第5話 取り憑かれたというべきか?
早朝・自宅
ワンルームのアパート、ここが私の家だ。
築三年ほどしか経っていないのでまだまだ新しい。
今日も学校へ向かう前にトイレで静かな格闘を行い、門を清め、室内へ戻る。
すると、無断でPCを起動させて動画サイトを見ていた、脳みそが半分むき出しの少女幽霊が話しかけてきた。
「あ、私のこと見えるようになりました?」
「ああ。だが、10分もすれば霊力が失われ見えなくなるだろうがな」
この少女は最近私を驚かそうとしてやってきた幽霊。
名前は月葉。
月葉は驚かない私に不満を覚え、一度は立ち去ったが、他に自分を認識できる人間が見つけられず、戻って来たというわけだ。
初めて見た時は血まみれの女性というよくある幽霊姿だったが、今では血染めの白い衣装を身に着けている程度で、顔は血に塗れていない。
年齢は十五歳らしく、むき出しの脳みそに目を瞑れば、ぱっちりした瞳に桃色の小さな唇に長い黒髪と、美しい少女だ。
彼女は交通事故で頭を打ちつけて亡くなったんだと。
それ以降、どういうわけか成仏できずに、やることもなく、人を驚かして暇をつぶしていたらしい。
月葉は巧みにマウスを動かしながら、せんべいをバリボリと音を立てて食べている。
「人を驚かすのは好きですけど、こうやって堂々と何かしても驚かれないのもいいもんですねぇ」
「幽霊なのどうやってマウスを掴んでいるんだ? せんべいまで食べているし……」
「電子機器と幽霊って意外と相性いいんですよ。せんべいは気合です」
「気合で食べられるのか……」
「あ、そういえば」
月葉は一度部屋を見回して、私の方を見た。
「あなたはまだ学生じゃないですか。どうして一人暮らししてるんです?」
「小学六年の時に両親が事故で他界して、それ以降は親戚のおじさんに面倒を見てもらっているんだ。このアパートはおじさんが経営していて、おじさんも近くに住んでる。そういうことで学校からも一人暮らしの許可を得ている」
「あ、ごめんなさい。かなりお辛い過去をお持ちなのですね」
「構わんさ。状態から見れば、君の方が大変そうだしな」
視線を髄液でてかりを帯びる月葉の脳みそへ向ける。
すると彼女は手で脳みそを隠して笑い声を上げた。
「クスッ、そうですね。申し訳ついでに、もう少しだけ質問。どうして、そのおじさんの家に住まないのですか?」
「おじさんにも私と同じくらいの子どもがいる。そうなると、お互い色々気を使うからな」
「あ、それは気まずいですね」
「おっと、どうやら霊力の効果が消えてきたようだ」
月葉の姿がぼやけ始めた。
彼女はとてもつまらなそうな顔を見せる。
「もう10分経ったのですか? みじか~い、もっと話をしてたいのに!」
「どういった理屈かはわからんが、この力はウォシュ○ットを門に受けた時に現れる、一時的な物だから仕方があるまい」
「それってウォシュレ○トの効果なんですか? 実はおしりが濡れるだけでも霊力が高まるとか? そうだ、ウェットティッシュをおしりに挟んで検証してみてはいかかでしょうか?」
「なんでそんなアホな真似をしなければならないんだ?」
「私と話すため!」
「君は話が長いから、今の状態でも十分だ」
「冷たいですね~。女の子にはもっと優しくするべきですよ」
「自分では紳士だと思っているがね。そうだ、もし成仏したくなったら言ってくれ。いつでも葬ってやるからな。紳士として」
そう言って、拳を見せつけた。
すると月葉は眉を折って、しかめっ面を見せる。
「それ、成仏って言いませんから……紳士どころか、むしろ野蛮人」




