96.仲間の力
「どうして二人がここに?」
驚く私の前に現れたフィリスとセシル。私が連れ去られた場所は分からなかったはずなのに、ここにいる意味が分からない。
すると、二人は自信気な笑みを浮かべて振り向いた。
「どうしてって、ユイが攫われたから探しに来たんじゃない。もう、手当たり次第にサーチ魔法かけまくりよ」
「魔力回復ポーションを使いながら来たんですよ。お陰でなんとかユイさんの居場所を突き止めることができました」
そういう二人の言葉は理解できなかった。いや、まだ私が混乱しているせいか?
「私一人でも対処できたのに……」
「そんなこと約束されてないでしょ。何かあったらどうするのよ」
「そうですよ。ユイさんが強いのは知っていますが、一人にさせるのは危険だと思ったんです。相手はネクロマンサーですからね」
まるで、一人で戦う私が悪いかのような言い方だ。
「別に二人の協力は必要なかった」
「はいはい、強がりはもういいわよ。まぁ、そういう所もあるって分かっただけでも良かったわ」
「強がるユイさんは子供っぽいですね。何はともあれ、間に合って良かったです」
何故、私が子ども扱いされなくちゃいけないんだ。……でも、助かったのは事実か。いつのまにか、体にまとわりついていた家族の幻影は消えていて、商会長の近くに移動していた。
「くそっ、仲間が駆けつけたか。だが、弱い奴が増えたところで何も変わらない」
「私たちが弱いですって? それは聞き捨てならないわ。駆け出し冒険者だけど、戦闘経験は沢山積んできたのよ」
「厳しい戦闘訓練を積んできた私たちは足手まといにはなりません」
「ふん、そう言えるのも今の内だ」
商会長が詠唱を唱えると、無数の黒い武器が出現する。
「いけ!」
「ユイ、行くわよ!」
「やりましょう!」
黒い武器が襲い掛かってくると、私たちは立ち向かう。その時、私の前に黒い霧が現われて、幻影の家族に姿を変える。くっ、またしても……。
私が立ち往生している隙に黒い武器が二人を襲う。
「はっはっはっ! 幻影に手出しもできまい! そこで仲間がやられている光景を見ているんだな!」
先に行こうとすると、幻影が私の体を掴んで離さない。強引に振り解けばいいのに、それができない。幻影だと分かっているのに、どうしてだ。もう家族は死んだんだ、これは幻影なんだ……そう強く自分に言い聞かせるが体がいう事を聞かない。
「ここは私たちに任せて!」
「今こそ真の力を発揮する時です!」
無数の黒い武器を相手に二人が奮戦する。はじめは調子の良かった二人だが、じりじりと押されているように見える。次第に二人の表情が曇り、その体が刃によって切り刻まれ始めた。
その二人の姿を見て、私の心が焦り出す。ただのパーティーメンバーだと思っていたのに、そう思っていた人たちの事を考えると心が動き出す。
私の体にしがみ付く幻影の家族。私が大切にしているものは、幻影の家族なのか? もう、家族は死んでいる……これは幻影だ。今を生きている私が大切にしなければいけないのは……それは――今、傍にいてくれる人たちだ。
私は幻影の家族の手を振りほどいた。視線は苦戦する二人に向けられ、体がそっちの方向に動いていく。真っすぐに突き進んだ先で、私はメイスを振るった。
「ユイ!」
「ユイさん!」
二人に襲い掛かっていた黒い武器を粉砕した。
「全く……何が任せてだ。苦戦しているじゃない」
今を生きる私に大切なのは、傍にいてくれる仲間だ。
「しょうがないじゃない。サーチ魔法の連発で疲れているんだから」
「私は元気ですが、まだ実力が足りないみたいですね。悔しいですが、ユイさんに助けられてホッとしてます」
「ちゃんと考えて行動しろって言っているでしょ。力不足なりの戦い方があるはずだ」
「もう! こんな時までユイの小言は聞きたくないわ」
「いやー、面目ないです。まだまだ、修行が足りないみたいです」
ちょっと不機嫌そうになるセシル、申し訳なさそうに頬をかくフィリス。体は傷だらけだが、まだ言い返す力は残っているみたいだ。だったら、その力を貸してもらおう。
「私が黒い武器を引き受ける。その内に二人は商会長を倒して」
「あら、そんな美味しい役を貰ってもいいの? だったら、残りの力を振り絞って戦うわ」
