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24・アオハルの渦中はそれなりに大変(2/3)

 休憩を終えて店番に戻ろうとすると、明智先生が嬉しそうに目を細めながら僕を見て言った。


「雅樹くん、戻って裏方。

 そっちの子と売り子チェンジ」


 急な指名をされた大河が驚きながら答える。


「え、俺が焼きそば売るんですか?」

「うん。私もいるし、玉ちゃんもいるからお金は触らなくていいよ。

 雅樹くんの顔が怖いから、しばらくお休み」


 さっきも大河たちに言われたけれど、そんなに顔が怖いだろうか。

 両手で頬を挟んでむにむにと動かしてみるが、分からない。


 玉城さんに顔を向けると、「はい笑顔!」と言われたので、午前中と同じように笑顔を作ってみた。


「却下。目が怖い」

「……そうなんですか?自分じゃ全然分からないんですけど」

「じゃあ、溜まっているゴミを片付けて、分別して出せるようにしておいてね〜」


 納得がいかなかったが、お客さんが並び始めているので、言われた通りにテント裏に引き下がった。


「お手伝い賃に焼きそばとたこ焼きと、あとはスポーツドリンクでどうだい?」

「もらっていいんですか?ありがとうございます!」


 明智先生と大河の会話を聞きながら、段ボール箱に入ったゴミの分別を始める。


 黙々と手を動かしながら、考えるのはシーナを連れて行った人のこと。


「あの人は大隈研吾さんで、さっき話したけど悪い人じゃなかったよ。

 シーナの取り扱いもマダム土田に近い感じだから、安心していいよ!」


 帰り際に悠河さんが屈託なく言っていたのに、どうしてもモヤモヤしてしまい、頭から離れない。


 溜まったペットボトルをひたすら潰して小さくする。売り場に音が響かないように両手で潰して、ゴミ袋に投げ込んでいく。


 音を立てながらペットボトルが小さくなっていく。


 頭の中に勝手に湧き出るのは、大学で一緒に並ぶシーナと大隈さんの2人の姿。

 なんの違和感もない。

 絵に書きたいと思うほどの理想的な男女の組み合わせ。


 それが何故か面白くない。


 武田さんへの返事を考えなくちゃ。

 でもシーナが気になる。

 大丈夫。マダム土田の家にいるし、これから悠河さんも泊まりがけで行くと言っていた。

 大隈さんがいても、ただそこにいるだけだ。


 べきょべきょっと音を立てて、一番硬い調味料のペットボトルを気がついたら両手だけで潰していた。

 少し手が痛い気がする。


「はぁ〜……」


 しゃがんだまま膝の間に顔を埋めるようにしてため息を出す。


 何をやっているんだろう。


 シーナに近づかれると逃げたい衝動に駆られるくせに、他の人がシーナに近づくとイライラしてしまう。

 自分でも一体どうしたいのかが分からない。

 キスされる前までは普通だったのに。


 そんなことを思ったら、またキスされた時の感触が蘇って、地面を転げ回りたい衝動に駆られてどうしていいのか分からなくなった。

 走りに行きたい!稽古に逃げたい!


 感情の処理が追いつかないまま、ひたすら集められてくるゴミを分別して、袋に詰め続けた。



 ***



 べきょべきょっと不穏な音がテント裏からずっと聞こえてくる。正直怖い。


「たこ焼きと焼きそば、出来たてですよ~!」

「はい、いらっしゃいませ。お父さんと来たのかい?うん、そうか、偉いね」


 焼きそばとたこ焼きの匂いが満ちる中、玉城さんと白髪頭のおじさんの声が気持ちのいい空に向かって放たれている。

 うん。べきょべきょとか、聞こえない聞こえない。


 売り子スペースからはちょっと外れて、鉄板とレジの中間でひたすらに言われた通りに手を動かす。


「タイガー!そんなにウチの焼きそば気に入ったか!

 来月から店に出すから、食いに来いよ!」

「あざっす。こんなにうまいソース初めてで。うまいっす」

「ははは!そうかそうか!」


 計量器に乗せたパックに出来上がった焼きそばを詰めて、輪ゴムで止める。それが全部終わったら、横に移動して今度はたこ焼きを詰める。

 その時に再び後ろから「べきょべきょ」聞こえたので、雅樹の方をちょっとだけ見た。


 怖い。


 武田さんやシーナさんとはまた別の怖さがある。

 普段は温厚な奴が怒るとギャップが大きいせいか、めちゃくちゃ怖い感じがする。


「兄ちゃん、たこ焼きは食べたか?」

「うっす。うまかったっす」

「焼きそばとどっちが美味かった?」

「……うっす」

「焼きそばかよ!なんだ、何がだめだ?!」

「いや、うまかったっすよ!」

「それなら教えてくれよ、何が足りないのかをよぉ……!!」


 ちょっとかっこいい手ぬぐいを額に巻いているおじさんが、たこ焼きを器用にくるくると回しながら俺を見てくる。怖い。

 でも、まだシーナさんよりは怖くないから……!勇気を出せ!俺!!


「えーと、時々妙にハマるポテトチップスの味と同じっていうか。

 焼きそばはそういうクセになるソースの味っす。

 たこ焼きは、うす塩とかのり塩みたいに安定感がある定番って感じで。

 両方うまいっすよ!」


 焼き上がったたこ焼きをパックに詰めながら、懸命に頭を回転させて何とかしゃべった。

 すると、おじさんはしばらく黙った後に、「そうか」と言った。


 そして、「お前、気に入ったぞ。明日も来いよ」と未使用の手ぬぐいを俺に渡してきた。


「巻いてみろよ。気合い入るぜ」

「あざっす!」


 俺はたこ焼きのおじさんとお揃いの手ぬぐいを額に巻き、せっせと手伝いに励んだ。


「お、タイガー!かっこいいな!似合ってるぞ!」

「うっす!」

「じゃんじゃん焼くから、どんどん詰めていけよ!」

「うっす!」


 こうして俺は雅樹のことは忘れて、屋台の手伝いに勤しむことにしたのだった。





( ;´Д`)登場人物紹介に大隈研吾が抜けていたので、追加しました!

主要キャラなのに……。不憫枠の予感がします。

なお、某建築家に名前が似ているのは気のせいです(目そらし)

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