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闘神と仙術スキルでアポカリプス世界を駆け抜けろ!  作者: クラント
スラム編

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92話 奮闘


 新しい鉄パイプ、ジュード曰く『真・鉄パイプ』を手にした俺達は、正に破竹の勢いで1階を進んでいく。


 8体、10体とのラットの群れも全く相手にならなかった。


 やはりジュードが一撃でラットを倒せるようになったことが大きい。


 それまで相手の反撃があるのを前提として、悪く言えば、やや腰の引けた攻撃をしていたジュードが、まるで猛将が乗り移ったかのようにラット相手に無双状態だ。


 今まで打ち漏らし担当だったが、俺とツートップで突っ込むようになり、代わりに白兎が打ち漏らしを片付けるようになっている。


 俺が本気を出していないということもあるが、キルスコアでも俺に匹敵するようになった。


「なるほど、大分コツを掴んてきたよ。ヒロが突っ込んでく理由も分かった気がする。相手に攻撃を受ける前に破壊してしまえば大丈夫ってことだね」


「攻撃は最大の防御って言うんだ。ただし、相手との実力差を読み違えると、命の危険があるぞ。俺と一緒にいる時ならフォローに回れるけど、お前一人の時は止めておいた方がいいな」


「確かに。僕一人だったら一呼吸で2体が限度かな。ソロの時に挑むのは4体以下にしておくよ」


 幸いなことに、俺と違ってジュードが粉砕したラットは晶石が無事に残っている。

 すでに10日間くらいのノルマは達成してしまいそうだ。

 しかし、俺もジュードもノルマなんて意識していない。

 それよりもっと高い目標を掲げているから。







 そのままの勢いで2階への階段を前にする俺達。

 これから先はコボルト達がひしめいている可能性が高い。

 今までのラットとは違い、敗北は死に直結する階層だ。


 しばし、ジュードと真剣な表情で顔を見合わせる。

 お互いに覚悟はもう決めている。ただの確認でしない。

 やがてジュードがいつものイケメンスマイルで俺に微笑みかけくる。


「まあ、今の僕達だったら全く問題ないよね」


「当たり前だ……と言いたいところだけど、念のためだ。ジュードがコボルトを一撃で倒せるようだったら、これまで通り。もし、一撃で無理そうだったら、前の陣形に戻そう」


「ヒロ、過保護って言われない?」


「うるさい。無傷で帰るのが最優先だ。お前、ちょっと調子に乗り過ぎてるぞ。新しい武器でテンションが上がっちゃうのは仕方がないが、もう少しリスクを考えろ」


「うーん。なぜだろうね。僕一人の時はそんなことにならないのに、ヒロが一緒だと突撃思考になっちゃうなあ。なんか、ヒロの近くだと絶対に大丈夫とか、怪我はしないっていう安心感が湧いちゃうって言うか……」



 コイツ、本能的に俺の強さを感じているのか。


 やはり、ジュードはこの世界ではかなり優秀な部類に入るのだろう。

 身体能力といい、直感力といい、人に不快感を与えない魅力といい、このまま成長していけば、ひょっとしたら英雄と呼ばれるくらいまでになるのかもしれない。


 アデットがコイツを積極的に勧誘しているのも分かる気がする。

 



 ジュードに、アデット。スラムにいるのが不思議なくらい優秀な人物だ。

 もし、俺がこの世界に呼ばれた勇者なら、彼らは本来、俺の仲間になるべき者達なのかもしれない……


 駄目だ! 俺以上のイケメンが俺のパ-ティメンバーなんて、俺が我慢できるわけがない。絶対に比較されて俺が落ち込む展開が読めてしまう。


『えー、この人が勇者なんですか? ジュードさんの方がカッコイイのに!』

『絶対、アデットさんの方が勇者に相応しいと思いますぅ』

『だって、あの人、冴えなさそうな顔をしていますし、ジュードさんとかアデットさんの方が良いな』


 イカン!俺の妄想だけど、ジュードとアデットに殺意が湧いてしまいそう。



 俺がパーティメンバーを集めるのだったら、全員女性に決まっているだろう。それも見目麗しくて優秀な女性達。そうあの雪姫のような……


 そして、全員が俺を慕ってくれていて、それでいてハーレムを許容してくれる……

 だって大抵のネット小説の主人公のパーティはほとんどそうじゃないか。

 だったら俺だって目指してみてもいいんじゃない?




