(改訂版)第4話 月下の出会い
月明かりを反射して、仄かに輝く長い銀の髪。
小柄で人形のように整った容姿は幼さを感じさせつつ、どこか大人びた妖艶さも思わせる。
そして何より特徴的なのが、血のような真紅の瞳。
華美ではないが、上品な雰囲気を漂わせる服装も含めて、一度目にしたら忘れられないような特徴的な姿の少女だが、不思議とエリスはこうして目にする直前まで、彼女の容姿をまったく記憶していなかった。
夕暮れ時に見た時のことは、まるで蜃気楼であったかのように脳裏から消え去っていた。
それが今では、はっきりと認識することが出来ていた。
「あなた、夕方の…」
「夕方?」
相手の少女は、これまたエリスとは違った意味で不思議そうな顔をして首を傾げる。
(う…この子、なんか綺麗な上に、可愛い…)
人形めいた容姿に加え、仕草までも愛嬌を感じさせる少女だった。
「今日の夕方、あなた商店街の市場にいたでしょう」
「うん…いた、けど……あれ?」
そこまで言ってから、はたと気が付いたように少女の顔が疑問符を浮かべたように訝しげなものに変わる。
「え? あれ? あなた、私のことが見えてる?」
「は?」
少女は困惑した面持ちで、しきりに自分を指差したり、首を左右に傾げてみせている。
「見えてるかって…何よあなた、まさか自分は幽霊だとか言うわけじゃないでしょうね?」
「や、違うけど…。え、えぇー…なんで? どうして?」
少女はトコトコと駆け寄ってくると、正面からエリスの顔を覗き込む。
間近で見ると尚更少女の綺麗さが際立って見えて、そんな相手に正面から覗き込まれたエリスは気恥ずかしさを覚えて赤面する。
そんなエリスの様子を知ってか知らずか、少女は不思議そうな顔のままエリスの周りを動き回り、様々な角度からエリスを観察していく。
小柄な印象があったが、エリスもそれほど背が高い方ではないので、それほど身長に差はなかった。
「…認識阻害が効いてない? 見たところ普通の子よね。勘が鋭いだけかな…?」
「ちょっと、何を人の周りでぶつぶつ言ってるのよ」
「ねぇ、あなた。前に私のこと見たって言ってたよね。その時のこと覚えてたの?」
「いえ、その…何かついさっきまで忘れてたけど、あなたの顔を見たら思い出したのよ」
「効いてないわけじゃないんだ…でも二回すれ違っただけで…ふーん」
「何よ?」
「ふぅん。おもしろい子ね、あなた」
「む…あなたに言われたくはない気がするんだけど」
「あははっ」
疑問は解消したのか、困惑顔をやめた少女は朗らかに笑う。
笑うと尚のこと可愛いので、エリスは内心で唸る。
(何か、アンジェといいこの子といい…私こういうのに弱いのかな?)
今まであまり自覚したことのなかった己の感性に疑問を感じるエリスだった。
「ねぇ、あなた今、認識阻害とか言ってたけど、それって何なの?」
「え、私そんなこと言ったかな?」
「言ってたじゃない、私のことじろじろ見ながら」
「さぁ~。私、そんなこと言ってないよね」
ほんの一瞬、少女の紅い瞳の奥に妖しげな光を見たような気がした。
(あれ…言ってない、っけ…?)
そう言われると、そんなような気がしてきた。
そもそも、何故そんなことを疑問に思ったのか。
いやそれ以前に、自分は今、一体何を疑問に思ったのか――
(――ッ!?)
思わずそのまま意識を呑まれそうになったのを、寸でのところで踏みとどまる。
(これ、夕方の時と同じ感覚!)
