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ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる  作者: 鳥助


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94.最善の手

 八時になると、私たちは一斉に屋敷の中に突入した。すると、すぐにメイドが姿を現す。


「これは一体なんですか!?」

「公爵家の騎士団だ。イグニス商会の商会長にはネクロマンサーの嫌疑がかけられている。商会長はどこか案内しろ」

「えっ、でも……」

「もしここで我らの言葉を無視すると、一緒に連行することになるが……いいのか?」


 騎士団長がそう言うと、メイドはあからさまに顔色を悪くした。


「こ、こちらです……」


 我が身が大切なメイドはあっさりと商会長を売った。早足で移動をするメイドを騎士団と一緒に追っていく。そして、着いた先にあった扉を強引に開いた。


「何事だ!?」


 部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。その人物に視線を向けると、あの時地下に来た人と同一人物だった。


「騎士団だ。商会長、貴様には嫌疑がかけられている」

「私に嫌疑だと? どんな嫌疑だ?」

「貴様がネクロマンサーで、地下にアンデッドを隠している嫌疑だ」


 騎士団長がそういうと、商会長は怪訝な顔付きになった。


「私がネクロマンサーなはずがない。それにアンデッドを隠しているだなんて、どこにそんなものがある。地下に行って確かめればいいだろう?」


 商会長がニヤリと笑う。アンデッドを隠していた場所は隠し扉になっていた。だから、見つけられないとでも思ったのだろう。だが、私はその場所を知っている。


 すると、そこに数人の騎士が駆けつけた。


「地下に隠し扉を見つけました!」

「隠された部屋には布に包まれたスケルトンが大量にありました!」

「何っ!?」


 騎士たちの報告を受けて、商会長は驚きで声を上げた。その声を聞き、騎士団長の顔がより一層険しくなる。


「どうやら、屋敷の地下には大量のスケルトンがいるみたいだな」

「……あれはアンデッドのスケルトンではない、人体模型だ。その証拠にそのスケルトンは動いてはいないだろう?」

「まだ白を切るつもりか」

「白を切るの何も、あれはスケルトンではない。ただの人体模型だ。どこにあれがスケルトンだという証拠がある? どれだけ攻撃をしても、あの人体模型は動かないぞ」


 商会長はまだあれがスケルトンだとは認めていないらしい。


「おい、そのスケルトンは動いたか?」

「それが……どれだけ揺らしても動く気配すらありません」

「そうだろ! だって、あれはただの人体模型なんだからな! 誰かあれをスケルトンだと証明できる者はいないのか? いないよなぁ!」


 一切動かないスケルトンに騎士たちも戸惑っているように見えた。その様子を見ていた商会長はおかしそうに笑い声を上げる。なるほどね、あれがスケルトンだという証明ができればいいのか。


「だったら、私が証明する」

「あぁん? 誰だ?」

「この場であれがスケルトンだという証明をしてみせる」

「は、この場で? そんなことができるんだったら、やってみせればいい!」


 こんな場で何ができる、そんな風に考えているようだ。


「ユイ、大丈夫なの?」

「本当にできるんですか?」

「……任せて」


 心配そうに二人が声をかけてくるが、問題ない。私は首から下げておいた養成学校時代に貰った十字架を見せる。


「この十字架についている石は浄化した魂の数だけ色が変わる仕組みになっている。もし、地下にいるものが本物のアンデッドなら、浄化魔法をかければこの石の色が変わるはずだ」

「……神官がいたのか」


 商会長は悔しそうな顔をした。だけど、それだけで何かをしようとはしなかった。往生際が悪いな。だったら、とっとと証明するしかない。


「私がここから浄化魔法を唱える。そしたら、地下にいるスケルトンたちは全部浄化されて、浄化された魂の数だけ石の色が変わる」

「ここから浄化魔法だと? そんなの届くわけがない! やってみろ、お前の浄化魔法は届かないからな!」


 実際に地下に行って浄化魔法をかける方が確実だろう。だけど、その場にいて突然スケルトンを動かせられたら不味いことになる。だから、安全な位置から浄化魔法を発動させる。


 私は膝を床につけ、手を胸の前で組み、深呼吸をして心を落ち着かせた。祈りのために心の中を空っぽにすると、祝詞を唱え始める。


「創世の神パルメテスの愛し子なる我の言葉を聞き届け、我が身に降りかかる厄災を払い給え」


 祈りに全集中する。すると自分の中から魔力が溢れだしてきてそれが聖魔法に変換していく。


「天地を貫く聖なる光よ、我が前に現れよ。迷える魂を救い、あるべきところに帰せ。ここは地の上、帰るべきは天の上。その魂が帰する道を示せ」


 そのまま祝詞を唱え続けると聖魔法の力が強くなっていく。それはどんどん膨らんでいき、最大限に力を貯えることができた。これなら、いける。


「解放せし我の力が導き手になりて、祈りを受け取り給え。魂よ、浄化せよ!」


 組んでいた手を上に向けると、手からまばゆい光が溢れだして広がった。その光は建物を突き抜けて広がり、地下へと向かっていく。私の目論見通り、浄化魔法は地下へと飛んでいった。


 そうして光りが収束すると、辺りはしんと静まり返る。そして、私は十字架についてある石を確認した。まだ、色は変わらない。


「どうした! 色は変わらないのであろう? ほらみろ、地下にあるのは人体模型だったというわけだ!」


 一考に変わらない石の色を見て、商会長は愉快に笑い出した。その様子を見て、周りが心配そうにこちらを見てくる。大丈夫、浄化魔法は確実に地下まで届いた。だから、この石は必ず変わるはずだ。


 信じて待ってみると、石の色が変わり始めた。浄化魔法がアンデッドに効いたことを示している。


「どう? 石の色が変わったけど?」


 そういうと、商会長の顔色が変わった。


「は、ははっ……そんなまさか」


 言葉を詰まらせながらそう呟くと、俯いて何やらブツブツ言い始めた。何を言っているか分からないが、時間が経つと商会長の態度が変わっていく。


「くっ、どうした……全然動かないっ。動け、動けっ……!」


 何かに命令しているようだが、上手くいっていないみたいだ。やはり、商会長がネクロマンサーで、地下にあったのは大量のスケルトンだったという訳だ。


 すると、騎士団長が前に出てくる。


「石の色が変わった。アンデッドがこの近くにいて、それが浄化されたことを意味している。地下にあるものが本当にアンデッドじゃなかったか、確認しにいこうか?」


 その言葉に商会長の表情が歪む。そして、小さな声で何やらブツブツと言い始めた。あれは……詠唱? 私は咄嗟に心の中で祈りを捧げ、防御魔法を展開させる。


「ダーククラッシュ!」


 私たちの目の前で黒い爆発が起こった。その爆発は私たちには届かない。急いで張った防御魔法が防いでくれていた。


 爆発が静まって煙が収まると、商会長の驚いた顔が見えた。


「何故、効いていない!?」

「悪いけど、防御魔法を張らせてもらったよ」

「な、なんだと!? 詠唱はしていなかったはずだ!」

「詠唱が無くても張れるんだよね」

「くそっ!」


 とうとう商会長が正体を現した。商会長は悔しそうにこちらを睨みながら、魔法を放つ構えを取る。


「折角、上手くいくと思ったのに……。全部お前のせいで台無しだ! その命で償ってもらうぞ!」

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