「ヒロ、そろそろ降りようよ」


「ああ、ごめん、ごめん」



 また、いい感じに妄想が暴走したようだ。

 気を抜くのはまだ早い。これからが本番だというのに。

 さあ、コボルト退治と行こうか。








 2階に降りて、しばらく進むとコボルト3体を発見する。


 このダンジョンがスラムチームの狩場となっている理由の一つとして、大抵先に敵を見つけることができるということが挙げられる。

 

 薄っすらと壁が発光しているものの、全体的に薄暗いダンジョンだ。

 そんな中で煌々と光る赤い眼光は非常に目立つ。通路を進んでいる時は前後にだけ気を配っておけば、見逃すことはほとんどないと言える。


 曲がり角にさえ気をつければ、こちらが先手を取ることができるので、勝てると分かって仕掛ける時の勝率は非常に高くなる。


 逆にその戦力差の計算をミスってしまうと、たちまち逃げ場を失い、囲まれて殺されることが多くなるそうだ。



 さて、目の前のコボルト3体は俺達が仕掛けるには妥当な相手なのだろうか。






「流石にコボルト1体だけに遭うって難しいよね。どうしようか?」


 ジュードが小声で俺に確認してくる。

 しかし、その顔はすでに戦闘モードだ。


 ふむ。以前、ジュードはコボルトにやや有利といった戦力差と言っていたが、今のジュードなら一対一なら余裕で勝利するだろう。


 逆に不安なのは白兎だ。明らかに格上の相手になる。

 一対一でも抑えるのも難しいだろうし、破壊されてしまうことも考えられる。


 仕方がない。白兎はここで待機だな。後ろから誰か来ないか見張っていてもらうか。

 で、俺が先制攻撃で1体を瞬殺して、残り2体をジュードと2人で一対一に持ち込むとしよう。



 決まれば、行動は早い方がいい。

 白兎を後ろに下がらせて、ジュードと2人でコボルト達に飛びかかる。



 先手必殺!


 飛び出したのはジュードと同時だが、瞬発力の差で俺の攻撃が先にコボルトの1体を捉えた。


 ジュードから貰った鉄パイプを大きく振りかぶり、コボルトの肩口を袈裟切り気味に叩きつける。



 ガシィィィン!!



 コボルトの肩口に叩きつけた鉄パイプはそのまま斜めにコボルトを両断する。



 おお、鉄パイプで大剣のように真っ二つにしてしまった。

 

 鉄パイプは強度的に大丈夫なのか?


 思わず鉄パイプを確かめてみるが、特に曲がった様子もない。

 これはただの鉄パイプのはずだったのに、俺が持つと頑丈になるのだろうか。



 イカン。まだ戦闘中だ。ジュードは……

 