「これは、ユイさんに任されたということですか。やります、やらせてください!」
「じゃあ、無駄口はここまで。行くよ」
改めて商会長と対峙すると、また宙に無数の黒い武器が出現した。
「何をブツブツと……そんな事をしても私には勝てない。私にはあの方から貰ったこの力があるからな!」
合図とともに黒い武器が勢い良く飛び出してくる。それに合わせて、私も飛び出した。特大のメイスを構え、真っすぐ向かってくる黒い武器に向かって豪快にメイスを振り回す。
横に一振りすれば二つの黒い武器が消え、縦に振れば一つの黒い武器が消える。振るメイスの動きは止まらない。豪快にメイスを振り続けて、襲い掛かる黒い武器を粉砕し続ける。
「く、くそっ!」
全く攻撃が当たらないことに商会長が焦り出した。再び詠唱をする商会長に二人が襲い掛かる。
「溢れだす魔力よ、我が意志に従い、敵を切り裂く風の刃とならん。ウインドカッター!」
セシル渾身の風魔法が飛び、商会長を襲う。無数の風の刃は嵐のように商会長を襲い、その体をズタズタに切り裂いた。その隙にフィリスが急接近する。
「はぁぁっ!!」
フィリスの双剣が満身創痍の商会長を切り裂いた。
「ぐあぁぁっ!!」
深く切りつけられた商会長はその場に倒れた。すると、宙に浮かんでいた黒い武器は無くなる。これで戦闘が終わったのか? そう思って慎重に倒れた商会長に近づいた。
三人で商会長を覗き込むと、商会長の目は虚ろになって、息遣いが弱弱しくなっていた。
「そ、そんな……この私が、負けるなんて……。あのお方から貰った力が……あったのに……」
倒れても自分が負けたことが信じられないみたいだ。
「残念だけど、あんたの負けだ」
「くそ……くそ……こんなはずでは。今頃、町を恐怖に陥れて……公爵に……」
悔しそうに顔を歪ませる商会長。今にも死にそうな気配にフィリスが焦って声を掛けた。
「あなたに力を与えた不死王の行方はどこですか!?」
「……ふふ、あのお方は……北に向かわれた。その方角に目標とするものがあるみたいだな。お前たちはあのお方を追っているのか……。ははっ、追ったところで……あのお方には敵わない。だって、あのお方は……」
息絶え絶えにそう言った商会長は体の力が抜けた。どうやら、死んだみたいだ。
「これで、この町のネクロマンサーは討伐できたわね」
「そうですね。そして、不死王はまだ北を目指しているみたいです。何か目標があると言ってましたが、一体なんなんでしょう」
「さぁね。不死王が何を考えているなんて分からない。ただ、ネクロマンサーは作り出しているみたいだけどね」
不死王が何を考えて北を目指しているのか、そしてネクロマンサーを生み出しているのかは分からない。魔王なりに人への被害を出すためという考えもできなくはない。
でも、これでまた次の行先が決まってしまった。どうせ、後を追うんだろうな。そんな事を考えていると、二人がニヤニヤと笑って私を見ていることに気づいた。
「……何?」
「ユイがちゃんと協力してくれたのが嬉しくてね。なんか、ちゃんとしか仲間っぽくなかった?」
「ですね! 任された時、凄く嬉しかったです!」
「それは……まぁ……」
「ねぇねぇ、どういう心境の変化? 今までだったら、何も言わずに戦っていたのに」
「ようやく、私たちが仲間だと認めてくれたんですよね!」
二人が目を輝かせながら詰め寄って来て、なんだか居心地が悪い。しばらく無言を貫いた後、ボソッと言ってみる。
「……仲間だと、思っている」
そう言って、二人に背を向けた。二人の表情は見えないけれど、驚いてるような気配はする。
「えっ、今……えっ?」
「言いましたよね、仲間って!」
「ということは、私たち……認められたってこと!?」
「やった、やりましたよ!」
……別にこれくらいはいいだろう。そう思っていると、背中に衝撃が当たった。
「これから本当の仲間としてよろしくね!」
「真の仲間ですね!」
「一々、抱き着くな!」
しばらく二人ははしゃいでとても煩かった。やっぱり、言わなければ良かったのか?
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