冒険27km
銀狐さんは彼らを助けられるのでしょうか?
俺は目一杯引いた弓を、プレイヤーに立ち上がって襲いかかっている熊の頭に向けて放つ
カン!
勢い良く飛んだ矢は狙いたがわず熊の頭に命中する。
熊は矢の威力で一瞬体制を崩すが、それだけだった。
一応刺さってはいるので皮は貫通出来たのだろう。
しかしなんつう硬い骨だ。
HPの方もまだ緑色をしている。
矢の一本や二本では全く意味がないだろう。
当たったクマの方はと言うと、俺を探してキョロキョロしている。
まだ俺の事を見つけていない様子から、<隠密行動入門>は嗅覚に対してもそれなりに影響しているのだろう。
そんな隙をプレイヤーが見逃す筈もなく、盾を持ったプレイヤーが片手剣で果敢に斬りかかる。
その間に俺は第2射の準備をしておく。
使う矢は石ではなく角だ。
貫通力が上がっているのでもしかしたらあの硬い頭蓋骨も貫けるかもしれない。
それに数も多いしね。
盾を持ったプレイヤーは片手剣を一振り、二振り、三振りと連続で斬りかかるが熊の体の分厚い皮に阻まれてダメージが殆ど通っていない。
そして、その攻撃を煩わしく思ったのか、熊がその太い剛腕を思いっきりプレイヤーに叩きつける。
プレイヤーは咄嗟に盾を構えたが、熊の持ち前の筋力により吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたプレイヤーは地面に転がるが、余程大きなダメージを受けたのかピクリとも動かない。
周りのプレイヤーもその事に気が付くが、魔法使い組は狼に、槍ともう一人の片手剣使いは熊と狼に襲われていて手出しが出来ない。
熊はまるで勝ち誇ったかの様に、ゆっくりと盾のプレイヤーに近付く。
それを見た俺は咄嗟に矢を放つ。
カン!
放たれた矢は熊の左こめかみ当たりに命中し、そのまま突き刺さる。
HPに大きな変化は見られなかったが、種族名の横に見慣れないマークが付いた。
詳細は分からないが、熊が頻りに顔を振っていてその場から動かなくなっている。
これは良いチャンスだ。
俺は最低限の狙いを付けると、2本、3本と矢を放って行く。
一本は熊の耳を貫通し、別の一本は鼻面を直撃する。
そして3本目は当たる直前、まるで狙いすましたかの様に熊の顔が此方を向き、矢は吸い込まれる様にその左眼孔に突き立つ。
そして、眼孔の奥にある比較的薄い蝶形骨を貫通したのか、熊の巨体が音を立てて倒れる。
う、運が良かったのか?
それよりも他のプレイヤーの援護に回らないと。
魔法使い組は多数の狼に囲まれているが、ヒーラーの結界と魔法使いの魔法で何とかなっている様だ。
前衛組は熊と狼の猛攻に今にも瓦解寸前だ。
一応は片手剣使いの身のこなしと槍使いの牽制で熊の一撃は防いでいるが、その隙を狼に突かれて、徐々に傷を増やしている。
俺は此方側に熊を引き寄せる為、わざと目立つ様に魔法を撃つ。
矢では無いのは、これから熊とタイマンするのに矢の数を出来るだけ減らしたく無かったからだ。
「ウォーターフォール!!」
俺は大声を出して魔法を発動させる。
しかし、熊は此方側をチラリと見るだけで向かっては来ない。
それで良い。
動いてもらったらこの魔法が当たらないからな。
熊は俺の事を気にせずに、前衛組に攻撃を仕掛けようとしている。
後5秒間だけ待っててくれ。
前衛組は何とか5秒間熊との均衡を保ち続けてくれた。
そして、俺の持っている最大の魔法が発動した。
熊の遥か上空に、ゴポッ!ゴポッ!という感じで直径1mもある水球が生まれた。
水球が育ち切ると、真っ直ぐ下に落下して行く。
そして、何も知らない熊の体に水球が叩きつけられる。
その衝撃で地面に崩れる熊のHPは黄緑色になっていた。
これは「ウォーターフォール」の威力が凄いのか、ギリギリまで前衛組が削ったのか分からないが、兎に角これで俺に熊のヘイトが集中するだろう。
念のため熊が起き上がる前にもう一発別の魔法をぶち込んでおこう。
「ウォーターショット!!」
熊に向けて撃った魔法は、<ウォーターフォール>が直撃した場所に当たる。
グォォゥン!
