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ウォシュ○ットの霊能力者~濡れた力は最強、すべてをシリぞける~  作者: 雪野湯


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第4話 ウォシュ〇レットは全てを救い、一件落着!

 曲がり角から現れたマネキンは無機質な言葉に感情を乗せ始めた。

「トモダチ、イナイ。ウソ、バカリ。オマエハ、嘘ツキ……殺してやる!!」


 マネキンは恐怖を演出するように裁ちばさみをカシャカシャと鳴らしながら、こちらへと向かってきている。

 普通ならば、この恐怖の前に体がすくむだろう。

 しかし私は、日常的に不思議体験をしているので、この程度でひるんだりしない!


「このぉ!!」

 箒の柄で迫ってきたマネキンの胴体を思いっきり殴ってやった。

 しかし、胴体は何やら不思議な力で守られているようで、箒の柄が砕け散ってしまった。



「なっ!?」

「ひひひひ、怖いか? 怖いのか? 偽善者め」

「なんだ、随分と流暢にしゃべるようになったな」

「くくくく! 俺のことを怪談のマネキンだと思ったのか、間抜けめ」

「何を言っている? マネキンではないなら何というのだ?」


「俺はこの体を借りてるだけさ。怪談話を利用して、お前たちを脅かし、遊び、飽きたら殺す。自ら命を断ち、手にしたこの力で、もっと大勢をおもちゃにしてやる。俺の偉大さを知らしめるために」

「自ら命を? もしやお前は、化け物ではなく……幽霊?」


「ああ、そうだ。俺はずっと家にいた。俺の偉大さを理解できない馬鹿どもが集まる学校なんてくそだ。一人でいる俺に対して気を掛ける奴もいたが、そこにあるのは偽善。俺のことを哀れだと思いこみ、見下しているだけ」


「ふん、どうやら鬱屈した存在のようだな、貴様は」

「なんだと……」

「まぁ、貴様のことなどに興味はない。腹も減ったし、すぐに終わらせるとしよう」

「何を言ってやがる? ただの人間如きに何もできるはずがないだろうが」


「ほぅ、お前のようなゴミ如きに、人間様を傷つけられるのかな?」

「て、てめぇえ!」



 怒りの籠る声を聞いた瞬間、私はマネキンに背を向けて、全力で駆けだした。

 それを見たマネキンは笑い声を背中にぶつけてくる。

「ひゃひゃひゃひゃ! なんだよ、格好つけて逃げてやがる。屑虫だな。だがな……逃がしてやるものか! 俺はお前のような偽善者が大っ嫌いなんだ!」



 思った通り、マネキンは非常に短慮な存在と見える。いとも簡単に挑発に乗り、転入生の存在を忘れ、私を追いかけてきた。

 私は奴に追いつかれる前に――向かう!!




 そこへ飛び込み、扉を開き、鍵を閉めた。



 出入り口からは低いマネキンの声が聞こえてくる。


「どこへ隠れた~? 隠れても無駄だぞ~」


 その声は徐々に遠ざかり、やがては消えた。

 しかし……。


「ケケケケケケケ、助かったと思ったのか? そんなはずないだろう!!」

 声は天井から降ってくる。見上げると、少年の顔が浮かび上がるマネキンが嫌らしい笑みを見せていた。

「トイレに逃げ込むなんて馬鹿な奴。お前は惨めに便所で死ぬ――――って、おい! なんで下半身を露出しているんだ!?」



 そう、私はトイレに飛び込み、颯爽とスラックスとパンツを脱ぎ、便座に尻を降ろしていた。

「ふ、それはこの姿が――勝利への道だからだ!」

「はっ?」

「では、スイッチオ~ン」



 人差し指の皮膚はそのボタンの柔らかさを覚えている。強く押し込まなくても、私の望みに応えてくることを知っている。

 ノズルが顔を出し、私に力を貸し与える。



「Wow、素晴らしい。この水圧」

「こんな状況で肛門を洗うだと!? てめぇ、何を考えてやがる!?」

「おや、まだ気づかないか。私に満たされる力に」

「なに……え? ば、バカな、変態の霊力が高まっている!?」

「誰が変態だ! ともかく、強制的に成仏をさせるぞ」


「ひっ、今すぐここから」

「逃がすものか!」


 私はおしりの周りをべちょべちょにするという尊い犠牲を払って立ち上がり、マネキンに張り付いた少年の顔を握りしめ、人形から彼を引き剥がした。



「ひぃぃ、な、なんで霊の俺が人間に捕まるんだよ~」

「私はウォシュ○ットって門を濡らすとき、霊において最強となるのだ!」


「わけわかんねぇ!! 離せ、この野郎!!」

「それはできない。人を驚かす程度ならともかく、殺めるような存在を放置しておくわけにはいかないからな」

「な、何をする気だ?」


「殴る!」

「へ?」

「霊力が高まっても念仏など私は知らぬ。故に、殴り、成仏させる。今までこうして多くの幽霊を屠ってきた」

「屠って……いやいや、それ成仏じゃない!」

「問答無用! あるべき場所へ還れ!!」


 拳を振るう。少年は穿たれた腹部を手で押さえ、その場で蹲る。

「がぁぁ……痛い、痛いよ~。幽霊なのに」

「それは可哀想に。すぐに終わらせるからな」

「ひ~、優しさの方向性がおかしいぃぃぃ!」

「でりゃでりゃでりゃでりゃぁあぁぁ」


 痛ましい少年の姿を見ていられずに無数の拳をぶち込んでやった。

 打ち込むたびに少年の姿は歪み、人の形を失い、やがては霧散した。


「ふむ、成仏したか……たぶん」


 実際のところ、無に()したのか成仏したのか私にはわからない。だが、生者にとって死者の世界は近くて遠い場所。深く知る必要もあるまい。


 全てを終えて、転入生を隠した理科準備室へ向かう。

 だが、そこに彼の姿はなく、代わりに書置きが残されていた。


――ありがとう、と――


 どうやら、隙を見て逃げてくれたようだ。

 学校の外からは、先に逃げ去った生徒たちの騒ぎ声が聞こえてくる。

 早く合流してみんなを安心させてやりたいが……スラックスもパンツも濡れているので、もう少し乾くまではここに留まろう。


 恐怖を前に漏らした、などというあらぬ嫌疑をかけられぬように……。

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