 ジュードの方も真・鉄パイプでコボルトの首を一撃で飛ばしたようだ。

 コボルトが振り上げた腕と一緒に首が宙を舞っている。


 コイツ、本当に真・鉄パイプ使いへと進化したんじゃないだろうな。

 さっきからジュードの戦闘力の伸び具合が異常だ。


 俺の仙術で強化した鉄パイプの恩恵を受けているせいなのか、それともそれを切っ掛けにして、彼の中で何かが覚醒したのか。



 おっと、最後の一体を忘れていたな。


 俺におっとり刀で襲いかかってきたコボルトの爪を躱して、カウンターの喉突きで仕留める。


 ふむ。首を飛ばさなくても、頭と胴体のつなぎに穴を開けてやれば動きを止めるみたいだな。


 倒れたコボルトがゆっくりと目の光を失っていくのを見ながらそう判断する。





 何にせよ、完勝だ。このままオーク相手でもいけそうな気がしてきたぞ。

 こちらは無傷の状態で、体調も万全。体も大分温まってきて絶好調の状態だ。

 このパーティの連携も大分様になってきたし、そろそろ強敵と戦ってみたいところだが。


 こんなハーフリングタイプのコボルトより、中量級ヒューマノイドタイプと呼ばれるオークの方が稼ぎもいいだろうし。


 それどころか、オークを瞬殺できる俺だから、実際はもっと格上の、もっと俺に相応しい強敵がこのダンジョンの奥にいるはずだ。


 そして、それを倒せば……




 ふと、倒れているコボルトの顔が目に入る。


 その犬をモチーフに邪悪さをトッピングしたような面相は、以前苦戦を強いられたウルフ、いやヘルハウンドやダイアウルフを思い出させる。

 

 あの時程この世界に来て危機感を持ったことは無かった。

 もし、風吼陣や莫邪宝剣をあそこで作り出せずにいたらどうなっていたか。

 聞けば、猟兵団を全滅させるような集団だったようだ。

 あれだけ手強かったのも頷ける。

 

 あの状況に陥ったのも、俺がラビットでは物足りず、奥へ進んだ結果だったな。



 ……やはり、過信は禁物だ。


 俺が昔遊んだダンジョン探索ゲームにはこんな名言があった。



『まだいけるはもう危ない』


 

 今回は初めからコボルト狙いだったんだから、獲物はコボルトで我慢しておくべきだろう。


 もし、今後奥へと進むことがあるのであれば、こんな行きがかりで思いつくんじゃなくて、最初から奥へ進む覚悟を持ってから挑むべきだ。





 相変わらず物事が順調に続いていくと、調子に乗りやすくなってしまうな、俺。


 常にどこかでブレーキを踏むように意識していないと、また、どこかで暴走してしまいそうだ。

 特にこの力を得てから、無意識のうちに、それを試してみたい、誇示したいという欲求にかられることがある。


 おそらく、これが『力の誘惑』というものだろう。


 ネット小説でチート能力を得た主人公達が、口々に『目立ちたくない』、『スローライフ』と言いつつ、揉め事に突っ込んでいってしまうのも、こういった『力の誘惑』が影響を与えているのではないだろうか。


 俺の友人で格闘技を本格的にやっている人物がいた。彼は暴力的な人間ではなかったが、時々その格闘技を見せつけたいが為に、トラブルに自分から近づいていったり、ワザとチンピラに絡まれようとしたりすることがあった。


 自分が苦労して身に着けた技術を確かめたい、周りに見せつけてやりたいという思いにかられることがあるらしいのだ。


 普通の格闘技ですら、こういった状態になることがあるのだ。では、絶大な力を持ったチートスキルの力の誘惑は、一体どれほどのものなのだろうか。

 

 もちろん、俺が大事にする『身の安全』と、こういった『力の誘惑』はお互いに反発し合う関係だ。


 しかし、『力の誘惑』に抵抗し続けると、今度はストレスが溜まって『心の安定』を失っていくことにつながる。当然、『心の安定』を失えば、容易に『身の安全』も崩れ去るだろう。


 そう考えると、今後の俺の生き方としては、『身の安全』を最優先にしながら、『力の誘惑』に適度に抗いつつ、『心の安定』を失わない程度に流されるという、非常に高難易度な舵取りが必要なものとなってきそうだ。

 

 意外にチート能力をもったネット小説の主人公達も苦労しているのかもしれない。

 今後の生き方の難しさを考えると、少し憂鬱な気分になるな。







 戦闘が終わったと判断した白兎がこちらに駆け寄ってくる。



 おー、よしよし!

 お役目ご苦労様。お前が今回のMVPだぞ。



 ジュードが何か言いたそうな目でこちらを見てくる。


 知るか。初めて単独でコボルトを狩って嬉しいのだろうが、男を褒めても俺が嬉しくないんだよ。後でサラヤに褒めてもらえ。



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