
俺は片手を上げて、部活メンバーに待てのポーズを取る。
俺の後ろでは、獣たちが飢えた目で校長を見ている事だろう。
「ちなみに俺が、このまま手を振り下すとどうなるかは分かってるな?」
「じゃ、じゃあ、お前がワシの顔に一発でも打撃を与えれば勝ちと言うのはどうじゃ!?」
「こっちに何のメリットもねえ」
俺は後ろを向いて部活メンバーの確認を取る。
「冷暖房完備ぃ!」
「各種週刊漫画系を部費として承認!」
「月刊漫画も!」
「おやつとジュースも精算して欲しいネ」
「あとはゲーム機とゲームソフトも精算して貰おうか」
校長に問いかけてみる。
「わ、わかった……ただし、ルールは目突き、金的、武器以外何でもありのルールじゃ! ノックアウト以外は何でもアリじゃ!」
「それだと、今晩には決着が着くがいいのか?」
「何を言っておる?」
「お孫さん、可愛いですね」
俺は懐から校長の孫の写真を出す。
「げ、外道が!」
「勝てばいいんだよなあ!?」
俺は写真を校長の前にちらつかせながら語る。
「アンタが負けてくれりゃいいんだよ。そしたらアンタの家族は幸せだ。俺達も幸せだ。誰も損しない。優しい世界だ。分かるな?」
校長が握りしめた手から血を滴らせている。
「分かった……」
そういうと、静かに扉を閉めて部室から出て行った。
「山田さすがねぇ」
「ほんと外道だわ」
「ゲス道の極みだネ!」
「クズッっぷりにかけちゃ右に出る者はいないな!」
そんな部活メンバーの称賛を浴びながら、俺はエキシビジョンマッチの当日を待った。