分厚い皮を持つ熊でも、<ウォーターフォール>が当たった場所はかなり痛いらしく、うめき声を上げると此方に向かって走ってきた。
取り敢えず牽制に<石の矢>を放つと、さっきから考えていた事をぶっつけ本番でやる。
熊は木登りが得意と聞くので、このまま木の上にいるのは危ない、しかし地面に逃げても熊の走る速度は一般的な人間よりもずっと早い。
ならどう逃げるか。
ここは木々が鬱蒼と茂っており、木と木の間隔が狭くなっている。
それならばやる事は一つしかない。
俺は木の枝の上に立ち上がると、近くの丈夫そうな別の木の枝に飛び移る。
着地(着枝?)の時に少し滑ったが、問題なく飛び移れそうだ。
さてと、後はこの熊をプレイヤー達から離しつつ、眼孔に一撃を入れれるタイミングを測りますか。
俺は熊と付かず離れずの鬼ごっこを始めるのだった。
次の枝に飛び移るタイミングを遅くしたり早くしたりしながら、熊の出方を観察する。
そのうちに分かったことがある。
この熊、木に登ろうとはせずに俺を木から落とそうとしてきている。
その証拠に、登らせようとギリギリまで熊を引き付けると、トップスピードのまま俺が登っている木に殴りかかってきたのだ。
クマの体重とスピード、そして腕の筋力によって殴られた木はそのまま根元から折れ倒れることになった。
俺は寸前の所で次の枝に飛び移った為大事には至らなかったが、落ちていたら今頃熊の餌食だっただろう。
さて、どうしようかな。
今の所倒す為には熊の眼孔に矢を突っ込むしか無いんだけど、その為にはしっかりと狙わないと当たらない。
最低でも3秒、大事をとって5秒は欲しい。
幸い熊は木を避けながら走ってるから何とか逃げられてるけど、5秒以上離すことは難しそうだな。
こんな事なら走ったり飛んだりしながらも弓を射る練習をしておけばよかった。
でもスタミナも無限じゃないし、そろそろケリを着けたい所。
こうなったら魔法で目くらましをして、矢を頭部に打ち込み状態異常を誘発、そしてその間に隠れる。
これしかない。
隠れられなかったら確実に終わるけどなんとかなったら良いな。
取り敢えず、詠唱の時間を稼ぐ為にも熊を引き離さないと。
なんとか熊を限界まで引き離した俺は早速作戦を実行する。
「ウォーターショット」
詠唱時間がほぼ一瞬しかないこの魔法を熊の頭部に向かって撃つ。
なかなか獲物が捕まらずイライラして居た熊は迫ってくる魔法に一瞬気がつかなかった。
その一瞬が仇となり、魔法は熊の胸部に命中、弾けた魔法の威力で頭が上に持ち上がる。
突然起こった衝撃に混乱して動けない熊。
それを逃さず<石の矢>で射る俺。
矢は熊の持ち上がった顎に綺麗に当たり、その衝撃で熊は意識を少し手放してしまった。
力が抜け、倒れた熊の右眼に狙いを定める。
何時もよりもずっと小さい的、しかもチャンスはこれ一回きり。
緊張で体がこわばりそうな所をなんとか堪え、その機を待つ。
汗がじっとりと顔を舐めた時、その時は来た。
明確に来た『今だ!』という強い確信に右手が自然と弦から離れる。
カン!!
何時もよりも力強く聞こえる弓音が響くと、矢は鋭く飛んでいく。
当たる寸前、閉じて居た目が開いた。
タン!
軽く響いた音とともに、熊のHPは黒く染まった。
ネーム〈銀狐〉Lv.7
種族 〈エルフ〉
ジョブ〈弓使い Lv.9〉〈労働者 Lv.1〉
ステータス
HP :76/76
MP :29/74
SP :19/44
STR:13
SIZ:10
DEX:29
VIT:7
INT:13
AGI:18
MND:13
LUK:8
LP :0
スキル
〈弓入門 Lv.11〉〈狩人の眼 Lv.16〉〈木工見習いLv.5〉〈簡易調理Lv.3〉〈水属性入門Lv.5〉〈風属性入門 Lv.3〉〈発見 Lv.13〉〈隠密行動見習い Lv.6〉〈暗殺見習い Lv.4〉
武器
メイン:〈樫の弓〉〈石の矢×2〉
サブ :〈初心者のナイフ〉〈木の銛〉
防具
頭:〈皮の帽子〉
体:〈初心者の革鎧〉
腕:〈初心者のレザーアームガード〉
手:〈鹿の騎射がけ〉
足:〈初心者のレザーグリーブ〉
靴:〈初心者の革靴〉
装飾品
無し
その他
〈初心者の鍋〉〈初心者の鑢〉〈初心者のグリーンポーション〉〈石のつるはし(簡易)〉〈石の斧〉 〈鉄の鋸〉 〈鉄のつるはし〉 〈鉄の鑿〉 〈鉄の斧〉