自分が何かされたのだと気付いたエリスは、眼前の少女を睨みつける。
「あなた! 今、私に何をしたの!?」
「おー、ほんとに効きにくいや」
「答えなさい!」
「やんっ、怖い顔しないで、っと」
ポンッと、少女の手の中で何かが弾ける音がしたかと思うと、エリスの目の前に小さな花束が差し出されていた。
「な…?」
「ね♪」
次いで少女が掌を開くと、手にしていた花束は跡形もなく消え失せていた。
「私がやったのは、これと同じこと」
「は?」
「ちょっとした手品みたいなものよ。相手の意識をちょっとずらしてあげると、あるはずの物が見えなくなったり、なかったはずの物を突然見えたり」
少女が今度はパンと手を叩くと、消えた花束は少女の頭の上に出現した。
「こういうのをやるのと同じ要領で、相手の意識を逸らしてあげると、見たはずの私の姿や、聞いたはずの私の言葉を忘れちゃったりするの。一種の暗示ね」
「そんなこと…」
理屈はわからないことはない。エリスとて、街中で大道芸人が同じようなトリックを仕掛けているのを見たことくらいある。
しかし、実際に見たはずのものを完全に忘れてしまうなど、度が過ぎているのではなかろうか。
「…そんな単純なもの?」
「んー、まぁ、魔法でもあるからね。普通の人からしたらびっくりかな。もっとも、普通の人だったらまず、そういうことを疑問に思ったりもしないはずなんだけど」
その通り、最初はまったく疑問を感じなかった。
ふとした拍子に思い出しても、すぐにまた忘れてしまって、そのことを不思議に思うことさえなかった。
「だけどこんなにあっさり見破られちゃうなんて思わなかったなぁ。これは教訓にしておかなくっちゃダメね」
「結局、あなたは何なのよ。魔法使い、なの?」
「ちょっと違うけど、似たようなものかしら」
「はっきりしないわね」
「はっきりしちゃったらつまらないわ。だから私の正体は秘密。知りたかったら当ててみなよ」
挑戦的な顔で言う少女は小悪魔的な感じがする一方で、ただの悪戯っ子のような愛らしさもあり、先ほどの手品のことも含めて、エリスは毒気を抜かれた気持ちになっていた。
(これ以上追求しても、真面目に答える気はなさそうね)
仕方がないので、少女の正体については一先ず保留にしておく。
なのでエリスは、もう一つ気になっている案件について切り出してみることにした。
「それはそうと、あなた。さっきこの辺りで大きな爆発とかなかった?」
「爆発?」
「ええ、結構すごい音がしたと思うんだけど」
「うーん、知らないわ。そんなのなかったと思うけど」
「本当に?」
「うん。第一、そんなに大きな音がしたなら、もっと他にも人が集まってきそうなものじゃない?」
「そういえば…」
まだ陽が落ちてからそれほど時間は経っておらず、街の中心へ行けばまだまだ人で賑わっている頃だろう。人気の少ない通りとはいえ、あれだけの爆発音を聞けば誰かしら様子を見に来てもおかしくないはずだが、近くにエリスと少女以外に人の気配はしない。
「気のせい…だったのかな?」
「きっとそうよ。そんな音しなかったよ」
「そう…ね」
釈然としないが、少女の言い分は的を射ている。
納得するしかないと思った。
「………ん?」
「ぁ、やば…つい癖で…」
「まさか…あなた、今」
「あーあー、何も言ってませーん。何も知りませーん」
「やっぱり何か知ってるわね、あなた!」
「いやいやいや、気のせいだってば」
「嘘おっしゃい! 明らかに誤魔化そうとしてるでしょう今」
「そんなことないってば。ほらほら、仮に私が何かを誤魔化そうとしてるとしても、他の人が誰も来てないことには変わりないでしょう?」
「それは…確かに…。いえ、それだって私以外の人に例の暗示とやらをかけてるとしたら」
「うぐ…鋭い」
「やっぱりそうなのね!」
「そうだけどそうじゃない! どっちも私の仕業じゃないもの!」
「認めたわね、何かあったって!」
「あなたには関係ないわ」
「そこまで言われるとかえって気になるじゃない」
「もう! ああ言えばこういう子ね」
「それはあなたでしょ!」
互いに顔を突き合わせて睨み合う。
エリスとしても、こうまでしてこの一件に首を突っ込もうという気があったわけではないのだが、隠されるとむしろそれを知りたくなるのは人の性と言うべきか、少女の態度が気に食わなくてついつい詰め寄ってしまっていた。
