9・週明けの月曜日は面倒くさい①
「……シーナ。歩くのが遅くなるから、もうちょっと離れて」
「やだ」
「朝の時間は人の邪魔になるから」
「い・や!」
「え〜……」
困った………。
いつもより、家を出る時間が遅くなった月曜の朝。
通勤通学の時間帯を2人で並んで歩くのは、あぶない。
いつもなら、手を繋いで前後にずれるとか、もう少し距離をとって歩いていけるのに。
今朝のシーナは、僕の腕をとって離そうとしない。
ぎゅうっと、両腕を僕の左腕に巻き付けてくる。
ガードレールもない歩道は、2人並んで歩くと危ないのに、シーナは絶対に離れようとしない。
なんだっけ、これ。前にもあったな。
えーと……。
あ、大河と仲良くなった頃だ。
3人で帰るたびに、シーナが腕を組んできてたんだった。
あの時は、どうしたんだっけ。
帰りに大河も一緒に僕の家に来て、3人で遊んでから、元に戻ったんだっけ……。
んー?
あの頃、特に何かあったかなぁ。
たぶん、シーナが大河に慣れただけかなぁ。
今では2人だけで、ふつーに会話とかしてるみたいだし。
うーん。
似てるけど、大河の時とは別だよなぁ。
たぶん。
原因はさっき麗香さんに絡まれたことだろうし。
あとは、カレーなのかなぁ……。
ふうっと、息を吐く。
とりあえず、腕に絡みついたシーナをなんとかしないと。
シーナ相手に関節技とかできないし。
うーん。
少し前から目をつけていた電柱を通り過ぎる。
踵を中心にくるりとターンして、空いている右手を電柱にあてる。
シーナを電柱と挟んで、閉じ込める。
「ま、雅樹??!」
正面に顔がきて、驚いたシーナが目の前に見える。
顔を近づけると、シーナが慌てたように目をつぶる。
僕は勢いを止めることなく、顔を近づけて、軽く頭突きをした。
「きゃっ!」
シーナがとっさに両手を僕の腕から離して、額部分にあてる。
「はい、捕まえた」
その手をつかみ、シーナが再び腕に巻きつく前に、僕は早足で歩き出した。
昨日、玉城さんの肘打ちをくらったお腹にじんわり痛みを感じるけど、胸をはって急いで歩く。
「雅樹、ひどい! それに早い!」
「シーナのせいで遅いの!」
「もお〜!雅樹のばか!」
シーナを高校まで送り届けてから、中学まで戻るのは、それなりに時間がかかる。
早めに家を出てちょうどいいくらいなのに。
朝に麗香さんにつかまったのが、遅くなった原因だ。
「おはよ〜、雅樹」
朝の迎えに玄関へ出てきたのは、麗香さんだった。
「シーナ、カバン取りに行ったから」
「おはようございます」
寝起きのはずなのに、化粧をしたように見える麗香さん。
すっぴんの方が怖くなくていいんだけどなぁ。
「夏樹はどうしてる?」
「あ、死んでます」
昨夜の酒と、麗香さんの彼氏できた発言で、二重の意味で息をしていない。
シーナの髪を切った美容師さんが新しい彼氏だそうだ。
シーナによれば、とてもいい人だそうだけど。
「なんだぁ。帰るんだったら、一緒に新幹線に乗ろうと思ってたのに」
「……いやぁ、無理じゃないですかね」
忘れられないから、麗香さんと会わないように帰省して。
それでも何度も恋に落とされて。
その度に、何度も失恋地獄に落とされて。
我が兄ながら、気の毒すぎる。
国語の問題集で解いた、片想い相手が玉の輿で失恋エンドの話。そのまますぎて笑えない。
「そんなに二日酔い、ひどいのか。
じゃあ、仕方ないなー。
……で、今度、雅樹は部活の後輩女子の家に、遊びに行くんだ?
へえ〜」
にやにやと紫眼の目が細められる。
「……今日はカラコン、紫なんですね」
「村崎さんの書籍発売の日だからね」
「へぇー、そーなんですねー。それは楽しみですねー」
「で、その後輩はかわいいの?」
話を逸らして逃げようとしたら、肩を掴まれた。
なんだ、まだ酔いが覚めていないのか?
朝から酔っ払いに絡まれている気分になったが、この人、この状態でシラフだからタチが悪い。
「さあ。あんまりそういうの分からないんで」
「シーナと悠河ちゃん、タイプとしてどっちに似てる?」
「………いえ、どちらも違うかと」
「ほぉ〜、そうか。じゃあ、かわいい系か。きれい系じゃないのか。
それは楽しみね。今度服着せて」
「いえ、結構です」
「じゃあ、お饅頭大会の様子見たいから、画像送って」
「僕、スマートフォンじゃないから」
「悠河ちゃんに頼んだら、タブレット貸してくれるって。
あとはシーナか悠河ちゃんに送ってもらうから」
「……ちっ」
「お、今、舌打ちしたわね」
「してません」
「シーナに黙って後輩女子のカレー食べるくらいには図太くなったか。
うんうん、いーんじゃない?」
「……雅樹、カレーって、何?」
麗香さんの後ろを見ると、カバンを持ったシーナが立っていた。
「え、昨日言ってたじゃん。
お饅頭大会開催が決まった経緯。
ワイン飲みながら聞いてたけど、言ってたわよ。
あ、あ〜、シーナったら、ショックで聞いてなかったの?
ふふふ〜、いいじゃない。
他の女の子と仲良くなって、見識を広めてきなさい、雅樹」
麗香さんはそう言って、拳を作った後に、ビシッと親指を立てた。
(*´ー`*)作中の村崎さんは、村崎羯諦様『あなたの死体を買い取らせてください』(https://book1.adouzi.eu.org/n4356gx/)の発売日がちょうど今日だったので、つい出来心でぶち込んでみました。




