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ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる  作者: 鳥助


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98.お好み焼き

「じゃあ、騒動の終結、お疲れ様ー!」


 セシルがコップを持って高く上げると、フィリスと一緒にコップを高く上げてくっ付ける。カキンと気持ちのいい音がなると、コップに入っているジュースを飲む。


「あー、働いた後のジュースは効くわー!」

「なんかおじさんみたいなセリフになってますよ」

「実はおじさんだった?」

「失礼ね! おじさんじゃないわよ!」


 セシルの態度がおじさん臭かったので指摘すると、不機嫌そうに頬を膨らませた。


 今、私たちはお好み焼き屋に来ている。騒動の打ち上げたということで、セシルがこのお店をチョイスした。お金が沢山入ってきたから高級店にでも行くかと思ったのだが、意外と庶民派のお店を選んだみたいだ。


 このお店の方が気楽に食べられるし、沢山話しても大丈夫だと言っていた。気兼ねなく食べれて話せるのはいい。高級店だと窮屈な感じがするから、こっちの方が好きだ。


「このお店は鉄板で自分で焼くスタイルね」

「えっ、自分で焼くんですか?」

「自分でできたての料理を食べれるのって楽しいって思って」

「で、できるでしょうか……」

「大丈夫よ! 簡単だから!」


 自分で作ると言われたフィリスは不安そうな顔をするが、すかさずセシルが元気づける。自分で作るお好み焼きか……そういえば友達とグルメでもそんな話があったな。みんなで楽しそうにしていたのが印象に残っている。


 あんな風に私もできるんだろうか? 仲間だと意識できたとしても、急に仲良くなることは難しい。というか、どんなことをして仲良くなればいいんだ? 小さい頃はどんな風に仲良くなっていたっけ?


「さぁ、まず焼きましょう!」

「ど、どうすればいいんですか?」

「それぞれが持っている材料が入っているボウルがあるでしょ? その中身をかき混ぜることからだよ」

「混ぜる……それならできそうです」


 私たちの前にはそれぞれ一つずつボウルが置いてある。その中には色んな材料が入っていて、これだけでは美味しそうに見えない。きっと、美味しくなるのは鉄板に置いてからだろう。


 ボウルを手に持って、付けてあったスプーンで中身を混ぜる。綺麗に混ざると、セシルが鉄板に油を塗っていた。


「よし、これで生地を乗せてもいいわよ」

「上手に乗せれますかね?」

「そのまま入れるだけでいい」


 フィリスがドキドキとした様子でボウルを傾けて鉄板に生地を流し込む。私もそれに続いて生地を鉄板の上に乗せる。その途端にジュワッとしたいい音が聞こえてきた。


「全部生地を乗せましたけど……こんな感じでいいですか?」

「てっぺんは潰したほうがいいわね。ほら、こんな風にちょっと薄くして平らに……」

「片面が焼けた後はひっくり返すから、てっぺんは平らのほうがいい」

「なるほど、ひっくり返すんですね。じゃあ、こんな感じで……」


 スプーンでてっぺんを潰して平らにする。すると、円形の生地が三つできあがった。


「片面が焼けたら、ひっくり返すからね。このヘラで」

「えぇ! こ、これでひっくり返すんですか!? む、難しそうです……」

「簡単だよ。ヘラを入れて、手首を返せばいいだけだから」

「ユイさんは料理をしているから、簡単だって言えるんですよ。私、全然料理をしたことがないので、こういうことも難しいんです」


 フィリスが不安そうな顔をしている。あわあわしている姿がおかしくて、笑ってしまった。


「あっ、ユイが笑った!」

「私が困っている姿がそんなにおかしいんですかー?」

「いや、そんなつもりは……」

「そんなユイさんには仕返しです!」


 隣に座るフィリスは私の頬に手を伸ばすと、頬を引っ張られた。痛いような、痛くないような……これが仕返し?