対する少女の方も、何となく売り言葉に買い言葉で引っ込みがつかなくなっているだけのようにも思えた。
結局、互いに何をそんなに意固地になっているのかよくわからないまま睨み合いを続けていた。
「どうしてそこまで隠すのよ?」
「どうしてそこまで気にするのよ?」
「街中で突然爆発が起こったら気にするでしょう」
「だからそれは気のせいだってば」
「嘘でしょう、それ」
「世の中よくわからないことはたくさんあるものだわ。その一つだと思って忘れちゃいなよ、ユー」
「それで納得するとでも思ってるの?」
「むぅ…頑固ね、あなた」
「そんなことはない、と…思うけど」
自分でもそこは不思議だった。
普段のエリスであれば、自分にとって不必要な話は適当に流して切り捨ててしまう。事件が起これば人並みに気にはするが、下手な正義感を出して自らそれに関わろうなどとは考えない。
こんな調子で何にでも首を突っ込みたがるのはアンジェリーナの領分であり、それを諌めるのがエリスの本来の役割だ。
この一件とて、このまま放置してしまってもまったく構わないはずだった。
にもかかわらずこれほど気に掛かるのは、事件そのものよりもむしろ別の要素なのかもしれなかった。
「ん?」
だが、その結論を頭の中で導き出すよりも先に、その場に現れた別の存在によって思考は中断させられる。
「誰か、こっちに来る?」
思わず疑問が口をついて出たのは、近付いてくる気配に違和感を覚えたからだった。
路地の先の暗闇に誰かがいるのは間違いない。
だが漂ってくる異臭と、ずるずると何かを引きずるような音と、不気味な呻き声とが、何か尋常ではないものを感じさせる。
やがて姿を現した存在を見て、その感覚が正しかったことを知る。
「人…じゃない?」
そこにいたのは、確かに人の姿をしていた。
と言っても、頭と手足があって二足歩行をしている、程度しか人間らしい部分はなかった。
肌は腐りかけており、異臭はそれの全身から立ち込めていた。
引きずるような音は、足の皮膚の一部が剥がれ落ちて、動く際に地面にこすり付けられて発しているものだった。
そしてそれの口からは、不気味で言葉としての意味を成さない声が漏れていた。
人の姿をした、明らかに人とは思えない存在だった。
「何なの…あれ」
「わからないけど、見ててひどく不快ね」
得体の知れないものの姿に顔をしかめるエリスの横で、少女もまた嫌悪感を露にした表情をしていた。
しかも、その動く死体とでも称するべきモノは1体だけではなかった。
路地の奥から続けて3体、計4体が二人の前に現れた。
焦点の定まらない、意思というものを感じさせない目をした動く死体達は、けれど明確にエリス達を目標と見定めているかのように近付いてくる。
不気味な存在に迫られ、エリスは一歩後ずさった。
「こいつら、私達を狙ってるの?」
「どうだろうね。こっちに向かって来てはいるけど」
「…随分落ち着いてるわね、あなた」
「あなたも、わりと動揺してない方だと思うけど」
「してるわよ。わけのわからないものを見て頭が鈍ってるだけ」
「じゃあ、冷静な内に逃げちゃった方がいいんじゃない?」
「それは…何か癪」
勇気と無謀は似て非なるものだとわかってはいる。けれど、怖気づいて逃げるという選択肢は、エリスの中では好ましいものではなかった。
「逃げるのは嫌いよ」
「長生きしないと思うわよ、そういうのは。でも…」
少女は逆に、相手へ向かって一歩進み出る。
「そういう勇ましさは私好みかな」
その行動を見てエリスはむっと顔をしかめる。一歩下がった自分の方が、一歩前へ出た少女よりも怖がっている気がしたからだ。
対抗心を燃やしたエリスは、少女よりもさらに前へ踏み出す。
それを見た少女がくすくすと笑い声を漏らす。
「何笑ってるのよ?」
「さぁ~。私、笑ってなんかないよね」
「もうそれはいいわよ」
「ありゃりゃ、もうすっかりお見通しだ」
おどけた態度を取りながらも、少女は迫ってくる敵から目を離さずにいた。エリスも同じく、視線を敵に向けたまま肩にかけた包みを下ろし、中から剣を引き出す。
鞘から剣を引き抜くと、包みと鞘を一緒に後ろへ放り、両手で剣を構える。
「……」
稽古で人と剣を交えた経験はあるが、実際に敵意を向けてくる相手に対するのははじめてのことであり、緊張で微かに体が強張っている。
