79話 道すがら
日が暮れかけて、視界が茜色の光に染まる中、俺はサラヤ、ジュードと一緒に総会の会場とやらに向かっている。
白兎を連れていきたかったが、総会での参加者3名という制限には機械種も1名と数えられてしまう為、泣く泣くロビーでお留守番してもらうこととなった。
また、会場に持ち込める装備は特に決められている訳ではないが、だいたい皆は護身用レベルの装備を1つ持ち込んでいるらしい。もちろん、護身以外での使用はご法度だ。もし、その場で迂闊に使用すれば他のチームが皆敵に回ることになっているという。
「ヒロはもちろん、僕のあげた鉄パイプを持ってきてくれるよね」
にこやかに言ってくるジュードだが、流石にサラヤが止めてくれる。
「2人とも鉄パイプは止めてよね。どちらかは銃を持っておいて」
審議の結果、ジュードは鉄パイプ、俺は銃を持つことにする。
まあ、使うことはなさそうだが。
しかし、あのまま鉄パイプと言われたらちょっと困ってたな。
ジュードに貰った鉄パイプは打神鞭に変わってしまっている。
最悪、打神鞭を鉄パイプに変化させるか。
七宝袋の中から猛抗議が来たが、無視しておく。
サラヤとジュードは俺の少し前を歩きながら2人で楽しそうに雑談をしている。
その後を無言でついていく俺。
こうなるとは分かっていたけど、実際に目の前でやられると結構キツイ状況だ。
カップルの後ろを歩くお邪魔虫の気分を味わっている。
ディックさんとかこの状況、辛くなかったのか?
早くも、もう帰りたい気分一色だが、そういう訳にはいかない。
今回で会う予定のスラムチームの代表者たち、それは俺にとっても有益な情報源になる可能性がある。
俺が狩人とか、機械種とかの話を聞くことができるのは、このチームトルネラの面々しかいないのが現状だ。
情報源は複数用意すべし。これは情報収集においては鉄則であろう。
色々な情報を集めていけば、今、抱えている課題の解決につながる道も見えてくるかもしれない。
拠点を出発する前に、サラヤとジュードに軽くピアンテの件を応接間で相談してみた。
返ってきたのは、やはりピアンテだけを特別扱いにするのは難しいということだった。
「ピアンテが自分の蒼石を使ったとしても、ラビットを渡すのは難しいと思う」
サラヤがいうには、チーム運営で一番気を遣っているところが報酬の分配だそうだ。
ピアンテは特に成果をあげている訳ではないし、むしろサボったりすることが多いので、今のところマイナス評価の方が多い。では、ここから挽回できるかという点についても、『砂さらい』や『草むしり』、中の仕事だけでは、そこまでの成果をあげることは非常に困難だ。
「それに、ラビットを従属させたピアンテが、初めは大人しくしていても、だんだん増長していってリーダーに歯向かうっていう可能性もあるし」
その可能性もゼロではない。サラヤの時は大丈夫でも、イマリの時になって反旗を翻すということも考えられるか。
「機械種使いの才能があるっていうのはプラス材料にならない?」
「あの子が今後、外で機械種相手の狩りをしてくれるなら先行投資ということで、できなくもないけど……」
まあ、無理だろうな。キャアキャア言いながら逃げ回っている風景しか目に浮かばない。機械種使いでも白鐘の効果範囲外なら近くにいてやる必要があるんだったな。
「ピアンテが男の子だったら、チームトルネラの戦力がかなり増えたのに」
残念そうなサラヤだが、その仮定は無意味だろう。
いや、いっそピアンテをカランくらいに鍛えてみたらどうだろう。
「ヒロ、女の子がダンジョンとか狩りとかに出たら、男連中に間違いなく狙われるよ」
俺の考えをバッサリ否定してくるジュード。
「それにね。男女の差はかなり大きいよ。カランの時でさえ、結構僕らが気をつかっていたんだ。カランは幼少時から猟兵団暮らしが馴染んでいたけど、それでも着替えとか、トイレとか、大変だったんだよ」
それがあったか。男だったらその辺でも大丈夫だけど、さすがに女の子は、特にピアンテみたいな子は絶対に無理だろう。
うーん。せっかくの機械種使いの才能が勿体ない。
「そうだね。僕もディックもラットとかで試してみたけど駄目だったし」
そうか、ラットがいたか。あれならもっと安い蒼石でブルーオーダーできるし、機械種使いの才能を調べるにはもってこいなのか。
「狩人になるなら機械種使いが近道だからね。正直ヒロが羨ましいよ」
俺はお前が羨ましい、と言って俺の前で座る2人の、小指だけが絡まっているのを指摘してやる。
バッとお互いが手を放したが、もう遅い。
ちょっと気まずくなった応接間を、準備があるからと気を利かせて出ていく俺。
この状況、さっきとあんまり変わってないんじゃない。
前を歩く2人を見ているとそう思ってしまう。
俺に恋人でもできたら、この状況でも辛くはないんだろうな。
いつになったら俺のヒロインは現れるのか。
歩きながら俺のヒロインがいつ現れるのかを未来視で見ようとしてみる。
さあ、俺の未来のヒロインを映してくれ!
映らねえ!
本当に使えねえ!
なんで、異性関係だけ範囲外なんだよ!
苛ついて足元の石を蹴っ飛ばしてみる。
コロコロと転がる石は道の側溝に落ち、カラカラと音を立てる。
その側溝から驚いたように小さな白いナニカが飛び出してきた。
へ?
あれ、鼠か?白いネズミだ。
その白ネズミはこちらの方とチラッと覗き見るような仕草をしたかと思うと、すぐに側溝に潜り込んでいく。
何だったんだ。ネズミなんてこの世界に来て初めて見たけど……ひょっとしてあれは機械種ラットか。白いってことはブルーオーダーされている奴だな。
「ヒロ、こっちよ」
側溝の方へ近づこうとしていた俺をサラヤが呼び止める。
まあ、いいか。この側溝に潜られたら見つけようがないし。
諦めて2人の後についていく俺。
「あそこよ。あの建物が総会の会場なの」
サラヤが指を刺すのは古びた体育館のような建物。
入り口には何人かが立っており、番のようなことをしていると思われる。
サラヤの話では、おそらく総会の議題はダンジョンの異常について話し合いがされるだろうとのこと。
このままダンジョンの機械種が強くなっていけば、そのうち、スラムチームでは対処できなくなるし、街の狩人達も入り込んでくる可能性が高い。
ダンジョンの稼ぎが無くなれば、少なくなった稼ぎを増やす為に、スラムチーム同士での抗争が始まってしまう。それを回避する為のすり合わせが行われるらしい。
抗争か。スラムの人間相手に負けるつもりはないが、できるなら人殺しは避けたい。
もうすでに殺した数は7人だ。現代の日本なら殺人鬼と言われても仕方がない。
これ以上自分の手を汚してしまって、その汚れに慣れきってしまうのが怖い。
でも、チームの為に必要なら躊躇はしていられないだろう。
その場合は俺の異常性も皆にばれてしまう可能性が高くなるな。
できうるなら、チームの為に手を汚す俺に怯えないでいてほしいと思う。
そうなったら俺は多分耐えられないと思うから。




