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15・アンバランスな日もある(3/3)

「シーナくん、何も言ってなかったのか?」


「……知らない人と一緒になったとは。

 ミセス土田のモデルだから、きっと女性と組んだと思ってたんですけど……違うんですか?」


「それくらいの言い方だったのなら、シーナくんにとって珍しく嫌な感じがしなかったんだろうなぁ。

 しばらくは研吾(けんご)くんに頼むつもりだったからよかったよ」


「……土田先生、研吾(けんご)っていう人がその人なんですか?」


「うん。大隈(おおすみ)研吾(けんご)くん。大学生。

 エミル教授の授業を受けたことあるって言ってたよ。

 シーナくんも、お父さんのエミル教授の話をしてたから、それで慣れたのかな」


「……どういう人なんですか?」


「えーと、スケッチしたのなら、絵画教室の方でアップしてたはず」


 そう言って、目の前にあるパソコンを少し操作すると、画面上に素描が何枚かまとまって出てきた。


「この上から2番目のがわかりやすいかな。

 身長差があるから男女の対比が出しやすくて、ここで違う方向を向いているのは互いの環境や思想が違うことを表そうと思って」


 滔々(とうとう)と流れ出る土田先生の言葉は、届く先から耳へと抜け出ていく。


 画面にあるのは、ワンピース姿のシーナとシャツとパンツスタイルの男性。


 シーナと並び立つと男性的な印象を強く受けるその姿は、ある意味、取り留めのない妄想の中の僕の姿だった。


「……シーナとこの人、またモデルをするんですか?」


「うん、妻が制作始めちゃったからね。

 あと、生徒さんたちからも評判がよくて。

 雅樹もシーナくんをモデルにして作品を仕上げるなら、絵画教室に来るといいよ」


「いえ、僕は」


「それに今週いっぱいまでの許可なんだ。シーナくんのモデル」


「え、そうなんですか?」


「さっき校長先生と話してね。再来週からシーナくんの女子高で中間試験が始まるし、その次はこっちが中間試験だから。

 学技に支障のない程度のボランティアが原則だから」


「……そうですね」


「絵画教室の方ならバイト代も出せるし。

 敬老の日も合わせて3日連続で疲れさせたみたいだから、今度から1日中はさせないよ。半日ずつでお願いしてみるよ。

 あ、これはシーナくんが回復してから話すから、雅樹はお見舞いに専念してくれよ」


「はい」


「美術部のみんなにも言っておくから。具合がよくなってからだから……今日が火曜で、金曜は秋分の日で休みだから、治ったとしても明日と明後日の2日だけだな。

 今までに書いたものの見直しと反省かな、まずは。

 あとはシーナくんの体調次第だから…今週ダメそうだったら、来週に一度だけ許可が出ないか校長先生に頼んでみるよ。

 あ、くれぐれもシーナくんの体調が優先だから」


「はい」


「素描なら仕上げられるが、それ以上のだと……試験前と試験期間を考えると、文化祭には間に合わせるなら……うーん。水彩画でなら今から準備すればなんとかなるかな」


 土田先生はそう言って、卓上カレンダーをめくっていた。


 10月の第2週と第3週が僕たちとシーナでそれぞれ試験期間で潰れる。


 文化祭は11月になってすぐだから、テスト期間の部活休みを考えると1ヶ月も使えない。


「シーナくんを必ず描かないといけないわけじゃないが……雅樹はシーナくんで作品制作するんだろ?」


「そのつもりですが、あんまり自信はないです」


「いいんだよ。とにかく描き上げて。雅樹が見ている世界が見えるなら、それで成功なんだ」


「僕の世界ですか?」


 土田先生は嬉しそうに笑った。


「なんでここを強調するのかとか、なぜこれを描いたのかとか。色が加わると、それだけで違う世界が見えるから絵は楽しいんだ」


「そんなにうまく描けないです」


「雅樹が納得いくように描けばいい。それだけでいいんだ」



 何かが、すとん、と、胸に落ちた。



 そうか。


 それでいいんだ。



「名前が残っている画家ほど、自分の気が済むように描いているだけだ。周りの期待も希望も一切気にしない。

 ただ描きたいことを(えが)いた純粋な欲と想い。その濃密な世界に虜にされる」


「先生、ほんとに絵が好きですね」


「まあな。自分の絵だけじゃなくて、生徒が成長していく絵も好きだから絵描きだけじゃ足りなくて、教職についたし」


 照れたように笑う土田先生に、僕は心から感謝した。


 確かに部活で天野が言っていた通りだ。


 土田先生が顧問の美術部なら、描いてみたいと思える。


 下手でも失敗したと思っても、土田先生はそれを理解した上で褒めてくれる。


 それが成長の過程だから。




 シーナに見合う男の人になろうともがくのも、それでいいのかと思えた。


 気が済むまでやってみればいい。


 それだけだ。


 僕はすっきりとした気持ちで、職員室を後にした。





「あれ?雅樹、部活はー?」


「天野、今日は休み。あと、シーナも休みだから」


 放課後、美術部とは反対の方向に歩いている僕に同じ部員の天野が話しかけてきた。


「土田先生には言ってある。あと、シーナは明日明後日来れるか今のところ分からないから」


「え!シーナ先輩もう来ないの?!」


「うーん、体調戻ったら……」


「あぁ、そうなんだ。お大事にって言っておいて」


「うん、分かった」


 それじゃあと言って、天野と別れて階段を下りようとした時、ちょうど武田さんが階段を下りてきたところだった。




(*´ー`*)花粉がすげえ…霧かと思ったら花粉だった。


いよいよ来週、シーナが牙を剥く…?!


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[一言] 土田先生、いい先生や( ˘ω˘ )
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