それでも、頭は思っていたよりも冷静だった。
「今更だけど話を…って、通じそうもないわよね」
「そうね。言葉を理解する程度の知能もなさそうだわ」
「そんな感じね」
「ちょっと震えてるよ。怖いなら下がってた方がいいんじゃない?」
「誰が」
挑発的な言葉を投げかけれて、ますます意地になる。
かえってそれが良かったのか、少し緊張がほぐれたようだった。
それを見計らったわけではないだろうが、それまで鈍重だった動く死体達の動きに変化があった。
だらりと下げていた両腕を顔の高さまで上げ、駆け足になって近付いてくる。
動き自体は依然として遅いが、無感情に向かってくる様は生理的に恐怖感を覚えさせられる。
だがエリスは臆することなく相手の動きを見据え、掴みかかろうとする動きを見せた相手が間合いに入ると同時に踏み込み、すれ違い様に剣を振るう。
「はっ!」
気合一閃。
振り抜いた剣は動く死体が突き出した腕の肘から先を斬り飛ばした。
以前に試し斬りで動物の死骸を斬った時よりもあっさりしたも手応えだった。
人の姿をしたものを斬る、という行為に刹那の嫌悪感を覚えるが、それを振り払って剣を構え直し、斬った相手の様子を窺う。
「っ!」
腕を斬り落とされてもまるで動じていないのか、動く死体は鈍いが淀みない動作で体の向きを変え、再度エリスに向かって襲い掛かってくる。
「こいつ!」
「死体だから痛みとかないみたいね」
少し離れたところから呑気な声がする。ちらっとそちらへ視線を送ると、のんびりした口調とは裏腹に、少女が素早い動きで他の3体を翻弄していた。
動く死体達は少女の動きについていけず、右往左往している。
1体を相手に真剣に構えているエリスに反して、少女の顔にはかなりの余裕が見て取れた。
(なんか、むかつく)
憮然とした顔をしたエリスは、憤りを目の前の敵にぶつけるように相手を睨みつける。
「バラバラにするか頭を飛ばせばさすがに止まるんじゃないかな?」
「言われなくても…」
力強く地面を蹴ったエリスは、先ほどよりも速い踏み込みで相手に肉薄する。
「そうするわよっ!」
エリスは振り被った剣を真っ向から振り下ろす。
両腕を失い防御も出来ない動く死体は、無防備なまま脳天にその一撃を受ける。
頭蓋を割られて尚、死体は前進するのをやめない。
「やぁあああああっ!!」
柄を握る両手に力を込めて思い切り剣を振り下ろし、脳天から股まで一気に斬り裂く。
さらに返す刃で胴を輪切りにし、勢いのままに体を駒のように回転させて相手の横をすり抜け様にもうひと薙ぎして首を刎ねる。
縦に真っ二つ、横に二線で五つに分断された死体が地面に転がる。
肉片となって飛び散ったそれらはしばらく痙攣していたが、やがてピクリとも動かなくなった。
「わー、えげつなーい。あなた、本当に人斬るのはじめて?」
「当たり前でしょ」
本当のところ、最初に切っ先が肉に食い込むのを感じ取ってから内心は大いに乱れていたが、それに反して表面上は冷静さが増していた。
1体目が動かなくなったことを確認すると、すぐさま残りの敵に目を向ける。
少女は依然として3体を相手取って動き回っていたが、未だ反撃には転じていなかった。
エリスは剣を腰の高さに据えて半身になって構えると、少女と3体の動く死体の動きをじっと見据える。
一瞬、エリスと少女の視線が交差する。
不思議と、その一瞬で気持ちが通じ合ったような気がしたエリスは、静かに前へ出る。
「――――」
声に出さない気合と共に踏み込む。
その動作は一見ゆっくりだが、電光石火の速度で相手までの距離を詰めていた。
瞬間、少女の動きによって導かれた動く死体が、エリスの進行方向で一直線に並ぶ。
最初の1体の首をすれ違い様に刎ね飛ばす。
続く2体目を胴斬りにする。
3体目に対しては、地面すれすれから掬い上げた剣で股から頭までを逆さに斬り上げて両断した。
全て完成された演舞の如き、流れるような動作だった。
もしも相手が人間だったなら、この一連の動きだけで決着が付いていただろう。
「ッ!?」
残心を取るべく振り返ろうとしたエリスの足首が何者かに掴まれる。
胴斬りにした2体目の上半身が足下に転がってきて、そこでエリスの足を掴んだのだ。
見れば1体目も、首がないまま胴体は動きを止めていなかった。
(この、化け物!)