「あはは! その顔面白い! 写メ撮っちゃおう!」

「や、やえおっ!」

「ほらほら、どんどん伸ばしますよー!」


 フィリスに頬をぐにぐにと頬を引っ張ったり、押し込んだりしてくる。変形する私の顔を見てセシルがおかしそうに笑い、写メを撮る。


「ほらほら、見て! こんな顔しているんだよ!」

「何を撮っているんだ! 消せ!」

「えへへ、やだよー!」


 スマホを取ろうとするが、セシルがスマホを引っ込めてしまい奪えない。くっ、私の変な顔を写真にするとは……。


「あ、いい匂いがしてきました!」


 その時、フィリスが焼けたお好み焼きの匂いを感じ取った。


「そろそろ、ひっくり返す時ね。じゃあ、お手本にユイが先にひっくり返して」

「私が?」


 セシルからヘラを受け取ると、お好み焼きと向き合う。香ばしい匂いがしてきたお好み焼きはひっくり返す絶好の機会だ。お好み焼きの下にヘラを差し入れて浮かせる。そして、手前にくるりとお好み焼きをひっくり返した。


「わー! そうやるんですね」

「流石ユイね。手際がいいわ」

「こんなの簡単だよ。二人もやってみて」

「じゃあ、先に私からやるわね」


 セシルにヘラを渡すと、自分のお好み焼きの下にヘラを差し入れる。それを浮かせると、戸惑いつつもひっくり返した。


「わー! ちょっとずれた!」

「これくらいなら大丈夫」

「うー、ユイみたいに綺麗にひっくり返せなかった。はい、次はフィリスね」

「とうとう、私の出番ですね」


 緊張した面持ちでヘラを受け取ったフィリス。ゆっくりとした手つきでヘラをお好み焼きの下に差し入れて浮かせる。後はひっくり返すだけなんだけど……フィリスが力を溜めていて中々ひっくり返さない。


「ほら、フィリス。こう、こうやって!」

「こう……こうやって……」

「思いっきり返す」

「思いっきり……」


 ぐっと体に力を入れて、真剣な表情をするフィリス。カッと目を見開くと、思いっきりヘラを返した。


「たぁっ!」


 だけど、ヘラの返しが甘くてお好み焼きはひっくり返せず、そのままの形で鉄板の上に戻った。


「ふふっ、気合を入れたのに……お好み焼きの向きが変わってないっ」

「気合を入れた意味は?」

「ほらー、私には無理なんですよー。ユイさん、お願いしますー」

「……仕方ないな」


 泣き言を言ったフィリスからヘラを受け取ると、簡単にお好み焼きをひっくり返してやる。


「ありがとうございます……」

「フィリスって不器用よね」

「大剣の時もそうだったけど、器用ではない」

「そんな事言わないでくださいよー」


 しょんぼりするフィリスに追撃をすると、悲しそうな顔をした。それがなんだか面白くて、軽く笑ってしまう。


 三人で他愛もない会話をしていると、また香ばしい匂いがしてきた。どうやら、両面焼けたみたいだ。


「焼けたみたいね。じゃあ、上からソースを塗って、青のり、鰹節、紅ショウガ、マヨネーズを乗せると……お好み焼きの完成!」


 熱い鉄板の上に完成したお好み焼き。香ばしい匂いとソースの匂いが食欲をそそる。


「わー、美味しそうですね。これはどうやって食べるんですか?」

「ヘラでこうやって切って……はい、これを皿に盛って食べてもいいし、ヘラの上に乗せたままかぶりついてもいいよ」

「ヘラのままだと熱そうですね。私は皿に乗せて食べます」

「私もそうしようかな」

「私はヘラのままかぶりつこうかな」


 できたてのお好み焼きをヘラで切って一口大にする。切ったものを皿に乗せ、箸を持ってさらに小さくして口の中に入れる。香ばしい生地の中に野菜の甘味と肉の旨味が合わさって美味しい。ソースを感じれば、その強い味付けにさらに食欲がそそられる。


 お好み焼きの上に乗っているものも丁度いい塩梅だ。全部を一つに感じると、幸せな気持ちが生まれる。こんなに色んな物が一緒になった食べ物は他にはないくらいだ。


「あちっ、あちっ。はふっ……んー、美味しい!」

「あっ、美味しいです! 上にかかっているソースが美味しいですね」

「確かお好み焼き用のソースがある。だから、他のソースとは違うと思う」

「へー、専用のソースなんですか。お好み焼きと凄くマッチしていて美味しいです。これはいくらでも食べれますよ」


 みんなで一緒のものを食べると余計に美味しく感じる。どうしてそんな気持ちになるのか分からないけれど、今はそれでいい。こんなに素直に美味しいと言える瞬間は他にはない。


 今までは壁を作っていたけれど、これからは一緒に食事を楽しむことができる。それを思うと嬉しい気持ちが生まれた。でも、急には仲良くできないから……少しずつ近づいて行こう。そうしたら、きっといい関係が築けるはずだから。

お読みいただきありがとうございます!

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