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ウォシュ○ットの霊能力者~濡れた力は最強、すべてをシリぞける~  作者: 雪野湯


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1/6

第1話 尻を濡らすと霊が出るんだが

 私は十六歳にして、じ主だ。

 地ではなく、痔の(ぬし)だ。


 痔……それは肛門やその周辺に起こる病気の総称。

 一般には血管がうっ血したイボ状の腫れものをイメージするだろう。私もまた皆がイメージする、痔のあるじだ。


 しかし、ただの痔主(じぬし)ではない。


 便座に跨り、清浄な導き手である温水を門が受け止めると一時的に霊に干渉する力――いわゆる霊力というものが活性化し、(ことわり)から外れた霊を見ることも、触れることも可能となる。


 そして今日もまた、活性化した私の前に霊が現れる。



 ――――――

「ふぅ~」


 マイホームのトイレという、日本人ならば誰もが安堵するこの場で、穏やかに息を漏らした。

 門に余計な力を籠めず、息をゆっくり吐いて筋力を緩め、腸内にたむろする(やから)達を追い出す。だが、彼らは恥ずかしがり屋でなかなか出てこない。


 ならば長期戦か? いや、三分以上の格闘は門へ余計な負荷をかけてしまう。

 タイムリミットは残りさんじゅうび――――来たか!!


 腸は躍動を始め、恥ずかしがり屋さんたちを外の世界へと促す。

 間もなく、彼らはひょこりと頭を出し、そして全身を露わとして真下にある水面へダイブした。


「うむ、門に痛みはない。今日はあまり負荷をかけずに済んだ」

 

 完全勝利を手にして、自然と笑みが零れる。

 笑みは指先を羽のように軽くして、便座の横にある文明の象徴たるボタンをポチっと跳ねた。


 便座の奥よりノズルが現れ、先端から癒しの雨とも言える温水が門を清めていく。

 ああ~、痔を持つ者たちの救世主……温水洗浄便座と呼ばれるもの。

 

 その歴史を熱く語りたいところだが、残念なことにそれは叶わない。


――何故ならば、私はトイレで門を濡らすと……。



「フフ、フフフフ」


 突如、少女らしき声が響いてきた。

 その響きは低く、冷たく、耳にする者に恐怖を与えるものだろう。

 しかし、私はうろたえることなく、小さく嘆息を漏らすのみ。


 鍵を閉めていたはずのトイレの扉が僅かに開き、その隙間から真っ白な衣服に血の意匠を施した少女が顔を覗かせた。

 漆黒の長い髪を持ち、頭の半分はかち割れ、血と色のない脳脊髄液(のうせきずいえき)が混ざり合う脳みそが露わとなっている。


 少女は歪んだ笑みを見せて私に語り掛けてくる。

「私は寂しいの……私のことが見える人を探した。私を見て。私もずっとあなたのことを見ていてあげるから。クスクスクス」


 私は彼女に言われた通り、じっと見てやる。



――二分後


 少女がおずおずと言葉を発する。

「あ、あの、リアクションはないんですか? 『ひぃぃ』とか『うわぁぁ』とか?」

「なんだ、私が恐怖する姿が見たかったのか?」

「えっと、まぁ、そうなのですけど……」

「まったく、悪趣味な。とりあえず、このままだと尻が風邪をひくので、整えさせてもらうぞ」


 私は少し腰を浮かせて、パンツで下腹部を覆うとした。

 すると、少女が短い叫び声を上げる。


「キャッ! ちょ、ちょっと、見ちゃったじゃないですか!! この変態!!」

「変態も何も、人様がなさっている場を覗き込む君が言うセリフではないだろ?」

「うるさいうるさい! もう、霊力を探知して久しぶりに遊べると思ったのに、他人に見せちゃいけないものを見せつけるなんて! 最っ低ですね!!」


 そう言って、彼女はトイレの扉をバンと勢い良く閉めて、姿を消した。

 私は呆れた表情でこう呟く。

「人に見せてはいけないって……脳みそを露わにした君の方がよっぽどだろ」



 これが私の日常。

 ウォシュ○ットにより霊力が活性化すると、人ならざる者たちがそれに惹かれ、集まって来てしまうのだ。

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