エリスはとどめを刺そうと剣を振りかぶるが、掴まれた足を思い切り引かれて体勢を崩してしまう。
動く死体は動作は鈍いが、力は強いようだった。このまま倒されて組み敷かれては危険だった。
「やば…っ」
どうにか踏みとどまろうとするが、相手の引く力の方が強い。
堪えきれずに倒れそうになった時、足に掛けられていた力がなくなった。
見れば、エリスの足を掴んでいた手が半ばから断ち切られている。
「ふっ!」
跳び上がった少女が手刀を振り下ろすと、そこから風圧の刃とでも言うべきものが放たれ、動く死体の腕と頭と胴がそれぞれ寸断されていた。
少女は同時に反対の手も振り下ろし、胴体だけで動いていたもう1体も真っ二つにしてみせた。
エリスと少女は、共にしばらく気を張って倒れた死体達を見ていたが、やがてそれらが完全に動かなくなったことを確認すると、どちらからともなく緊張が解いた。
構えていた剣を下ろしながら、エリスは少女へ視線を送る。
「ねぇ」
「んー?」
「あなた、私が手を出さなくても3体まとめて倒せたんじゃないの?」
「どうかなー。これ、結構溜めが必要なんだよね」
少女は指先を伸ばした手を振ってみせる。おそらく先ほど死体を切り裂いた風の刃を示しているのだろう。
「連射が利かないから両手で一発ずつ、合わせて二発しか一度には撃てないからね。2体倒せても最後の1体にやられちゃうかもしれないから、あなたが来てくれるのを待ってたの。一人2体ずつで、おあいこでしょ」
「……」
何となく手柄を譲られたような気がして、いまいち釈然としなかった。
だが、阿吽の呼吸とでも言うべきか、3体を一息に斬った時の連携は驚くほど綺麗に決まった。あの一瞬は、心地よさすら覚えていた。兄と共にやる演舞の稽古でも、あれほど息が合ったことはなかったかもしれない。
この少女とは、相性が良いような気がした。人を食ったような性格はあまり好きになれそうもないが。
「それにしても、こいつら本当に一体何だったのかしら?」
「さぁね~。少なくとも、そこら辺にいるような真っ当な存在じゃないのは確かだと思うけど」
「真っ当じゃなさそうなのはあなたもだけどね」
「あら、あなたこそあの剣の腕は普通の女の子のものとは言えないよね」
脅威が去ったところで、残った二人の間に別の緊張感が生じる。
だがお互いがそれ以上相手のことを追求するよりも先に、新たな乱入者がそこに現れた。
「あなた達! そこで何をしているのですか?」
姿を現したのは、エリスにとってはつい先ほど会ったばかりの相手、神官姿の女性、フェリエ・ホーリーだった。
メインヒロイン二人の回。この二人に関する部分が改訂前後で一番変わっているところであり、それってつまりこの話の一番大事な部分ってことで…。




